第156話 反乱
【勇者イヤースより長老ピピン宛の書簡】
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おれは今、一揆軍の中に居る。
何故かというと、謀反を起こしている連中が正しく、王国の連中が間違っているからだ。
この一揆が起きて早々に、その中に潜り込んだ。
何故こんなことになったのか?・・・それが知りたかったからだ。
そして、その実態を知った。
反乱軍!?
いや、そんな立派なモンじゃぁないな、一揆軍の砦の中にはなんと千人余りも籠っていたよ。しかし女・子供も含めてだ、あと老人を含めると半分以上が戦いに何の役にもたたん、そんなのだ。
そして、この一揆の中心人物は・・・なんと、しょぼくれた神父だ。
村の百姓どもと徴税役人の間を仲立ちしていた・・・というより、無理な税の取り立てを猶予してくれるように繰り返し繰り返し嘆願していた処、とうとう百姓どもがブチ切れた・・・挙句の果てに、祭り上げられてしまったというのが本当の処だわ。
で、王国の側がこの神父を反乱の首魁として「その首を差し出せ」って言ってきたから百姓どもは砦を作って籠った、というわけだな。
結局のところ、王国の傲慢・怠慢・独りよがり・無責任がもとで、人々に絶望をもたらして反乱となったわけだ。
だから俺は反乱軍の味方をすることにした。
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えっ・・・
【神父ウィルムより教皇ピピン宛の書簡】
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ネンジャ・プ様以来の叡智でもって人々を導く教皇ピピン様、わたくしは村の教会の神父をしておりましたウィルムと申す者であります。
此度の一揆の背景には、徴税役人の横領がありました。しかし、それは今に始まったことではなく、これまでも慣習として続いてきたことなのです。ただ今回は、役人の欲があまりにも強過ぎて村人たちの怒りが爆発してしまった・・・というのが真相なのであります。
もはやこのような事態となってしまっては・・・わたくし一人の処刑で済むのなら・・・それが最も穏便な解決法やもしれません。
しかし村人たちはそれを知るとかえって逆上してしまい、このような事態となってしまったのです。
しかし、砦の中に・・・まさか、あの人物がいるとは・・・まったく想像もしていませんでした。
王国軍の大軍が砦の前に布陣しました。そして、「ウィルムの首を差出せ。さすれば、追い散らすだけで済まそう。さもなくば、砦を取り囲んで根切りとするであろう。」と宣告してきました。ですから、私は首に縄をかけて王国軍の前にでようとしたのです。
しかし・・・砦の門に立った時・・・上空から大音声が聞こえてきました。
「王国は誰のものなのか、王や貴族のものなのか。
百姓は、王や貴族の財物なのか。
お前らがそこまで傲慢にできる理由が、いったいどこにあるのか。」
門の上には・・・一人の人物が宙に浮きあがって剣を抜き放ち、このように叫んでいたのです。
そしてそのまま王国軍の本陣の方に飛んで行き、そこに居た騎士達、指揮官たちを蹴散らしてしまいました。
まことに一瞬のでき事でありました。
そして、その本陣の方から叫んでいる声が聞こえてきました。
「俺の名はイヤース。邪神を斃したイヤースだ。
邪神を斃したのはお前たちではない。この俺だ。
お前たちの祖父とともに戦い、お前たちの祖父と共にこの王国を建てたのも、この俺だ。
ぼんぼんのお前らがそれを継承したからと言って、王だ貴族だと偉そうにできる資格なんぞ何もない。お前らに何の栄光があるというのか。
お前たちが贅沢にふけるために庶民から奪い取る権利、そんなものはどこにもない。
いつから、そんな法ができたのだ。
そんな身勝手な法を盾にして自らの正義を言うならば・・・
ならば・・・そんな法などは叩き潰せばよい。
そんな王国なんぞはもうヤメだ!
叩き潰す!」
何という事でありましょう、イヤース大王が居たのです、そして王国をつぶすと・・・。
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さあ、大変だ!
イヤースも終わり近くになって、こんな大騒ぎを起こすなんて。
いったいどういうつもりなの。
【テルミス教会大司教より教皇ピピン宛の書簡】
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とんでもない事になりました。
国王トルシー様が反乱鎮圧のために親征なさいましたが、逆に反乱軍に敗北。そのまま、王国の鎮圧軍は反乱軍の捕虜となってしまった・・・千にも満たない百姓の一揆に5倍の数の騎士・常備軍が・・・です。
そもそも、今回の陛下のやり様は些か無理筋を通すものではありました・・・徴税役人どもが結託して年貢を横領していたという実態があったのです。しかし、陛下は王国の無謬を主張なさり、周囲の反対を押し切って自ら親征なされたのです。
「施政にいかなる過ちがあったにしろ、百姓の分際で朕に歯向かうという事実は、それをはるかに上回る大罪である。」
と、何も斟酌する必要はないとして容赦のない措置を執るように決定なされました。
2代目の父王が病没された後、急いで即位なされたトルシー陛下は、その威勢を示すよい機会になるとお考えになったのでしょう。
グレンシー宰相閣下もそれを強く支持されていましたので・・・そもそもの汚職徴税役人の背後には党のグレンシー宰相がおられたとのうわさもあり、むしろ先導していたのかもしれません・・・もはや、誰も強く反対を述べるものはおりませんでした。
この様にして、5千近くもの大軍が集められての出征となったのです。全ての者は、これにてこの一件は終わったと思っておりました。
・・・それが・・・こんな結果になってしまうとは・・・
噂では、25年前に失踪したイヤース大王が一揆軍の中にあらわれたとか・・・そんな事があり得るでしょうか?
いや、イヤース大王は転生者と言われ、その長生は十分に考えられます。
しかし・・・よりによって一揆に参加するでありましょうか・・・いや・・・伝え聞くイヤース大王の行跡から考えると、それもありうる・・・だとすると・・・
一体、どうなるのでしょう。王国の未来はどうなるのでしょう!
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えらいこっちゃ、えらいこっちゃ・・・
テルミス王国は早々にここで終わり・・・そんなぁわけない。その後ちゃんと続いてんだから。
【長老ピピンより勇者イヤース宛の書簡】
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僕にはわかっているよ。
君は王などにはなりたくなかった。
でも、君になってもらう他なかった。ヘルザの人々の平穏と繁栄のために。
そして、君は努力した。忍耐強く諸侯や官僚達の相手をして、不器用ながら無責任な施政を許さなかった。
その結果、君は鬱陶しい王として煙たがられ敬遠される。昔の仲間たちもある者は去り、残った者も老いて物故してしまうと、君はもうずっと孤独の中にあった。
でも、君はそれに耐えて王国の礎石を築き上げたんだ。
そして、遁世した。
世間は大騒ぎになったよ。
でもその実、みんなホッとしていたんだ。うるさい王様が居なくなって。
これからは羽根が伸ばせるってネ。
だから、なんとなく気楽にやっていくことにしたのさ。
でも、それは『腐敗』ともいう・・・。
今、君はそれを知った。遁世して君のいない間に王国が腐敗してしまった・・・とネ。
だから、君は怒り、王国を叩きつぶそうとしている。
・・・そうだろう?。
でも、聞いて欲しい。
それでもマシだ。たとえ腐敗してしまった王国でもないよりはマシだ、ずっとずっとマシだ。
王国が無くなると乱世となる。そこには秩序がなくなり、村々は破壊されて山野に流民が彷徨い、街も破壊されて絶望した人々は盗賊となって割拠し始める。
沢山の人々が行き倒れて、餓死した死体がいたるところに散らばる様になるだろう。
未来を失った子供たちが売り飛ばされ、そんな子供たちは大人になると悪党となるだろう。
人が人を喰らう、そんな世界になってしまうだろう。
邪神時代とは違った地獄が現れるだろう・・・もしかしたら、もっと酷い・・・
だから、王国を潰さないで欲しい。
どうか、早まったことをしないで欲しい。
頼むよ。
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ピピンも慌てたのだろうねぇ~
なだめたり、すかしたり。
【勇者イヤースより長老ピピン宛の書簡】
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一揆のリーダーであるウィルム神父が、お前とおんなじことを言った。
俺のズボンのすそに縋り付き、俺の靴に額を押し付けて・・・
「王国を潰さないで欲しい。
・・・どうか・・・どうか、王国を恵んで欲しい。」
そう頼み込まれたので・・・王国を潰すことはできなかった。
しかし、
王と宰相の首、確かに取った。王・・・コイツは俺の孫にあたる。
こんな奴が王になったから、こんなことになってしまった。
死ななくてもよかった貴族・騎士・庶民・・・いや人間が大勢死んだ。
コイツのバカげた虚栄心と肥大した自尊心がこの事態を招いてしまった。
コイツは、いなかったことにする。
コイツにももちろん名があったが、その名を呼ぶことも禁止する。
コイツの血族・・・直系の王家も潰した。家族は全てテルミス教会の修道院に引き取ってもらった。
今後二度と、この家系を名乗る者は現れないだろう。
その弟のイェルツが次の王に就くことになった。
その補佐としてモルツ家を侯爵家に格上げして就けることにした。
モルツ司教の一番弟子がその名を引き継いだ家だ。
このモルツ某に、教団が提供してくれたヌカイ河商業ネットワークと、スミル神社の神人たちの管理も任せることにする。
これには裏がある。
この商業ネットワークを諸侯監視のためのスパイ網として機能させる。
スミル神社の神人たち。連中は邪神領の民から俺が選抜して育ててきた影の武力集団でもある。これをそのスパイ網の実力組織とする。
・・・そして・・・同時に王を見張る刃でもある・・・
モルツ侯爵家は、代々このスパイ網を管理する役割を負うこととなり、危険な家系となる。
だから、この家系に血縁の家督相続は認めない。養子相続のみとなり、この家の子供は別の家に養子にいくか新たに家を興すかのどちらかとなる。
以上だ。
それから言っておく。
俺が放浪しているのは、遁世・・・世間から逃げるためではない。
まだ、責務が残っているからだ。
この世界にやって来た時に、神から7柱の邪神の退治を頼まれた。
そう・・・7柱だ。
これまで斃したのは6柱だ。まだ一柱残っている。この世界のどこかに邪神が隠れて棲んでいる。
俺の本当の使命は、邪神退治だ・・・まだ、終わっていない。
だから、そいつを探して彷徨っている。
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結局の処、王国は存続・・・でも、その時の王様と大臣は首ちょんぱwww
それで・・・いなかったことにする・・・だってwww
そして、モルツ家と隠密による裏統治・・・今の体制になった、てわけ。
ちなみに、この事実は公にされていない。王室メイドしていた時も教えてくれなかった。国王トルシーなんて名前は綺麗に消されている。そして、イヤースが大暴れしたことも。
でも・・・イエナー陛下やモルツ侯爵のひねくれっぷりを見ていると、この歴史を知っているんじゃなかろうか。だから、普通の貴族や官僚を信じていない?
・・・いやいや、当然知っているよね、自分の家の事なんだから。
邪神の『力』、これは私の体の中の7つの力と多分同じものだ。その使われ方が、よく合っている。邪神→イヤース→私ってきたことになるんだけど・・・でも6つまでしか確認できない。私のは7つだから、やっぱり別物かしら。
それで、イヤースはその特別な力をけっこう派手に使いまくってるけど、それは背後にピピンが居たからできたのであって・・・そうでなかったら魔王だの人類の敵だの言われてたろう。私にはそんなマネはできない。
それにしてもピピンって・・・たいした黒幕だ。
イヤースを勇者としてプロデュースし、その勇者を核にして王国を作り、そこへ教団から官僚を大勢送り込んで国家体制を作ってしまい・・・つまり、イヤースは教会の掌の上で転がされていた・・・と言うことになる。
まあ、そこに私利私欲なんてのは入る余地は無いんだけど。
いや、それだけではない。聖ネンジャ・プにしても、「魔術師ネンジャ・プから救世主ネンジャ・プに昇格させるんだ」なんてこと書いていた・・・新世界ヘルザって、ピピンがプロデュースしたって言っても、大きな間違いはないんじゃない?
この一冊、『ピピン‐イヤース往復書簡集』を一通り読んで、図書館の閲覧室から帰ろうとしたら、司書長に声をかけられた。少し話があるから帰るのを待って欲しいと。
閲覧室で待っていると担当の司書と司書長の2人が入ってきて話し始める。
「いかがでした。神命の遂行にお役に立ちますでしょうか。」
「ええ、参考になりました・・・が、本質的な処は・・・残念ながら記載されていませんでした。」
「本質・・・神命に関してでありますか?」
「はい・・・」
「少し立ち入ったお話を伺ってもよろしいか。あなたが受けられた神命についてです。
ええもちろん、3人を超えて神命について話し合ってはならない、との戒めは存じております。ですからこの3人の間だけの間の話でですが。」
もちろん構わない。
「神命とは、いかがなるものでありましょうか。」
ズバリと訊いてきたきたが、その答えはもう定まっている。
「バルディの大迷宮の奥底に赴くことです。」
そう、その奥底で『選択』をしなければならない。しかし、それは秘密だ。ほかの人々にあまりにも大きな不安をもたらすからだ。
「その迷宮の奥底に行って、何をなさるのです?」
だから、それには答えられない・・・
「その問いには、答えられません。」
そう言うより他ない。
「・・・それは、世界の運命の『選択』ではないですか?」
えっ・・・なぜ!
なぜ、知っている!
驚いて絶句していると・・・
「その様子では、その通りの様ですね。
ここまで読んでいただいた書簡の原本は門外不出ではありますが、その内容すべてが秘密というわけではありません。テルミス王家にとっても、他のヘルザの人々にとっても大事な歴史資料でありますから。慎重に内容を吟味したうえで、抄録を作成してそれなりの公開をしております。
しかし、“最終書簡”と云うものがありまして・・・これに関してはまったくの秘密であります。文書管理に責任を有する数人の者以外はその内容・・・いえ、その書簡の存在さえも知りません。
それは・・・使徒とはいえ、たった一人の人間の選択で、世界の運命が決定される。まったくもって衝撃的な事実と言わざるえない、当然でありましょう。
それ故に、最終書簡・・・そこにはまさしく、その事について書かれてあるのですが・・・それゆえにそれを秘密にしてまいりました。
決して、使徒以外のものには知らせてはいけない。
なぜならば、その事を知った人々は使徒の妨害をするやもしれないから・・・いえ、神命を邪魔する者が必ず現れるであろうから。
故に、最後の書簡をお見せする前に、あなたが真の使徒であることを確かめたかった。
ですから、あえて立ち入った事をお聞きしました。
ですが、微かな懸念も晴れました。
あなたに最後の書簡の閲覧を許可いたします。もう2~3日の時間をください。
用意するのに手間がかかるのです。」
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