第7話

結局朱子さんの言葉に甘えて佑仁に服を買おうと思っていたので、圭くんに買い物に付き合ってもらうことになった。

近くのショッピングモールまではあまりかからないようなので、佑仁が起きる頃には帰ってこられると思う。


「圭くん、わざわざ付き合ってもらっちゃってごめんね」


さりげなく車道側を歩いてくれる圭くんに感心する。そういう所がモテるんだろう。今も周りの女の子たちがキャーキャーとはしゃいでいるのが聞こえる。


「いや、佑仁に服買うんだろ?俺も選ぶ」


いつもは東松屋の安い子供服を買うが、今日はちょっと奮発していい値段のする可愛い服を買おう!


「うん!選んで!」


大型のショッピングモールは土曜日だからかたくさん人がいた。普段こんなに人の多いところに来ないのでドキドキする。


普段は入らない子ども服専用のブランドのお店に入ると中はセンスの良い可愛い服で溢れていた。きょうりゅうがプリントされた可愛い服もあって見てるだけで楽しい。


「圭くん、どれがいいと思う?」


圭くんが手に取ったのは背中の肩甲骨で生地が切り替わった服だった。それに黒のスキニータイプのズボンを合わせる。くつもそろそろ買い替えないとと思っていたので靴も見る。


今まではピコピコなるやつにしてみたけど、そろそろ普通の靴にしてみようかな。


「帽子は?」


「帽子も買う。どれがいい?」


靴はシンプルに青色のものにした。男の子だしね。

圭くんが持ってきてくれた帽子は保育園にも持っていけそうな縁が白の黒い帽子。つばがあるのが良い。


「圭くん、いい感じ!ありがとう」


「子供服って言っても色々あるんだな。悠真とお揃いでも買ってやろうかな」


「うわぁー!それ良い!」


2人で選んだのは虎と狼の耳としっぽがついた服だった。悠真くんにプレゼントしようとお金を出そうとしたけど、私がお手伝いに行っている間に圭くんが全て払ってしまっていた。お金を返すと言っても聞いてくれない。


「大丈夫。父さんの仕事を手伝うついでに個人で株やってるから」


「でもいつもお世話になってるし、払ってもらう義理もないよ」


「今日デートしてくれたお礼として受け取って」


「それを言ったら、わたしだって服を選んで貰ったから!」


「じゃ、俺からのプレゼントとして受け取って。ゆあにもこれ」


そう言ってポケットから取り出したのはブランドものの袋だった。


「え!いつの間に……。見てもいい?」


中に入っていたのはやはり高そうなネックレスだった。細めのチェーンに小さいピンクダイヤ?がついた細めのリングにダイヤモンド?がついたハート。これだけでウン10万は行くのではないだろうか。もしかしたらウン100万行くかもしれない。


「や、無理無理無理。付き合ってもないのにこんなの貰えない!私じゃ買えない!」


「じゃ、付き合って」


「なっ!」


周りの人がこちらを注目しているのを感じる。頬が熱を持ち始め、真っ赤になっていることは明白だ。


「ちょ、ちょっと」


圭くんの腕を掴んで人のいなさそうな所に行く。普段注目されまくっている圭くんは気にならないかもしれないが、私は大いに気になる。


やっと人のいない階段についた。


「……圭くん本気?」


「本気じゃなきゃこんなこと言わない」


その顔は真剣そのもので、彼が嘘をついていないことが分かる。


「私のこと好きなの?」


「当たり前。好きじゃなきゃこんなこと言わない。諦めて認めて」


嬉しいような、出会って3日で本当に付き合えるのか複雑な気持ちだ。


「じゃ、じゃあ、お試しでお願いします……。もし、もしもだけど、私のことが嫌いになるかもしれないし。1ヶ月お試しで付き合ってみるってことでダメでしょうか…?私、誰かと付き合うの初めてだから何も分からないし……」


「うん、それでいい」


「あ、ありがとう!」


私の中の彼への気持ちは絶対嫌いではないことは分かる。頼りになるし、佑仁のこともよく見てくれる。何より優しい。ドキドキすることも1度や2度ではない。でも、これが彼を好きだからのドキドキかはまだ分からなかった。少しずつ彼を好きになっていることだけは分かる。ちゃんと恋愛の好きが分かるまでのお試し期間。


「じゃ、帰るか」


「うん!」


そっと手が繋がれる。行きとは違う、でも、不快じゃない行為。


私はきっと彼を好きになる。今日より明日。明日より明後日。そんな予感がした。


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