2025
床下に貯蔵庫を見つけた。蓋をこじ開けてあさる。
「あ、なんか出てきた」
ユウジが右手でつかみ上げる。おれは懐中電灯を向ける。
「え何?食いもん?」
「『そうめん』」
「棒切れの束じゃん」
「乾燥食品なんだよ。読んだことある」
袋が劣化している。被曝している可能性もあるが、手袋で触ればたぶん大丈夫だろう。
「賞味期限、2020年8月だ。おれら小学生の時だよ」
「5年か」
「まあ、いけるな」
おれはナップザックにそいつをしまう。とにかく食べる物と水が要る。あとは安全な場所があればいいけど。
「この家、耐爆仕様なのかな」
「どうだろ」
「地下室は」
「ない」
長居はまずそうだと判断する。そもそも町外れの一軒家だから空からは恰好の標的だ。
「ケイスケ、おまえ水あとどのくらい?」
「2L弱」
「おれもそのくらいしかないよ」
「どうしような」
「山に入ってきれいな水出てるところ探すか、雨水貯めるか」
「どっかのコロニー襲って奪えばいいじゃん」
「…体力あるうちにやるか」とユウジは嫌そうに言う。おれはちょっと笑って汗をぬぐった。
サイレン。一斉に町中のスピーカーが叫ぶ。おれたちはとっさにヘルメットを深くかぶって臥せる。
「まずいー」あとはもう聞こえない。
バリバリバリバリと轟音、飛行機の影が連続して、落ちてくる何かの炸裂、閃光であたりいちめん真昼のように白く、真っ白くなっていくーこんな景色をいつか見た気がする、そう、夏休みの暑い日の午後、校庭で焼きごてみたいな鉄棒を握って逆上がりする、回る自分の影、あの白と黒のコントラスト。2020年の8月、おれら小学生の時だよ。
宇宙の果ての真夏 森山流 @baiyou
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