命懸けの入学試験【4】

「今宵、皆に集まってもらったのはほかでもない、今日こそアガルタ学園の成立の日であるからだ。君たちは1期生ということになるな。私は創立にあたり学園長を務めさせてもらうこととなったルイ・シャンデルだ」


いきなり響いたその声の主をだれもが探した。…が見つからなかった。否、その女性は確かに存在していた。集団の中、わずか少数がその天井を見上げていた。


「君たちはまだ知らない。知らなくて当然。知らないまま死んでいくものだっているんだ。でも君たちは知らなくちゃいけない。太陽の光を浴びたこともなく、夏の何もしていなくても汗がにじみ出てくるような猛暑も、冬の耳が千切れ全身が震え上がるような極寒も味わったことがない。ましてや、そのような厳しい過酷な現実だけではなく、そのような中で人々を安堵させる自然の美しさも知らない。春の満開の桜や秋の色とりどりの絵画ような紅葉もだ。君たちに私の言葉の意味は理解出来るかい?それすらもすべてがこの世界の選択なのさ」


学園長の言葉にだれもが驚き戸惑っただろう。僕にはその言葉の意味が分かるように気がした。世界の選択とは何なのか、知りたいと思ってしまった。


「ところで、私の位置からこの会場にいるすべての人間が確認できる。うん、やはり少し多いな。そこで、私が二〜三分で考えた入試試験を行おうかと思う。それを突破できたもののみ、入学を認めよう」


会場にどよめきが走る。人々の中には様々な感情がほとばしる。期待・興奮・勇気・緊張・不安・絶望…。各々の感情を胸に秘めていた。そこへ、一人の少年の声が響いた。


「お、お、おい、みんな! 上、見ろよ! なんかおかしくないか?」


とてつもない違和感。

その天井は確かに暗がりに包まれていたはずだった。

しかし、今現在、誰もがその全貌を捉えることができる。

天井が下がってきているみたいだ。いや、そんなことが有り得るはずがない。

その中に一人の人間を見つける。その容貌を、初めて見たらだれもが女性だと判断する。しかし、よく見るとかわいげのある男性のようにも見えるその中性的な女性は、ゆっくりと口を開いた。


「おやおや、ようやく気付いたのかい? 遅いぞ、遅すぎる! 君たちの能力は、そんなものではないはずだ。これ以上話しても意味がないな。さあ、さっさと始めよう!」


その言葉とともにルイ・シャンデルは何かに命令するかのように手を振った。


ゴゴゴゴゴゴォォォォォォ…


さらに天井が下がる。表面も崩れて落ちる。落ちてくる岩石でつぶされる人もいた。それも少数ではなく、かなりの数。

慌てふためく雑踏の中、再度女性の声が聞こえてくる。


「こちらは死者が出ることも厭わない。だが、とにかく生きろ。限界を超えろ。期限は丸1日。明日のこの時間までに学園の校舎があるライムストン洞窟に集合だ。健闘を祈る!」


こうして僕ら、アガルタ学園第1期生の入学試験は始まった。

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モグラ〜世界最強の種族〜 神田 善太 @Kanda-Rori

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