第8話
圭くんと家まで帰っていると家の中から泣き声がした。佑仁が起きたようだった。急いで家の中に入ると佑仁は圭くんのお母さんに抱かれながら大泣きしていた。
「佑仁!お母さん、ありがとうございます!ごめんね、起きたの?」
お母さんから佑仁を受け取って抱っこする。佑仁は私の首に手を回して抱きついた。
慣れない家で私がいなかったこともあり泣いてしまったのだろう。まだ1歳だ。いくらもう少しで2歳になるとはいえ、知らないものは怖い。寝起きということもあるだろう。
「すみません、遅くなってしまって。お母さん、佑仁のこと見ていてくれてありがとうございました」
「ごめんなさいね、起きたら周りが慣れないところだからか泣いちゃって……。やっぱりお姉ちゃんがいいのねぇ〜。」
「佑仁、泣くな」
圭くんは佑仁の涙を指でふいている。
「佑仁、佑仁にお洋服買ってきたのよ。見てみる?」
こくりと佑仁が頷いたのでリビングのテレビ前のソファーに佑仁を座らせた。佑仁に悠真くんとお揃いの服を見せる。佑仁には狼、悠真くんには虎にした。青銀の生地にフードのところに耳、後ろのおしり部分にしっぽがついている。非常に可愛い。
「着てみる?」
「あい!」
元気な返事が聞こえる。余程この服が気に入ったようだ。
「こっちこい、佑仁」
圭くんが服のタグを切ってくれたので、着せてもらうことにした。佑仁が途中で離してしまった袖を袖口から引っ張る。ズボンも新しいものを履かせた。
「できた」
「どう?佑仁めっちゃ似合ってる!」
「あらぁ〜!佑ちゃん似合ってるじゃないのぉ〜!悠ちゃんとお揃いのところも見たいわぁ〜」
圭くんが切ったタグを片付けて他の服のタグも外していると、着せ終わったのだろう。見てみるといつも以上に可愛い佑仁がいた。
ブランドものの服の何がいいって、服持ちがいいことにあると私は思う。洗濯をしても毛玉になりにくい。まぁ、今は買う余裕もないから安いものだけを着てるけど……。
「圭くん、ありがとう!ほら、佑仁も!」
「ありゅがと、けーく!」
「ああ。似合ってる、佑仁」
きゃきゃきゃと圭くんと佑仁が戯れだした。傍目から見ると仲のいい父子にしか見えないから心臓に悪い。2人が楽しいのなら良い。佑仁が笑えているのが、私の守る日常なのだから。
5時を過ぎたところで悠真くんも起きてきて着替え、佑仁と悠真くんのツーショットを撮った。夏が近づいていることもあり、外はまだ明るいが長居するのも悪いので帰ることにした。
「今日は本当にありがとうございました!お昼までお世話になってしまい、すみません」
「気にしなくていいのよぉ〜。またいらっしゃい。圭仁はきちんと家まで送っていきなさいよ〜」
「うん」
「また、来てね。悠真も喜ぶから!」
「はい!こちらこそ佑仁と遊んでくれてありがとうございました!では、また!お邪魔しました」
佑仁を真ん中にして手を繋いで帰る。佑仁が手を繋ぎたいと駄々をこねたからである。
夕焼けに染まり3つ並んだ影に心がほっとした。圭くんはきちんと家まで送ってくれた。途中、佑仁が電車で寝てしまったので、圭くんが抱っこしてくれた。これで夜寝れなくなりそうなのが気がかりだったが。
家に着くと、寝た佑仁を布団に寝かせてもらう。リビングに行こうと立ち上がった時、圭くんに腕を掴まれた。振りほどこうとすればすぐに振りほどける力だった。
「あの、アクセサリー持ってる?」
「え、うん、持ってるけど……」
「つけてあげるよ」
持ってきたカバンからアクセサリーの入った袋を取り出して、中からアクセサリーを出し、圭くんに渡した。つけやすいよう、後ろを向く。
「これ、本気で付き合っていいと思ったら指輪を外して着けて。それまでは、ここに」
「……うん」
つけたら満足したのか、圭くんの顔がほんの少しだけ笑っていたから良かったのだろう。ネックレスを圭くんに見えないように握りしめる。
この幸せが続きますように。
柏木さんちの諸事情 杏仁豆 @kyonindohu
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