エピローグ
エピローグ
それから一週間近くが経ち、夏休みに突入した。
結局、アニソンサマーフェスタには奏多を除く五人で行くことになり、チケットも無事入手。三連番と二連番で、男女に別れて見ることになった(武蔵と二人きりで見たいという林檎からの強い主張もあるが、今のところは保留中)。
今日は薫も含む全員の予定が空いたため、武蔵宅で遠征計画を立てることになった――の、だが。予想外の出来事が起こっている。
「わあぁ、美味しいです! 天才ですよ的井くん!」
午後から集まる予定だったのだが、何故か歌恋が午前中にやってきたのだ。「時間を間違えてしまいました!」と歌恋は言っていたが、どう見ても目が泳いでいた。鞄からは昼食用に持ってきていたらしい菓子パンが出てくるし、明らかに計画的なものだろう。
しかしせっかく昼前に来たのだ。どうせなら料理を振舞いたい欲が高まり、武蔵が割と得意なオムライスを作り、二人で食べている――という訳だ。
「天才は流石に大袈裟なんじゃないか?」
「そんなことないですよ! ふわふわのとろとろで、お店の料理みたいですっ」
「そうか? テレビで見たのを真似しただけだが……まぁ、そう言われると自信が付くよ」
言いながら、武蔵は自分自身を不思議に思う。「自信が付く」とは、いったいどういう意味なのだろう、と。結局のところ、ちゃんと腕を磨いて料理関係の道に進みたいと思っているのだろうか。最近の武蔵は、気付けば真面目に将来のことを考えてしまう。まだ高校生なのだから焦ることはないのだが、林檎の夢にまっすぐな姿を思い返すと心がざわつくのだ。
「……的井くん? 聞いてますか?」
「あ、ああ、悪い。ちょっと考えごとを」
歌恋に声をかけられ、武蔵は馬鹿正直に返事をしてしまう。すると歌恋は、心配そうに眉根を寄せてしまった。
「すみません。悩ませてしまってばかりで……」
「いや、そういうことじゃないんだ。関係ないこと……って言い方をするものあれだよな、は、ははは……」
頭を掻き、笑って誤魔化す武蔵。
すると何故か、歌恋は前のめりになって力強く見つめてきた。「何だ何だ」と思う前に、武蔵は歌恋の胸元に注目してしまう。白いブラウスにオムライスのデミグラスソースが付きそうになってしまっているのだ。
「いくちゃん、付くぞ」
「へっ? あ……危ないところでした! 買ったばかりの服だったので」
慌てて仰け反る歌恋を、武蔵は微笑ましく見つめる。ブラウスにギンガムチェックのスカートという夏っぽい服装の歌恋を見て、「出会ってから季節が廻ったんだな」、としみじみ思う。
「何か、いくちゃんとゆっくり話すのも久しぶりだな」
「あっ、はい、そうなんです。的井くんと話したいこと、たくさんあるので……。なので今日、皆より早めに来ちゃいました」
えへへへーい、と照れ笑いを浮かべる歌恋。やはり、時間を間違えたというのは嘘のようだ。やれやれと思いつつも、話せる機会を与えてくれた歌恋に感謝する。
「的井くん。奏ちゃんとのこと……改めて、ありがとうございました。必死になってくれて、嬉しかったです」
何から話そうかと悩んでいると、歌恋に先を越されてしまった。小さくお辞儀をして優しく微笑む歌恋を見て、武蔵は慌てて首を振る。
「俺は別に何もしてないぞ。……まぁ、必死だったのは否定できないが。あれから、京堂さんとはどんな感じなんだ?」
教室内での歌恋と奏多は普通に仲が良く、いつも通りに戻った雰囲気だ。二人で下校する日もあったし、今は変に邪魔をしないべきだと様子を見ていたのだ。
「奏ちゃんにはまず、アニソンを教える前にアニメを色々と薦めているところなんです。少女漫画とか、乙女ゲームが原作のアニメは結構興味を示してくれました」
「なるほど。確かに京堂さんは女性向けから知った方が入りやすい気はするな」
「はい、そうなんです! すでに男性声優さんに興味を持っているようで……これは、いける気がします!」
「……いくちゃん、楽しそうだな」
テンション高めの歌恋に、武蔵は思わず率直な感想を漏らす。歌恋は照れたように「へーい、です」と返事をした。最早「へーい」が照れた時の返事になりつつあって、武蔵は思わず笑ってしまう。
「い、今更人の口癖で笑うことないじゃないですか」
「悪い悪い。そうだな。へーいだよな、うん」
「……何だか、普通にえへへって笑った方が良いような気がしてきました」
「今更気付いたのか……っ!」
今になってその事実に思い至るとは思わなくて、武蔵は大袈裟に驚いてしまう。しかし口癖は口癖だ。そう簡単に直せるものではないし、だいたい歌恋が「へーい」と言わなくなってしまったらなんとなく寂しい。だからこれ以上は何も言わないでおこうと心に決める武蔵だった。
「うぅ、仕方ないじゃないですか、口癖なんですから……。でも、的井くんの元気な顔が見られて安心しました。さっき、少しだけ元気のないように見えてしまったので」
「いや、そんなことはないぞ。むしろいくちゃんと京堂さんの問題が解決して、ほっと一息吐いてるくらいだ」
「…………本当、ですか?」
琥珀色のぶれない瞳が、じっと武蔵を見つめる。
ついさっきまで拗ねていたのに、ふっと表情を変えて真面目な視線を向けている。そのギャップに心が揺れた。将来のことで少し、悩み始めてしまっただけだ。話す程のことではないと思っていたはずなのに、自然と口が開く。
頼りたい、なんて気持ちが湧き出てしまうのだ。
「何と言うか、な……。林檎ちゃんが夢に対してまっすぐで、眩しいんだよ。嬉しいし応援したいんだが、つい……自分と比べちまってな。自分の夢って何だろうって、最近よく考えるんだよ。ただそれだけだ、悪いな」
本音を漏らし、武蔵は情けなく笑う。
「……っ!」
すると何故か、歌恋は驚いたように目を丸くさせた。嬉しい感情も見え隠れするような表情に、武蔵は不思議に思いながらも食い入るように見つめてしまう。
「それ、私もです!」
「え? あ、あぁ。そういえばそんな話をしたこともあったか」
「そうですよ。将来の夢って難しいですよね。私なんか、的井くんの料理みたいな特技もないですし。私も林檎ちゃんから話を聞きましたけど、私にはキラキラ輝いて見えます」
武蔵はただただ、歌恋の言葉に頷くことしかできなかった。歌恋は頭が良いし、特技がなくたって何もでもなれる――なんて、簡単に言うこともできないのだ。同じ悩みを持つ者としてそんな適当なことは言えない。だからこそ武蔵も困って、俯いてしまう。
「的井くん、そんな顔しないでください」
「……そうだな、悪い。別の話題を……」
「大丈夫ですよ! 私達、何にだってなれます!」
「……へ?」
禁句だと思っていたワードを満面の笑みで言い放たれてしまい、武蔵は思わずアホな声を出してしまった。きっと間抜け面になっていることだろう。
その証拠に、歌恋に「ふふっ」と自然な笑みを零されてしまう。
「そんな無責任なって思いました? でも、間違ったことは何も言っていませんよ。夢がないなら、見つければ良いんです!」
「…………」
――育田歌恋は、恐ろしい人間だ。
今までだって、主に「あざとい」という意味でそう思っていた。でも違う。彼女は才女だ。柔らかい性格のせいでそんな印象はないが、天才なのだ。
「的井くん。私、的井くんに恩返しをしたいことがたくさんあるんです。だから一緒に探しませんか? 的井くんの夢を。……ついでに私の夢も見つけられたら一石二鳥ですよっ」
こんなポジティブな提案、誰も思い付きやしない。悩んでいる当の本人ならば、尚更なはず――なのに。
歌恋は楽しそうに、笑っているのだ。
「……的井くん?」
訊ねられても、すぐには返事をすることができなかった。
目を奪われた――いや、心を奪われたと言った方が良いだろうか。それくらい、武蔵はただただ歌恋を見つめることしかできなかった。
「…………いくちゃん」
「あっ、はい! 何でしょう?」
きっと、嬉しいのだと思う。歌恋のポジティブな発言のおかげで、すっかり心は晴れているのだ。歌恋も歌恋で、林檎とは違った意味で眩しく感じる。決して逸らしたい気持ちにはならなくて、むしろ引っ張られたいと感じるような、そんな眩しさが歌恋にはあって――。
「お、俺……」
不思議な気持ちに包まれて、口が勝手に動き出す。自分がいったい何を伝えたいのか、自分でもわかっていないというのに。
何かを伝えなきゃという気持ちが、溢れて止まらない。
「あっ」
すると、とうとう歌恋に視線を逸らされてしまった。いくら何でも見つめすぎたのだろうか、ほんのりと頬も朱色に染まっている――ような気がする。
「……?」
しかし、数秒のラグがあったあとに武蔵は異変に気付いた。歌恋は視線を逸らした訳ではなく、あらぬ方向を見つめているのだ。
恐る恐る歌恋の見ている方向を向くと、部屋の扉が微妙に開いているのがわかった。扉の隙間から、まるでホラーのように琥珀色の瞳が覗いている。
「ちょっと待ったああああっ!」
武蔵が「ひぃっ」と驚く前に、扉は勢い良く開いた。叫びながら現れたのはもちろん林檎で、不満を爆発させているように睨んでくる。林檎にしては珍しくTシャツと短パンというラフな格好で、慌てて来たのだろうかと感じさせる装いだった。
「り、林檎ちゃん……っ? いや、まだ約束の時間より早いんじゃ……」
「先輩顔真っ赤。歌恋もだし! と言うか……どう見ても告白する寸前だったんだけどぉ!」
武蔵と歌恋を指差し、林檎は「どういうことなのおぉ」と嘆く。
しかし混乱しているのはこっちの方だ。歌恋がわざと早く来たのはともかく、どうして林檎まで早めに来たのだろう。訳がわからなくて、武蔵は思わず歌恋に助けを求めてしまう。
「い、いくちゃん。どういうことかわかるか?」
訊ねると、歌恋は恐る恐る頷く。
「そのぉ……。実は、何も言わないのは林檎ちゃんに悪いと思ったので、お先に的井くんの家に行くと宣言したんですよ。ちなみに私、林檎ちゃんとカラオケデートすることも知ってまして……」
「お……おお、お前らそんな情報交換してるのか!」
衝撃的すぎる事実に、武蔵は思わず叫んでしまった。林檎もまだまだ動揺が隠せないようで、武蔵と歌恋を睨み続けている。
「言っとくけど先輩、何でもかんでも情報交換しようって決めてる訳じゃないよ? そんなことしたら色々と崩壊しそうだもん。言いたいことしか言わないってスタンスなの。……カラオケデートのことはちょっと、自慢したかっただけで」
「そ、そうか。それで林檎ちゃんはどうしてそんなに怖い顔をしてるんだ……ろうなー、なんて……は、はは……」
デートを自慢したかった、というのは確かに可愛い。しかしさっきからずっと林檎は表情が不機嫌なのだ。どうも笑顔が引きつってしまう。
「そんなの、決まってるよ」
ジトーっとした視線を武蔵と歌恋に向けてから、林檎は小さくため息を吐く。
「やっぱり、ほぼほぼ気持ちは固まってるんだね」
「…………」
林檎の声のボリュームはだいぶ小さかった。でも、目の前で言われているのだから聞こえていない訳ではない。「なんて言ったんだ?」というすっとぼけなどできるはずもなく、無言で林檎を見つめてしまう。
「り、林檎ちゃん? 何だか今、凄く意味深な発言をしたような気がするのですが……」
「……そんなこと言って、本当はわかってるんでしょ? 歌恋の方が優位に立ってるから余裕なのかも知れないけどー」
「優位って……林檎ちゃんの方が可愛いじゃないですかぁ! 変に謙遜するのはやめてくださいよ、フェアじゃないです!」
(いや、容姿の話をしている訳じゃないと思うが)
武蔵は心の中で突っ込みを入れる。林檎も呆れているだろう――と思ったら、何故か口元がニヤけていた。どうやら、可愛いと言われたのが嬉しいらしい。
「もう、そんな話がしたいんじゃないの。あたしは今、凄く歌恋に嫉妬してるの!」
「うっ……た、確かに抜け駆けしたのは悪かったです! ごめんなさい……」
「そーじゃなくてぇー」
困り眉になりながら、林檎は大きめのため息を吐く。ちらりと武蔵を横目で見て、今度は小さなため息を零す。そして、若干落ち着いた視線を歌恋に向けた。
「あたしは的井先輩が好きだけど、歌恋のことも大好きなの。だから嫉妬はするけど、苦しくはないって言うか……さ」
「……はい」
林檎の空気の変化に気付いたのか、歌恋も冷静になって頷く。歌恋の返事に安心したのか、林檎の表情は素直な怒りへと変わってく。
「でも今のは流石に付き合っちゃえよって思ったって言うか! やっぱり早いうちに決着付いちゃった方があたしも楽になれるのかなとか、一瞬思い悩んじゃったりもしてぇ!」
「…………ふぇぃっ?」
突然の「付き合っちゃえよ」発言に、歌恋はよくわからない擬音を発しながら瞳をぱちくりさせる。武蔵も武蔵で、当然のように「おいおいおい」と心の中で突っ込んだ。
「まっ、まま、待て待て林檎ちゃん! ちょっと落ち着けって!」
「いや、付き合うってワードを出しただけで二人とも動揺しすぎだからね? そんなんだから林檎は諦められないんだよ、ばーかっ」
武蔵と歌恋を指差し、まるで小さな子供のように罵倒してくる林檎。しかし否定できる部分がなく、武蔵も歌恋も俯くことしかできない。
「す、すみません林檎ちゃん! 私、その、友達関係だけでも精一杯と言いますかっ、高校生にもなって変な話ですけど、まだお付き合いまで頭が回らなくて……」
呆れた顔をしている林檎に、歌恋はペコペコと頭を下げる。すると、林檎はやれやれと言わんばかりに優しい笑みを浮かべた。
「うん、わかってるよ。あたしだって歌恋が初めての友達……同性の、友達だったし。歌恋のおかげで小古先輩とも向き合えて、周りの人とか、夢に対する考え方も変わって……」
呆れていたはずの林檎は、優しく歌恋を包み込む。
「バタバタしてて、伝えられる機会がなかったから。だから……ありがとう。恋のライバルができたことよりも、あたしは歌恋と出会えたことが嬉しいから」
言ってから、林檎は得意気に武蔵を見つめる。「こないだの先輩みたいに、感謝の気持ちを……ね?」と嬉しそうに呟く林檎に、武蔵ははっとなる。気付けば林檎に近付き、頭に手を置いていた。
「な、何? 林檎、的井先輩じゃなくて歌恋に向かって言ったんだけど」
「悪い、何故か撫でたくなった。こんなこと言ったら理人に怒られるかも知れないが、妹みたいな感情もあるのかもな」
「何それぇ……」
不服そうな声を上げながらも、林檎の顔は嬉しそうにニヤニヤしている。でも、武蔵は素直に林檎の成長が嬉しいと思っているのだ。「紅凛華」としての皮を被ればまだ社交辞令くらいはできるが、呉崎林檎としての自分を出すのは昔から苦手だった。クラスメイトとの接し方がわからず、今までずっと一人で過ごしてきたのだ。それでも平気だったのは、家族や武蔵、そしてアニメソングに支えられてきたからだ。
でも、大きく背中を押したのは、やっぱり歌恋だった。
「…………」
「……歌恋?」
気が付けば、歌恋がこちらをじっと見つめていた。潤んだ瞳と、音もなく頬を伝う涙。そして何故か、歌恋自身が流れた涙に驚いたような表情をしている。
「あ、れ……? 何ででしょう、すみません……」
「ご……ごめん歌恋! こんなの、あたしが勝手に話をまとめようとしただけだっ。あたしは平気でも、歌恋は辛いのかも知れないし、だいたいあたしがさっさと身を引けば……」
「ああっ、待ってください! そういうことではなく!」
焦り出す林檎につられたように、歌恋は慌てて目元を拭う。武蔵も心配でたまらない視線を送ってしまったが、勘違いだと言わんばかりに首をブンブンと振った。
「ふと思ったんです。私は一人でイベンターをしていた時も充分幸せだと思っていました。でも、違ったんだなって……」
アニメを観て、アニソンを聴いて、ライブやイベントに行って、奏多とショッピングに出かけたりもして。ライブに行けば周りの人は歌恋と同じように楽しんでいるし、奏多と過ごすのも楽しい。だから、趣味も友達関係も充実していると歌恋はずっと思っていた。
でも、武蔵と出会って、林檎という友達もできた。薫や理人もいて、趣味の話ができる楽しさを知って、奏多とも本当の意味で向き合うことができた。
「林檎ちゃんがいて、的井くんがいて、呉崎さんや小古瀬さん、それからもちろん奏ちゃんもいて……私は幸せものです」
赤らんだ瞳のまま、歌恋は笑う。
結局のところ、武蔵に声をかけてきてくれたのは歌恋の方だ。一年前の春にきっかけを作ったのは武蔵かも知れないが、それでも一歩前に進んでくれたのは歌恋だった。
「俺もいくちゃんに出会えて良かった。俺と理人は昔からオタクだったから、あんな風にぶつかったことがなかったんだ。とにかく必死だったが、それ以上に支えたいって自然に思ったのは、出会えたことに感謝しているってことなんだろうな」
言いながら、武蔵は照れる気持ちを隠すように頬を掻く。
家族にだってこんなにも素直な言葉を零すことなんてないのに。歌恋と林檎を見ていると、本心を伝えなくてはという気持ちにさせられる。
まったくもって不思議なものだ。
「……最初は歌恋のこと、ライバルが現れたって警戒してた。それが今ではこんなにも好きなんだから、不思議だよね」
言ってしまってから、林檎は恥ずかしそうに頬を赤らめて俯く。
お互いに感謝をし合っているこの状況は、いったい何なのだろうと思う。きっと理人や薫、奏多がいたらこんな話はできなかっただろう。感謝したり、照れたり、嫉妬したり、困ったり、心配したり、でもやっぱり楽しかったり。様々な感情が押し寄せて、その想いを隠したいとは思えない。
よくよく考えると恥ずかしい状況だが、自然と心は安らぎを覚えていた。
「なっ、何か、もう良いでしょ? 色々あるけど、言葉とかいらない気がする!」
好きと言われて嬉しそうにニヤニヤしている歌恋を横目に見ながら、林檎は手をパチンと鳴らして無理矢理空気を変えようとする。
「そ、そうだな。と言うか林檎ちゃん、昼飯は食べてきたのか?」
「ううん、急いで来たから食べてないよ。そのオムライス、林檎も久しぶりに食べたいなー」
「おう、わかった! すぐに作ってくるから待っててくれ」
恥ずかしいと意識するとますます恥ずかしく感じてしまうもので、武蔵は変に焦りながら部屋を飛び出しそうになってしまった。
しかし、そんな武蔵を歌恋が呼び止める。
「あうあっ、ちょいっ、待ってください!」
歌恋もテンションが変になっているのか、口が上手く回っていない。歌恋も同じ気持ちなのかと思うと、少しだけ落ち着くことができた。
「改めて、これだけは言わせてください。……的井くん、林檎ちゃん、これからもよろしくお願いします!」
明るく言い放ち、歌恋は小さなお辞儀をする。
顔を上げた歌恋の笑顔があまりにも眩しくて、思わず林檎と顔を見合わせる。その瞬間、武蔵は思った。
いつかきっと、この三人の関係は変わってしまうだろう。でも、変わるだけで崩れる訳ではない。そのためにも、ちゃんと自分の気持ちに決着をつけようと武蔵は心に決め、
「……ああ、よろしくな」
力強く、林檎とともに頷くのであった。
了
イベンターズ・ハート 傘木咲華 @kasakki_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ライブレポートと、日常と。/傘木咲華
★36 エッセイ・ノンフィクション 連載中 86話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます