最終話 大切なひと

 グラマラスバディーに僕も犯人の巣穴へ乗り込んだ。


「きゃー!」

「きゃー!」

「わあーん」


 小学生が四人も四畳半に詰め込まれていた。


「可哀想に、もう大丈夫ですわ」

「お姉さんにお巡りさんもいますからね」


 ぼ、僕らのことも眼中に入っていたのですか。

 よかったですよ。


「璃子はお腹が空いて動けません……」


 見れば、ぐったりと横になっていた。

 小学生A。

 被害者の池田璃子さんだろう。


「璃子ちゃん、さぞ辛かったろう」

「三國捜査本部長、璃子さんとはお知り合いですか?」


 僕は吃驚した。

 鬼瓦などと、もう言ってはいけないな。


「璃子は、自分の息子、明裕めいすけの子で、孫だ」


 捜査本部長は、璃子さんの傍に寄って、持っていたリンゴジュースを飲ます。


「おい、皆! 病院で検査と療養が優先事項だ。被害者ご本人とご家族の方々へのフォローも忘れずに頼む」


 捜査員がぱらぱらと散る。


「何事もなければいいと思うわ」

「ラブ。大丈夫よ。生きています」


 三國捜査本部長が、胸の内を明かしてくれた。


三國明璃みくに めいり。自分の愛娘がキャンプ場で、寝袋ごと誘拐されたのは、もう昔のこと。だが、今でも夢に見る。ラブくんが見つけてくれた寝袋は、鑑定に回してある」

「私が触ってみて思うには、恐らくあれは偽物で、三國捜査本部長を刺激したかっただけではないかと思われます」

「それは、それで悲しいの。ラブくん」


 涙ぐんでいる。

 今回の事件で、三國捜査本部長が一番身近にこの事件を解決したいと思っていたに違いない。


「三國捜査本部長。真一様から、この書状を預かっております」

「シンイチ様? ビューティーよ。自分は知り合いがいないが」


 捜査本部長が、書状を広げて瞳を開く。


「おお! 藤真一ふじ しんいち警視総監殿から。ふんふん……」


 ラブが微笑む。


「いいお知らせだといいですね」

「警視総監殿が十歳だった明璃を預かって育ててくれていたそうだ。ただ、犯人が分からず、三國の家には連絡を入れられなかったことを詫びられておる」


 そんな偶然があるものなのですか。

 僕は驚きっぱなしだ。


「私達がガードして、お迎えに行きましょうか?」

「いや、ここまでお世話になったのだから、それには及ばない。大きくなった明璃にも自分から会いに行きたい。まだ見ぬ犯人を恐れてばかりではいけない」


 ビューティーさんが逡巡して、胸にぐっと拳を当てている。


宇佐美神子うさみ みこ、そう呼ばれていた女の子もこのキャンプ場にいたのです。そしてもう一人の少女も……。楽しいガールズキャンプで犯人を目撃してしまいました」

「そのキャンプは、明璃のでは?」


 ビューティーさんがゆっくりと頷く。

 僕は立ち聞きしてしまった。


「そうです。そして、警視総監の庇護のもと特殊な能力を持つように育てていただきました」

「それでは、グラマラスバディーとは?」


 それは、女神の如く美しい慈悲の笑顔で、ビューティーさんは微笑んだ。

 ラブさんは、遠巻きにこちらを見ている。


「ご恩返しの旅をしております」

「おお……! どこかで会ったと思っておったが、あのキャンプに同行し、行方不明になった彼女らだったのか」


 ビューティーさんのウインクは、睫毛がふさふさで、とてもキュートだ。


「ご内密に願いますよ」


 ◇◇◇


 僕らは、小林彰の像を掘り下げて行った。

 アパートは、親に借りて貰って、好きな玩具を揃えている。

 フィギュアに漫画本。

 挫折したのか、何枚か描いたイラスト等もあった。

 環境には恵まれているが、人がいない。

 母親を訪ねたが、「もう独立しております」の一点張りだ。


「犯人は、小林彰、二十八歳。引きこもってしまい、誰か綺麗な子とお友達になりたかったと自供しているようです。ままごと等をしていたとも被害者から聞いております」


 僕らの仕事はまだまだある。

 歪んでしまった気持ちを犯行に結び付けるアキラのような人物をもう出してはいけない。

 その為に予防策を練らないとならない。

 彼が四畳半から出て行ける暮らしを僕ならどうするか。


 ◇◇◇


 捜査本部の看板が未だ外れない。

 ひょっと、ラブさんが現れた。

 ビューティーさんは、看板の辺りにひっそりと見守っているかのように見えた。

 ちょんちょんと、ラブさんが僕の隣に来ると、もじもじと指編みをする。


「これ、元気に働けるお守りです」

「そんな大切なものを――」


 そっと僕の手に握らせてくれた。

 僕は、それだけで十分だった。

 

「それにね、早川俊巡査。私の本当の名前は、愛子ではありませんわ」

「ええ! 僕はそんなこと口にしましたか?」


 ちょ、ちょ、お顔が近いですよ。

 ラブさ……。


「……ん」

「あ……」


 何故か分からない。

 けれども、ラブさんが僕の頬に微熱以上のものをくれた。

 モテない巡査に初めてのですよ。



 ――そして、この辺りでも耳にするようになる。

 グラマラスバディーは、綺麗でカッコいいお姉さん達だったよと小学生の間で噂になった。

 やはり、戦えお姉さんなのだね。


「ちょっと魔法の使えるお姉さん達だわ」

「二進法魔法学!」

「編み物閃き法!」


 つむじ風が校舎を吹き抜けた。

 グラマラスバディーは、もういない。


 だが――。



 再び、どこかで風の如く現れるに違いない。













Fin.

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特別捜査員グラマラスバディー! いすみ 静江 @uhi_cna

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