第9話 (最終回)その後

僕とさくらさんは、キャンプ場を出た。一回も言葉を交わさずにさくらさんと別れて、その日はもう寝た。夢を見ることはなかったから、次の日の目覚めはとても良かった。

またいつも通りの電車に乗ってみたけど、美香さんもさくらさんもいなかった。それなのにまた美香さんの香りがした。その時、美香さんを抱きしめて、消えていった時の感覚がした。ああ、もう美香さんはいないんだな。わかってはいたけど、それがいざ実感に変わると、やっぱり寂しいものだ。

美香さんがいなくなってから10ヶ月ほどたった。青色だった朝が、霞んでいくことはなかった。

今でも水色のマフラーをしている人を見ると、美香さんじゃないかと期待してしまう。当然、そんなわけはないのだけど。

「君は、何も出来ないわけじゃないよ。」

結局この声の主は誰のものだったんだろうか。

ふと、そんなことを考える日もあった。

1月2日、1枚の年賀状が届いた。送り主はなんとさとしだった。

「最近元気していますか?」一言だけ書いてあった。僕は、さとしに会っていいのか正直不安だったけど、ここで会いにいかなかったら一生後悔すると思って年賀状に書いてある住所を訪ねた。さとしはよく来たなという感じで出迎えてくれた。

「よう。健太。」

「本当にごめん!あの時、俺は、、」

「大丈夫だよ。俺は健太と一緒にいれて楽しかったし、俺は後悔してない。」

僕は久しぶりに涙を流して、さとしと抱き合った。


その時、僕の色が薄くなっていった。

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自分が霞きってしまう前に。 銀次 @Ginji1313

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