ラブコメっぽいラブコメってこれでいいですか? ~KAC20201用短編~

白石 幸知

童話「見ていてイライラするいちゃつき劇」

 むかしむかし、東京は八王子というところに、ひとりの男の子と女の子がほぼ一緒に住んでいました。男の子はそこに住んでいますが、女の子は週の半分以上を男の子の家で寝泊まりをするような、そんな関係です。


 女の子は男の子よりひとつ年上で、今年からあるところで働いています。仕事はとても大変なようで、いつも朗らかな笑みや緩い口調がチャームポイントである女の子は、日に日にその表情を曇らせていきました。

 それでも、女の子は大学に通う男の子との時間をとてもとても楽しんでいるようで、一緒に過ごすときにはそれはそれは見ているこちら側が恥ずかしくなるようないちゃつきっぷりをしていました。膝枕にお酒に酔って介抱させたり、ホラー映画を見て怖がって抱きついてきたり、挙句の果てにはひとりでトイレに行けなくなるほど。仕事の憂鬱さも、男の子と過ごす時間で振り払っていたのでした。


 これで女の子と男の子はただの先輩後輩っていう関係らしいのでどれだけヘタレなんだよって思います。


 しかしあまりにも釣り合わないいちゃつき具合にイラつかされた男の子の幼馴染は、怒りに怒って女の子と男の子を引きはがしてしまいました。

「見ていて不愉快なので、ふたりはしばらくボッチで過ごしてもらいます。次に会えるのは四年後ですからねっ」

「そ、そんなあ」

 結局、幼馴染の子の決定は覆ることはなく、女の子は男の子と会うことができなくなってしまいました。女の子はとても男の子に依存をしていたようで、みるみるうちに元気がなくなっていきます。


 男の子も男の子で、静かになった日常に安心こそすれどこか物足りなさを感じます。アニメを見ていても、漫画を読んでいても、どこか片脇にいつもいたはずのじゃれついていた女の子のことを考えてしまうのです。

「……こう静かすぎるのも気持ち悪いものだなあ」

 男の子の口からこういう感想が出てくるのは時間の問題でした。四年間会えないというのはあまりに厳しいもので、そのうち男の子の家には栗を象ったもので溢れるようになりました。冷蔵庫を開ければモンブラン。冷凍庫のなかには栗が入ったアイス。ベッドの上には栗型のぬいぐるみなど、数をあげればきりがありません。

 そして男の子も後を追うように大学を卒業して、これまたとあるところで働くようになります。色々な人に悩みを持ちかけられる体質からか、たくさんの人とコミュニケーションを取り、中にはそれなりの関係になった人もいましたが、どうしてもあの女の子のことを忘れることができません。なんだかんだで、男の子は女の子との時間を楽しんでいたのです。表面上はそんなでもなかったのですが。


 そして迎えた四年後のある日。とうとう女の子と男の子は幼馴染の子によって会うことを許可されます。

「うう、会いたかったよー」

「ちょっ、いきなり抱きついて来ないでくださいよ……、ひ、人が見ているんですから……」

「えへへー、懐かしい匂いだなあ……くんくん」

「……こうあからさまに匂いを嗅がないでください。恥ずかしいんで」

 人目をはばからずにふたりは幼馴染の子の目の前で盛大にいちゃいちゃし始めます。しかし、いちゃいちゃするだけで、全然肝心の関係性は変わりません。

 それにまたまたイラっときた幼馴染の子は再びこう言うのでありました。

「全然学習していないみたいなので、また次に会えるのは四年後ですねっ」

「ええ、そんなあ」

 幼馴染の子によって無理やり体を引き離されたふたりは、再び四年という長い時間を会えずに過ごすことになったのでした。

 余談ですけど、男の子の家には、ますます栗関係のものが増えたそうで。

 めでたしめでたし──


「どこがめでたしなんだ、綾。っていうかなんだこれは。なんでおとぎ話調で僕と栗山さんのことを話しているんだ」

 僕は一人暮らししている部屋の床に、幼馴染の綾から読み聞かされたノートを叩きつける。

「だって、いつまでたってもよっくんと栗山さんが付き合わないんですもの。こうでもしないとくっつかないんじゃないかって」

「だからってここまでしなくてもいいだろう?」

「じゃあ、よっくん。さっさと自力で栗山さんをお付き合いを申し込むか、私がよっくんと栗山さんの目の前でこの童話を読むか。選んでください。ちなみにどちらも選ばない場合は、よっくんのえっちな本の中身を不特定多数の人にばらします」

「ちょっ、そ、それだけは勘弁してって」

「……それとも、この童話みたいに本当に四年に一度しか会えなくしましょうか? いいですよ? それでよっくんが本気になるんだったら、私は二人のために鬼にだってなります」

「……わかりました、自力でどうにかするので色々と許してください」

 ……最後まで、僕は幼馴染に頭が上がらない。

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ラブコメっぽいラブコメってこれでいいですか? ~KAC20201用短編~ 白石 幸知 @shiroishi_tomo

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