第2話 安寧の日々
その1
セレナがやってきてから3日が経った。
リンドウはオリガと一緒に、兵舎へやってきていた。
「さて──」
目の前に居るオスカーの声は沈んでいた。
「私がここに来た理由が分かるかね?」
「例の本──教団から奪った本について何か分かったんですね?」
答えたのはオリガだ。
リンドウは黙ってそれを見ている。
「ああ、大体のことは分かった。それが良い知らせかは分からんがね」
「いったいどんなものなのです?」
「言うなればカタログだな。ここに記された呪文を唱えれば魔術が発動する。あらかじめこの本に魔力を込めて使うようだ。つまり使用者は魔力を必要としない」
「・・・・・・厄介な代物ですね」
「そうとも。優れた魔術師は戦場において並の兵士10人分の力を発揮する。この本はそれほどの戦力を誰にでも与えられるわけだ。君たちが地下の遺跡で戦った時、敵は全員この本を持っていたと言っていたな?」
「はい」
「ならば甘い幻想は廃し、敵兵は全員、この本を装備していると考えるべきだな・・・・・・。いや、それよりも厄介なのは本を持たぬ敵の方か・・・・・・」
オスカーの声は尻すぼみに小さくなった。
「どういうことです?」
「この本が必要でない者。それはつまりこの本に記された魔術など要しない、強力な魔術師ということだ。それにこの本を使う敵の攻撃手段は予想できる。手元にサンプルがあるのだからな。だが本を持たぬ相手は、未知の戦法をとってくる。君たちも本を構えぬ相手と戦う時は気をつけたまえ。それから──」
部屋を出て行こうとしたオスカーが、振り返った。
「例の少女のことだが、気をつけろ。あの子が大賢者復活の鍵と知れたら・・・・・・。火事を防ぐには火種を摘むのが一番だからな」
セレナを殺すことで大賢者の復活を阻止する──そう考える者が現れるとオスカーは警告しているのである。
「・・・・・・軍ではその意見が支持されるでしょうね。いつまでもあの病院に彼女を置いておく訳にはいかない」
「正しい物の見方だ。彼女を
「はい。ひとつだけ。彼女の容体も安定してきました。今日にでも移しましょう」
「うん。出来るだけ早い方がいい。」
オスカーは軽い調子でそう言うと、部屋から出ていった。
「相変わらず
「セレナのことも当然話すんだろ?」
「ああ。だが心配するな。陛下ならあの子を殺そうなどと決してお考えにならない。保証する」
「俺もあの王様ならそうは言わねえと思うが・・・・・・。気をつけろよ、他に誰が聞いてるか分かりゃしねえ」
リンドウはそう言って部屋を後にし、オリガも間もなく王宮へ向かった。
宇宙海賊は異世界でも笑う 狒狒 @umeda06
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