後編
俺の手の中にあったのは、熱々の『お汁粉』缶だった。
冷たい清涼飲料水のボタンを押したはずなのに、これが出てきた。
自動販売機業者が中身を入れ間違えたか、見本の入れ替えを忘れたのだろう。
いずれにしても表示と中身が違っているのだ。
「ちぇっ」
裏切られたような気分になって、俺は舌打ちをした。
釣銭返却口に指を突っ込んでも何もない。
下を覗き込んでも何も落ちていない。
それどころか、古いせいでどこかに穴が開いているらしく、水が滴っている。
「まったくよぉ」
古ぼけた自動販売機を『団地妻』に擬人化して妄想を楽しんでいたことが、ひどく馬鹿げたことのように思われる。
俺は、自動販売機の表面にが管理会社の電話番号が貼られていることを確認してから、のどの渇きが耐え難かったので、別なものを購入することにした。
自動販売機は内蔵されたコンプレッサーがちょうど起動しているのか、微かに振動している。
俺は、「冷たいペットボトルの清涼飲料水」であることを十分確認しつつ、別なボタンを押した。
「現金を投入するか、電子マネーカードでタッチしてください」
という人工音声が流れたので、少々手荒にスマートフォンをタッチパネルに押し付けると、
「ピッ」
という電子音とともに、取り出し口の奥で、
「ごとん」
という音がした。
やけに音が硬い。
俺は慌てて奥に手を差し込む。
そして、その先にある想定外に熱いものに触れた。
「な、ん、だと……」
俺は焦って中のものを引きずり出す。すると――
俺の手元には、本日二つ目のお汁粉が残されていた。
( 終わり )
裏切りの街角――偽りの選択肢 阿井上夫 @Aiueo
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