第8話 真相。(その2)
美香さんは、なぜか笑っている。僕の心は橙色にならずに藍色になった。
「あなたが私を殺した証拠。さくらが前世で見つけてくれた。」
美香さんはそう言って、1枚の写真を僕に見せてきた。僕にそっくりな人が、包丁を持って商店街を走っていた。
「これって。」
「うん。前世のあなたの姿よ。名前は田中健太。あなたも私と同じ、前世と今で名前が変わらなかった人よ。」
美香さんに自己紹介をした時の方がフラッシュバックした。「あー。なんか聞いたことあるかな。」そういえば彼女はどこか芝居めいていた。
僕は夢で、前世の記憶を見ていた。僕の前世の記憶の点も、さくらさんと同じように線で結ばれた気がした。僕は美香さんを殺して、それなのに処罰されない罪悪感に耐えられなくなって、自殺した。はっきりと思い出した。
「ここには昔、小屋があってね。私はその中で殺された。にわか雨が降っていた。多分、さくらが山に入った時には止んでたと思うけど。」
2人の夢が違ったのは、そう言うことか。
「君は、全部自分のせいにしてるよね。」
美香さんはそう言った。
「でも僕のせいで美香さんは死んだ。本当にごめんなさい。」
「私が許す権利はないよ。」
僕は絶望した。僕が前世で犯した罪は、誰にも許されることはないんだと思った。
「見つけた!米田美香だ!」
1人の警察官が来た。前世の記憶がある美香さんを、この世に残しておくことは出来ないようだ。一体、どんな闇を知りすぎたんだろか。
「許してあげられなくて、ごめんね。」
美香さんは警察に取り押さえられながら、そう言った。結局、僕は目の前の問題から逃げてばっかりだった。今でも、前世でも。そんな自分でいいのか。
「美香さんを離せ!!」
僕は一心不乱に走っていた。今美香さんを助けなかったら、僕の罪を、弱さをまた墓場まで持っていくことになると思った。
「君は、何も出来ないわけじゃないよ。」
あの夢と一緒だ。どこからともなく聞こえてきた。それは僕の足を一層速くした。
僕は警察官を跳ね飛ばして、美香さんを抱きしめた。抱きしめた途端、美香さんの色が薄くなっていった。
「バイバイ。健太。」
初めて僕の名前を呼んでくれた。
「美香さん、いなくならないで!僕は美香さんと出会って、だんだん自分が変わっていくように思えて、美香さんがいなくなったら、僕は、、」
「大丈夫、健太はもう大丈夫、私を助けてくれたんだから、自信持って前に進めばいい。ごめんね。前世の私って言うのは嘘。私は幽霊。健太があまりにも弱いやつだから、説教しに来てあげたの。だから、私はあなたを許すから、あなたも自分を許してあげて。」
そう言って美香さんは、警察官と共に消えていった。さくらさんは泣いていた。
僕も、思い切り泣いた。泣き喚いた。
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