命懸けの入学試験【3】
己の世界に入っていた僕に、まるで天使のような囁きが聞こえてきた。
……はっっ!!
「モール・ダグザです!」
「エキナ・アンダストラですっっ!!」
突如現実に帰ってきた僕と少女の交わした会話は、一秒にも満たないほどの速さで行われた。
「あ、身体の方は心配ないよ。こう見えても割と鍛えてるんで」
「あ、そうなんですか? 全然そうは見えないですね。あ、でもだからさっきの体捌き、あんなに凄かったんですね!」
よく言われる。身長が小さめだからだろう。対する彼女の身長は、先ほどまでは座り込んでいたので分からなかったが、僕と同じくらいか少し小さいくらいだ。
……よし、僕の方が高い…ちょっとだけ…微妙…。
「大したものでもないよ。それより自己紹介でもします??」
「そうですね」
今までの感じ、かなり好みな性格をしている。もっともっと仲良くなれそう。こういうのは自分が話題を作って行くのが大切なんだと思う。
「趣味は読書と探検ですね〜」
「え、私も読書好きです! 」
お、意外な共通点発見! どんどん深堀していくが吉。
なぜだろう、女性関係は大したこと無かったはずだけど、何をすべきかが頭の中に浮かんでくる。
「そうなの!? どんなの読むの??」
「えっと、ベンディゲイドブランの『マビノギオン』が大好きです!」
「いいよねー、ベンディゲイドブラン! なんというかかなり知的な文体で、面白いんだけど、何回も辞書使ったよー! 」
「そうなんですよ! そういうところがとても魅力的で何回も読んでます!」
自分から語る彼女はかなり愛らしい。本当に読書が好きなんだろうと良く感じられる。続いて僕の方からも語ってみるとしよう。
「僕はあんまりこだわりがなくて・・。ファンタジー的なお話が好きなだけかな! 図書館にある本なら基本的に全部読んでるよ!でも『禁書の間』だけ読めてないのが気に食わないー!!!」
「あー、なんなんでしょうね、『禁書の間』って」
おお!! 食い付いてきたね。いい感じに進んでる。
「僕の見立てだと、この世界の秘密に関する本とか置いてあると思うんですよね」
「なんでしょう? それ。とても気になります!」
この仮説はかなり真剣に考えている。子供の頃の経験から、知らないことがたくさんあると知ったからだ。
あの経験以来、本を読み漁った。
だが、秘密に関する内容はどこにもなかった。あるとすれば『禁書の間』だけなのだ。
「じゃあそれはまたの機会で」
「えぇ!酷いですー!」
ちょいとここでいたずらをしてみる。こういうのも大事なんだと思う。
「モールさんって面白い方ですね!」
「ありがとうございまーす! こちらも呼び捨てアンドタメ口でおっけーですっ!」
よし! これはかなり好感度アップしてるだろう! この調子で頑張ろう! ちょっとしんみり系の話もしてみてもいいかもしれない。
「じゃあ、エキナ! 次は僕の小さい頃の経験を話させて頂きますね。ちょっと長くなるかもしれないよ〜」
「分かった! モールの話、とっても気になるー!」
興味持ってくれて嬉しい限りだわ。エキナの話も聞いてみたい。まあそれはおいおいかな。
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その時、鍛え上げてきた僕の第六感が命に関わりそうな程の危険を察知した。
「エキナ、やばいかも。気をつけて! 僕の傍から離れるんじゃないよ」
「う、うん!」
未だ危険に気づいた者は少ない。まだまだ各々の近くにいる同じ境遇のメンバーと談笑に耽っていた。
期待と不安の香りのにおいを含ませた皆の喧騒の中。凛とした女性の声が、夏の猛暑の中の風鈴のように響き渡った。
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