水の街
夏野彩葉
プロローグ
A.フェルナンデス氏の日記
太平洋を遥か西に進み、やっと辿り着くことができる海に閉ざされた列島。古くはジパングと呼ばれた土地だ。今は日ノ
国王に謁見することが認められた。
王宮は開国直後に建てられたものらしい西洋風の建造物であり、従者たちも燕尾服に身を包んでいた。
国王は、もとは名門貴族であった
国王はやはり第一王女の芙希子さまを殊の外可愛がっていらっしゃるようであった。話の途中で芙希子さまをお呼びになり、十二歳になったという彼女を我々の目の前で膝に乗せるほどであった。非常に有意義かつ愉快な時間だったが、王妃や他の王位継承者の謁見がかなわなかったのが残念だ。
議会が渋っていたという、学校への視察許可が予想より早く下りたのは幸いだ。
六歳からの九年間が男女共に義務教育というのは、世界中どこを見てもこの国くらいだろう。列車の線路に沿って新明濱をはじめとする八か所の大都市に
この国の子供たちは、まず生まれると二週間以内に役場へ届け出をされることになっている。医者の入念な診察のあと、健康なら親元で育てられるが、異常が見つかれば病院に併設された施設で育つことになる。幼児教育は浸透していないが、「村の者みんなで育てている」とのこと。六歳まで親元で育った子供たちは、実家が八か所の大都市に近ければ実家から、そうでなければ寮か下宿から、学校へ通う。生徒たちは九年間の義務教育を終えると、学校の専攻課程、養成学校―軍学校を指すそうだ―、就職の三つの進路に分かれるそうだ。
学校はレンガ造りで、屋根は瓦である。
生徒たちは皆、白いリボンに紺色の
新明濱の駅から蒸気機関車に乗り、
大和王国の発展というのは、新明濱という非常に狭い、限られた範囲でのものだった。新明濱を少し離れた途端に広がる、青々と稲が揺れる風景。あの稲が、この国の主食の米になるものだそうだ。本当に信じられない。秋には黄金色の穂をつけるというあたりは、麦とそっくりであるというのに。「百姓はこれまでそれはそれは辛い生活を送ってきたものです。」という案内役、彼はもともと農民の出身だったという。そんな彼が我々の案内を務めている、この国の教育水準の高さは目を見張るものがある。
新京野は、開国前の都であり、今もその面影を残していた。白い漆喰壁に瓦葺きの屋根、新明濱をではほとんど見られなかったきものを着た人々が大勢行き来する。これが、かのペリー代将の見た日本人か。
案内役はすぐに京野神宮へと馬車を走らせた。そこは、開国以降この国の民の多くが信仰しているという宗教の総本山といえる場所だという。
大和王国が建てられると同時に、羽衣家が昔から信仰してきた
水を母とするだけあって、この宗教の聖職者は皆女性である。当主は
我々は運良く祝詞を捧げるのを見ることができた。
神に祈る姿は、どこの国でも同じものである。
短い期間であったが、わざわざ長旅をした甲斐のある滞在だった。待遇に不足はなく、むしろ十分過ぎるほどであった。彼らはこれまで秘境の民族のように思われていた大和王国の国民たちだが、非常に従順かつ礼儀正しい人々と言えよう。
視察団団長 A.フェルナンデス氏の日記より
水の街 夏野彩葉 @natsuiro-story
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