迷宮編

第157話 7つの徳、7つの罪

《旧誓書 聖王アドモの約束》

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人々よ喜ぶがいい、佳き知らせである。

私はあなた方のために王国を建てようと思う。

あなた方はその王国で文明に包まれて生きてゆくのである。


人は、文明の中において初めて人たり得る。

そのためには、人は7つの徳を持たなければならない。


一つには、正義である。

 それは人々を集めて団結させる。

一つには、仁愛である。

 それは人々を互いに協力させる。

一つには、栄光である。

 それは人々に自己犠牲を厭わなくさせる。

一つには、探求心である。

 それは人々をより高みに向かって登らせる。

一つには、富貴である。

 それは人々に明日への貯えを励ませる。

一つには、智慧である。

 それは人々に思慮深い行いを為さしめる。

一つには、憧憬である。

 それは人々を互いに切磋琢磨させしめる。


この7つの徳により、人々は高い文明を、豊かな王国を築くことができるのである。

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《新誓書 旅立ちの章》

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暴虐の法は、あなた方に憤怒の鉄拳を振るう事を楽しみしている。それが彼らの正義なのだ。

暴虐の神官たちは、あなた方の子女を好色の餌食にしている。彼らはそれを仁愛と呼んでいる。

暴虐の騎士の栄光?それは、あなた達を蹂躙してきた事を傲慢にも誇っているだけではないか。

暴虐の学究が探求しているものは、強欲にもあなた方からまだ奪い取るものは無いかと目を見張らせているということだ。

暴虐の豚共は、富貴のふるまいだと言って暴食に歯止めがなく、あなた方を貪り続ける。

暴虐の学徒のいう叡智とは、慎重でなければならないと言いながら、その実自分が怠惰に過ごすことを考えているだけだ。

暴虐の市民たちは羨望ではなく、あなた方を嫉妬の目で見ている。自分よりも優れた処が少しでもあってはならないと。


彼らは言う、"劣ったお前達は人ではない。人とは優れた私達のことなのだ"と。


神が人よ人であれとその魂に祝福を与えた故に人なのである。

人は神の祝福を喜び感謝するがゆえに人なのである。


それを定めたのは大神様なのだ。それを自分達で好き勝手に決めつける。

この王国は腐りきって、まさしく暴虐が満ち溢れている。


さあ、このような腐りきった暴虐の王国を棄て去ろう。

清らかな北方の地には、ヌカイ河の大いなる流れの向うには、新生の地、希望の地であるヘルザが広がっている。


そこに我らの王国を創ろう。

そこに神の王国を建てよう。


聖ネンジャ・プは人々にそう訴え、人々と共に王国を棄てて旅立った。

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《長老ピピンと勇者イヤースの往復書簡 最終稿》

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長老ピピンへ


長老ピピン、あんたに伝えたいことがある。

7人目の邪神についてだ。

俺はそいつを見つけ、そいつを斃した。

これにより、残された運命・・・それが神命の本質だった・・・を全うする事が決定した。

大迷宮の奥底に行かなければならない。それが、神の定めた運命だ。


前にネンジャ・フンが最後の邪神との戦いで斃れたことを伝えたように思う。長年、俺の側に居て助けてくれた戦友だ。

だが、蘇っていた。

「ネンジャの名を持つものは、ひとたび死んでも記憶を残してまた蘇る。」

その蘇ったフンが7人目の邪神だった。


ヤツは言った


「邪神は王の使い。王の試練。王の恵み。

邪神を斃して7つの力を与えるために。

正義・仁愛・栄光・探求心・富貴・智慧・憧憬、この7つの力を与えるために。


・・・それをネンジャ・プに与え、そしてネンジャ・プを王の息子、つまり王の後継者にするために邪神を派遣した。


でも、ネンジャ・プはそれを拒んだ

・・・なぜなら、友であるオレがその事を教えたから。王の意図を教えたから。


イヤース、既にお前は6つまでその力を手に入れた。

今、俺を倒して最後の力;『正義』を手に入れて、7つの力を全うしろ。

そして、迷宮の奥底に行き、お前のさだめを全うしろ。


そこには、『選択』が待っている。世界の運命を定める選択だ。

それがお前に与えられた神命だ。


・・・大神様が、そう言っていた。」


だから蘇った最後の友、ネンジャ・フンを斃した。

・・・そして、迷宮の奥底に行き、『選択』とやらをしてこようと思う。


                放浪者イヤースより

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《長老ピピンと勇者イヤースの往復書簡 最終稿》

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勇者イヤースへ


まず初めに君に謝らなくてはいけない。たぶんもう、この手紙が最後になってしまうだろう。

僕の時間はほとんど残されていないんだ。刻一刻、砂時計から砂が流れ落ちて、もう残り少なくなっている・・・最後の砂粒がもうすぐ落ちてしまいそうな事、その事を思い知らされている、それが今の僕なんだ。


さて、最後に忠告する事、それは“君は人だ”という事なんだ。君がいかに強い力をもっていても、邪神を斃して正義・仁愛・栄光・探求心・富貴・智慧・憧憬の力を手に入れても、それでも・・・君は人なんだ・・・神にはなれない・・・その事を忘れないで。


君の最後の冒険がどんなものになるのか、僕には想像もつかないよ。でもその冒険の先には『選択』、世界の運命を選ぶ時が来る。

その時に思い出してほしいんだ、君は人なのだという事を。人として道を選ばなくてはならない・・・それ以外の選択をしてはいけない。君の持っている強大な力に溺れて、自分が人であることを忘れた時、もう君は君でなくなってしまう。その時の君は強大な力の入れ物でしかなくなる、抜け殻となってしまうんだ。


そもそも、正義ってなんだ、人の心の中では憤怒の裏返しでしかない。怒りの鉄拳を振るいたい、そんな衝動を正当化しているだけだ・・・そうだろう?。

仁愛だってそうだ、ただのスケベ心だよ。みんなから愛されたい、そんな自己中な気持ちを気取って仁愛だと言っている。

栄光?この世界にはそんなものはないよ。有頂天になって我を忘れてしまいる、傲慢そのものだよ。

探求心だってそうだ、強欲でもっともっと欲しいから探し求めている、そうだろう。

富貴なんて、いくら大喰いしても飽き足らずに醜くぶくぶくに太った有様、暴食の事じゃないか。

智慧?こんなものは、いかにしたら怠惰に過ごせるか、それを一生懸命に考えているだけじゃないか。

憧憬・・・まさしく嫉妬とどう違うんだ。


正義・仁愛・栄光・探求心・富貴・智慧・憧憬、そんなものは人にとっては欺瞞だ。憤怒・好色・傲慢・強欲・暴食・怠惰・嫉妬こそが人の真実なんだ。


では君の手に入れたものは何か、なぜそんなにも欺瞞が詰め込まれているのか?

分るかい・・・そこには罠の匂いがする。

だから、気を付けなくてはいけないよ。

確かな事は・・・君が人である・・・という事だけだよ。

それこそが真実なんだ。その事をくれぐれも忘れちゃだめだよ。


君が、大神様の加護と祝福と共にありますように。


老いぼれピピンより

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ようやく最後の章に入る事ができました。

拙い物語に、長い間お付き合いいただきましてありがとうございました。御礼申し上げます。

さて、いつもの事ですが・・・ここから先は、まだできておりません。

また、しばらくお待ち頂きたく・・・いつもながら申し訳なく思っており、できるだけ早く仕上げるようにいたします。


最終章は少しドロドロしていて読み辛くなると思いますが、結末はスッキリ大笑いできるようにしております。

結末はもうできておるのですが、途中が・・・。


と、いう事でまたよろしくお願いいたします。


追伸、作品名を変えようと思っています。

「ヘルザの旅の物語」なんてのは・・・ちょっとコッパヅカシイかな。



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衿瀬涼子の使徒紀行・・・異世界ヘルザは甘い世界ではなかった!!・・・旧題『エルフっ娘の異世界ハッピーツアー』 いなば @inaba_1

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