桜の季節がまたくれば

古出 新

桜の季節がまたくれば

「わあ、もこもこのハンディモップみたい」


どうやら目の前にある桜を讃えて言ったみたいだ。


それはなんとも風情のない表現かもしれない。でも、言い得て妙でそれ以上の上手いたとえが見あたらないのだから仕方がない。


かつてお城のあったこの場所は、現在いまは花の名所で知られている。


戦好きの物々しいお城は、以外にも垢抜けたお洒落さん。

桜に始まりツツジに藤と、季節にあわせて慌ただしく衣装を変えてゆく。


あたり一面に漂う柔らかく甘い香り。花見客の笑い声が上がる。


日中は薄紅色に埋め尽くされた花のアーチ。

夜には闇に浮かぶ桃色の花も、また風情があっていいもの。



石垣に薄紅の花弁が、ひらひらと。


月あかりに照らされ、はらはらと。


ふわりと流れる風にのり、ほのかに甘い香りが鼻先をかすめる。


小さな花弁は前を歩くあの人の、艶めいた髪の上をはらはらすべり、夜の闇へとのまれて消えた。


花は絵のように止まる事はなく、はらりひらひらはらはらと、次また咲くため散ってゆく。


「綺麗だね」


あの人が振り返り、儚げに微笑んだ。



花も葉も残らず散って無くなれば、あらたな花が咲くだろう。


桜の季節がまたくれば。

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