大型犬ふはふは笑ふ 🐕

上月くるを

大型犬ふはふは笑ふ


                                     【2018年】       

連翹やガラスのビルに空あふる

寒き朝新聞かさと配達夫

膝掛や沈黙三日スマホ鳴る

鯖缶を丸ごと皿へ春隣

春の夢ピアスの孔の疼きけり

どの家か干物焼くらし春の朝

北向きのペットショップや春北風

小でまりや閉ぢし会社を想ひけり

花筏信濃川から日本海へ

名刺なき手持ち無沙汰やソーダ水

瞬きの間遠となりし蚊帳の海

バス停に祖父と孫在り山法師

麦あらし野獣一頭駆け抜ける

大型犬ふはふは笑ふ栗の花

花茣蓙やをさなき頬の泣き黒子

花いばら木曽馬の耳やはらかし

夏シャツや高志秘めたる公務員

昼顔や本音打ち明けよかつたか

同窓会居場所のありや草いきれ

売り社屋遠くから見る晩夏光

路地裏に幻燈ともす秋果かな

木曽川を見下ろす墓地や藤袴

藤棚に下仁田葱のおはします

満月や子のなき家もある家も

駅近の空地に杭や赤蜻蛉

ウクレレの弦のゆるみや星飛べり

塀ごしに呵呵大笑の柘榴かな

愉しき日トルコブルーの毛糸編む

枯葦やパチンコ店は出玉の日


【2019年】

グーグルで探す居酒屋春の月

風光るアコーディオンの蛇腹かな

市役所は港の際や春日傘

アパートの暗き廊下や蜆汁

眉ひらく今朝の鏡や春の雪

春の海チョーク引くごと船進む

卒業や牛丼に盛る紅しようが

畔塗や鍬をかすめる鳥の影

清明やポニーテールの理系女子

身ひとつで死にゆく身なり花の雨

ジーンズの膝の破れや巴里祭

いつまでも錆びぬ二人や釣忍        

烏賊刺の透きて緑の地酒かな

明け易し街のざはめき枕辺に

ジョブズより長生きのわれ冷房音

甘噛みの洗濯ばさみ薔薇の風        

夕風の身八つ口抜け夏の月

西日射す新宿のまち発酵す

家ごとに小橋あるまち夕蛍

白き朝トマトのスープ熱くして

八月や I was born 呟ける          

ところてん戦争好きを秘す二人       

耳敷きて眠れる仔犬秋うらら

パレードの大太鼓の子秋暑し

遊行忌や踊り念仏ロックたり         

永訣はジャズヴォーカルで秋海棠

亀どちのひとつ方向く秋の昼

愛されて馬の余生や秋うらら

コスモスや星の伝言さはさはと

指先に山羊の吸ひつく花野かな        

桃色のキャリーバッグや神の旅

高く咲く金木犀に宵の星

ねんねこの子の息甘し一つ星

北風や握り返してをさなの手

オリオンや言葉を選ぶ川の道         

冬麗や遠き町まで弓買ひに

解体の窓枠四角冬の月

影連れて走るトラック冬の雲

餃子屋の二階の塾やクリスマス

案内の女将の足袋や寒牡丹

日を恋うて一途に恋うて冬菫         

鴨どちのぞんぐわい猛き面構え        

木枯の木枯を押す野面かな          

簡単に買はれゆく犬小晦日

人と居てさびしさ募るブーツかな


【2020年】

蝶のごと袂ひろげて春着の子         

ひよひよと踏んばつてゐる仔猫かな      

汲置きの水の波動や一茶の忌         

梅の花こてこて水を飲みにけり        

絵硝子に午後の日差や水温む

二月の光の粒の立ちにけり

警察に保護されし犬バレンタインデー

海に出る川のよろこび雪解水

雪巓の尖り尖りて富山まで

塵取に吸ひつくはうき寒の明

分骨のつましき墓や久女の忌

春光や家族写真の横一列

をさならの膝を並べて雛あられ

リビングの出窓におはす内裏雛 

ランタンの灯り湯に散る雛の宿 

鳥帰るさびしきときの文具店

鳥雲に丘の墓標は湾に向く

一村を見渡す駅舎山笑ふ 

春眠のうつつに唄ふみゆき節       

春眠や犬の催促遠慮がち 

鳥の羽のこる中洲や日脚伸ぶ           

畏敬から始まるえにし桜餅           

水底に風の吹くごと春の川

雪形の目の高さなる中学校

ヒヤシンス当番の子の一番に

番号札一にもどれり納税期

はにかみて挨拶する子朝桜 

図書館の本をリュックに花曇

手かがみの縁の木彫や花疲れ

食堂の新聞のしわ鳥曇  

ほととぎす出世稲荷の幣古ぶ

川筋に通船あとや麦の秋           

店先に光るナナハン菜種梅雨

美容院の壺の傘入れ菜種梅雨

青梅雨や風追ひかけて雨の来る

たんぽぽや同姓おほき里に住み

トランペット響く河原や山笑ふ

アボカドの種の無口や初燕

春雪や帽子かぶせて犬の墓                     

山風にちりりと鳴きし菫かな 

床の鳴る森の図書館新樹光

山吹の増ゆるにまかす山家かな

半身入れ花屋の客に緑雨かな 

どうしても眠たき犬や花海棠          

桜桃忌しの字をえがく栞ひも 

荒梅雨や野草の咲きて卓の上

口ずさむスーダラ節や梅雨の月

宴果てて二方に別る梅雨の星

地球儀の船長不在ポピー散る

ちびまる子ちゃんちの居間の扇風機

筆あまる一九の戯作どぜう鍋

懸垂のかひなのうねり夏の雲

ダービーの栗毛の汗や無観客

箱庭の駅舎のすみに猫のゐて

身一つにウェストポーチ新樹光

あぢさゐや母韻の美しき「糸」の歌

わたくしが至りませんで万太郎忌 

明易し軒端に白い海馬がゐる

七分袖に卓のバナナの固さかな

木洩日に班を憩はせてしじみ蝶

むらさきのハーブの湖を夏の蝶

川べりの絵画教室花いばら

常識の覆る日やグラジオラス

みつ豆に黒蜜とろり自粛あけ

街に人もどりて夏の老けにけり

星の子に摘まれて空へ青葡萄

花街の猫はんなりと立葵

車から流るるジャズや三尺寝

身につきしあやまり癖や冷素麺

茄子紺に暮るる浅間や夏座敷

赤シャツで鋤ける畑や遠郭公

起し絵の女となりて閉ぢられぬ

一言に満ち足る夕べ月涼し    

青空に雲あそばせて夏さかん

頭蓋骨小さくなりて髪洗ふ

駅ピアノ空に届けよ終戦日

風通しよき家たのし遠花火

ふつくらと十八歳の浴衣かな

水引や僻地医療を志向せり 

明眸を逸らさぬ少女濃りんだう

司法書士事務所の桜紅葉かな

背きし子を門に待ちゐる秋の暮

つゆくさの帰りそびれて地の星に

鯖雲の端つこ少し齧られて

校庭の平たく見ゆる運動会

秋うらら猫語つぶやく大先生

あちこちに図鑑の犬や秋の風

秋めくや同じところで鳴る扉

うつし世を立ち去りがたく秋蛍

牧柵に弾くバンジョーや秋高し

群れ咲ける桔梗ゆるく束ねけり

秋蝶に連山ひだを極めけり

文月の風の竪琴つまびける

星飛びて犬は小屋にて眠りけり

褒めてほし主婦の仕事や新松子

夕暮れのパンの行商秋暑かな

蜩の間合ひにものを思ひけり

繋がりて園児の帽子芋を掘る

納屋の戸の少し開きて秋の蜂

無住寺の山門朽ちて秋の蝉

通過せる電車のアニメ秋の雲

切り取りて一眼レフの良夜かな

サフランや溥儀の波乱の上下巻

粗塩のほのかに甘き秋刀魚かな

父母若く紫蘇の実匂ふ戦後かな

尼寺の寄進名簿やさねかづら

星飛ぶや耳の形の似る父子

底紅や生き過ぎたとも足らぬとも

買ひ足さぬ衣類の少しちちろ虫

十年目のわが子記念日秋うらら 

叱られて腹出す犬やゐのこづち

秋蝶や湖水に底のなきごとし

生真面目に樋を伝ひて秋時雨

つまべにや日ノ本なべて渡来人

噴火せる浅間の闇や秋蚕飼ふ

秋うらら猫の器量を談じをり

夕星を待ち侘びてゐる案山子かな

風の神まつる祠や濃竜胆

きしきしとくちばし鳴らし鳥渡る

月の人輿にはみ出す裳裾かな

丹の欄に仰ぐ天守や水の秋

夕霧や弁柄色の画廊の扉

窓の灯の二階にふたつ夜学かな

金色の雲の耀ふ夕花野

秋めくや眼鏡はずせば別の顔

そろと出す猫の右手の寒露かな

飛びながら流さるる鳥初あらし

年譜から読みそむ史書や虫の秋

棚占むるレコード盤の愁思かな

犬の忌やけーんけーんと秋の声

飛翔せる鳥の目刈田遠ざける

空堀に穂すすきなびく山の城

大切を仕舞ふ小部屋や白桔梗

瓢箪や労はり合へる老夫婦

夕さりのお猿のかごや木の実雨

一編の詩を遊ばせて野紺菊

全山に絹布をかけて竜田姫

柳散る堀にアコギの弾き語り

秋空を押し返したる鶏頭花

巌の上に雀ふたつや水の秋

少年のバントの構へ文化の日

励ませば子の安らげる秋日和

制服のリボンのえんじ刈田道

自転車の会釈ていねい銀木犀

博識のクレオパトラや秋の虹

太幹に縄を巻きつけ新松子

駆除といふ言葉の酷き町の熊

働きて来し手の愛し青みかん

寄せ書きをひとり見てゐる良夜かな

くるくると輪になる風に猫じやらし

まるめろの実のぼつてりと歯科検診

九度山の渓がうがうと実紫

夕映えの鐘の鳴る丘銀杏散る

偲ぶればくれなゐ深し秋の草

手を引きてをさなと歩む刈田道

十月の大縄跳びの一、二、三

担任は体育教師運動会

十月や走者の空のまさをなる

山羊遠く花野に翳る夕日かな

ひんがしに戦のありや鰯雲

雨粒の玻璃に流れて花木槿

湖に舞ふ白鳥ひとつ空ひとつ

小兵なるバジガクモミジ秋の雲

古株に散らす絵の具や蔦紅葉

日当たりて紅葉且つ散る奥ダム湖

バスの窓かすめる雑木紅葉かな

手縫ひして久女たのしき菊枕

スィングして震へるジャズや星月夜

背もたれに預けるむかし秋の声

冷やかや窪地にのこる村の跡

新月の満つるを待てば寒匂ふ

ぽつつりと難路の村の木守柿

川綯はれ枯葦綯はれ空のあを

偲ぶればくれなゐ深し秋の草

手を引きてをさなと歩む刈田道

卓の上に手袋かさね席立ちぬ

繭になり言の葉紡ぐ霜夜かな

冬北斗異界史あらばひもとかん

枯蔦や結社めきたる土蔵カフェ

如己堂は二畳一間や冬薔薇

ペン立てに混み合ふ卓や冬銀河

谷崎潤一郎陰翳礼讃白障子

ひと粒のなみだとなりて枯木星

ベンチごと落葉に埋れ夕の鐘

小春日に祝ふ幼の誕生日

通り過ぐ昔の事務所冬すみれ

戦国の姫の哀哭蔦紅葉

襟合はす十一月の静けさに

不揃ひのパッチワークや冬愉し

冴ゆる夜や乱反射せる江戸切子

熱々のショコラオーレや一葉忌

片方の折れて人待つブーツかな

馬の目のこぼれんばかり冬の空

すうすうと骨なき腹に懐炉かな

あずき炊き壁を甘くす冬の雷

涸滝に水のまぼろし競り上がる

裸木のムンクの叫び放ちたり

天空のボルダリングや冬の蝶

星連れて空の海路や冬三日月

寒暁の駅の立ち食ひ蕎麦屋かな

ポインセチア束髪男子抱へ来る

純白のコートひらりと居酒屋へ

遠くより鉄路の継ぎ目冬の虹

橋渡るわれも入れての冬景色

厚底のスリッパ干して冬の蝶

湯豆腐に余計なものを入れる癖

陸奥の出城の旗や虎落笛

いまさらに宇宙の無限や枯木山

凍蝶に雲間のひかり集ひけり

院庭に紅ぽつちりと冬の薔薇

美女宅の美猫の艶や竜の玉

黒犬の黒のきよらに十二月

冬温しベンチのランチ官庁街

波の色空に映して浮寝鳥

脚組めるマティスの女山眠る

冬の川定められたる星の位置

三角は祈りのかたちわが聖樹

武蔵野の冬天まさを太古より

白鳥のつひと流れて寄り添ひぬ

独り居の水仕かんたん寒昴

滅茶苦茶に吹かるる庭の寒雀

数へ日の朝定食の目玉焼き

人に背を見せて背を見る冬の暮

冬薄立ち尽くしゐる夕べかな

幼くて人形ふたつ寒夜かな

川底に邑のあるごと冬日和

惑星のイマジン美しや降誕祭

ジョバンニに届け寒暮のピアノソロ

川石の一つに一つ冬の鳥

千姫の疑心暗鬼や雪もよひ

蒼穹に放つ吐息や冬木の芽

リビングの小さき版画や年の暮

傘ごとに行く先のあり雪の町

白樺の秀の冬天をつかみをり

雪女ピアノカバーの裏の紅絹

寒星やカンパネルラの赤帽子

冬麗やゆるりと組める結跏趺坐

着ぶくれて会ひたき人に会はぬやう

呼び慣れてホーミーのごと飾売

一年をラジオにゆだね煤湯かな


【2021年】

犬連れて氷川神社に初詣

坂東の武士も拝せる初筑波

初夢や秀吉になり綺羅尽くす

表札に八つの名前福寿草

直されぬ蔵のシートに冬三日月

ポケットに手袋のある夜汽車かな

寒晴のひときは堅き宇宙かな

油絵の冬の旅人フォルティシモ

形よき耳のうしろに冬日差

節分や福の亭主に福の妻

置き畳売る畳屋に日脚伸ぶ

うつすらと粉雪のせて犬の家

寒四郎呼べど出て来ぬ犬の鼻

関節をゆるめて挑む寒九かな

雪の日の踊り場の灯の蜜柑色

縁厚きカップに八分雪明かり

寒波去る忍者ハットリくんの術

紛れるも目立つも否の小正月

受賞者の憂ひ晴らせず寒土用

寒晴や水鳥どちのぴちぴちと

着ぶくれて内に向へる力あり

上りては降りる木道石蕗の花

草氷柱削りて清き水流る

りんりんと雪の軽さや街の騒

冬濤の羆となれる能登の海

がぎがぎと冬天削る閼伽流山

コロナ禍の成人式の晴れ着かな

鴨どちの三三五五や昼の川

突つ張りてシャツ干されゐる寒の空

見解をたたみし胸の寒鴉

寒星やミニシアターの帰り道

隙間なく山茶花咲かせ老夫婦

大は小庇へる犬や雪の道

小説に託す希ひや寒北斗

読初の江戸の長屋の艶女房

鍋焼に海老天ひとつ泳がせて

日輪に冬菜さみどり深めたり

フルートに風花のせて少女像

起重機の宙へ伸び行く寒四郎

雪をんな素足でさかひ跨ぎをり

犬の尾に満ちるちからや春隣

日脚伸ぶ駅より放射状の街

鮮やかに色を凍らせ冬すみれ

【完】としてマウスを放つ春の雪

腕立ての近づく床や春隣

天狼や払暁の闇うすからず

節分や福の亭主に福の妻

尾の長き鳥を止まらせ実南天

ひよつこりとお道化てみせて春帽子

わが指の温もり膝に寒の明

ジェンダーを世界に恥じる余寒かな

バレンタイン奥歯に熱を持ちにけり

夜のなゐの無情を詫びて冴返る

佳き人に幸多かれと黄水仙

花なづなちろちろ鳴らす帰り道

げんげ野を征きたる馬の鎮魂碑

せせらぎは勿忘草の水かがみ

ひこばえや同じ扉の十ばかり

蔦の芽やラーメン店の窓高し

立春の喫茶のテラス雀来る

如月の出窓にひかり惜しみなく

ガーベラの赤に添はせて雪柳

束ねたるしろつめ草に茶の少し

背の高さ揃へ一列チューリップ

川岸にふくらむ光つくしんぼ

ジャムの瓶ぽんと開けたる二月尽

ぜんまいのすぐ長けて来る日向土手

笊に摘みふはりと軽きはこべかな

春浅しふもとの村の屋根光る

フリージア香る机の木目かな

赤ん坊の山羊ひよひよと春の朝

水色を撒きたるごとく犬ふぐり

公園の木橋みじかく水草生ふ

草の芽やラジオの音の切れ切れに

濡れ径のはだらに乾く春の朝

畦道のひかり集めて花薊

遠くあり瞬き合ひて春の星

もくれんの蕾ふつくら昼の月

三椏の花や前衛ミュージアム

初蝶の湧き出る渓の昏さかな

喇叭水仙吹き鳴らしゆく鳥の影

たんぽぽの笑顔まん丸クレヨン絵

恋猫に惚れられてゐるうちの猫

藪に咲く白梅匂ひ立ちにけり

独り居の学ぶよろこび春の雨

卒業のたもと軽やか正門前

煌めきて跳ねて踊りて春の川

裏口に楽器入れたる日永かな

宇宙史の星の興亡春の夢

犬の目にかすかな野性春の雲

人形を寝かせつけをり春の月

青空に声をかけ合ふ春の朝

豪農のならぶ浦和の苗木市

文鳥の帰り来る窓うららけし

ぶらんこの幼の背をそつと押す

あたたかや美形の犬の長まつげ

三人に三つのスマホ春の宵

熊笹に残雪のせて峠道

腕太き湊のをんな干し鰈

菓子箱を上れぬ仔犬うららけし

ちりめんに青じそ刻み独り膳

睦まじき姉弟ならびて桜餅

一歩出すをさなの靴や春の風

春雷や煮物の照りの輝ける

風かたき佐久の菜花や捨聖

膝に顎うめ春宵の音を聴く

ちらと見せ幼きおでこ春一番

あふあふと北を仰ぎて残る鴨

餡薄く透かせてをりぬ桜餅

褒められて馬の並足春の雲

さみどりに湧きたつ空やポプラの芽

木の芽雨磨き上げたる厨の扉

春塵にからくり時計まはり出す

長舌のすき突き亀の鳴きにけり

遠ざかる電車の尾燈春の宵

川舩といふ数軒や蘆の角

枝垂れつつ花を散らせる桜かな

進級の姉弟の靴のまぶしさに

梨咲きぬ心ひらきて荘子読む

えらさうな文になりがち石牡丹

をさなくて人の心やリラの花

子に遺すいしぶみ一つ春の雲

望郷と名づけし像に菜種梅雨

図書館に抜ける小道の花蘇芳

春宵一刻値千金レア映画

山葵田に養蜂箱のありにけり

信置けどすべては告げず豆の花

花冷や医師のデスクの砂時計

かるのこの渡るを待てる車列かな

鳥雲に皿と小鉢とひとつずつ

わが背でねんねの赤子おぼろ月

清明や少年の志の高くして

スカートの膝の幼や花ゆすら

天空に花散る里の侘び住まひ

夕影のかすかな枝垂れ桜かな

花どきの草庵に置く香炉かな

老人と老犬のゆく桜かな

春月や兎をまつる調つき神社 

ほんのりとくれなゐにほふ初桜

村雨の過ぎ行く枝垂れ桜かな

木の間越し鳴く鳥いづこ夕桜

猫の目のブルー楊貴妃桜かな

囀りに分け入りて行く乳母車

遠足のしんがりとなる小柄な子

ブラウスの少女のかひな花水木

ガーゼ吸ふ仔犬の腹や暮の春

ハンカチの木の花清らかな心

すんなりと肩に少女の洗ひ髪

切なくてカーネーションの首長し

ぼうたんの流るる間際息止めて

耀へる水面はづませ夏の川

茄子苗を置く老人の一輪車

野に光みちて八十八夜かな

十一や国道端の宮の森

花いばら筑波を詠める東歌

むつまじき姉と弟の清和かな

海遠き上州路なる麦の飯

少年のジャンプ健やか聖五月

わつと湧く木落し坂の大群衆

沿道のふるまひ酒や恩柱祭

少年の眸ますぐや花あやめ

熱のある子に見せてゐる豆の花

吹き降りの鳥匿ひて花は葉に

郭公や空の容れもの限りなし

中庭の芍薬に射す夕日かな

板前の無口に鯵のたたきかな

睡蓮の打ち重なりて池猛る

葉柳をのせて真鯉の近づきぬ

薔薇色に明け初む初夏の一日かな

水の田に逆さアルプス花あやめ

青田風講堂の窓吹き抜ける

旨さうなたけのこ飯の醤油色

早起きの清し憲法記念の日

猫のゐるピアノの出窓走り梅雨

象二頭召されて冴ゆる夏の月

あめんぼや空の重さを軽々と

ではではと別れて来り白躑躅

十薬を奔り過ぎゆく今朝の雨

猫の耳ひらきて都忘れかな

あをあをと田植の波に雲の舟

蕗むくや厨の窓に風の客

郭公や日に三便の停留所

呼んでゐるつぐらの赤子田草取

古寂びし垣に這はせて花あふち

ほたほたと杏を散らす旧家かな

マーガレット空の落下を畏れをり

知らぬ間に駅舎なくなり姫女苑

青梅雨やランタンともす喫茶店

ほどけゆく茗荷の苦み三杯酢

あんみつや窓辺の蝶の髪飾り

長梅雨や漆器の店のほの灯り

冷房の肩に張りつく美容院

花あふち木蔭に停める行商車

のつそりと猫の出て来る木下闇

橋渡る電車の軽き夏の空

夏雲や音楽堂のティンカベル

百合一輪ただ事ならぬ清らかさ

沖縄の遺骨の雨やハイビスカス

木苺の酸つぱさうなる昼の月

傘さして馬鈴薯の花見てをりぬ

街なかの小さき教会雲の峰

妖精の蛍袋に入るところ

半夏生バーの裏口開きてをり

青葡萄新たな月を生みにけり

さびしめば剽軽尽くす芥子坊主

ソーダ水メガネ幼き男の子

あん蜜やおでこ秀でてベレー帽

川波の鳥を乗せゆく送り梅雨

父がいて母がいたころ桑いちご

香草のむらさきの原夏の蝶

山背負ひ小さき役所藤の雨

舞鶴の海軍カレー白日傘

夏夕べ異星に栖める犬のこと

白壁に影の添ひゆく韮の花

しんねうの滴る筆や夏芝居

白紫陽花守ってくれぬ上司の目

天道虫上へ上へとのぼりけり

抜け出せぬ思考の迷路髪洗ふ

鉄棒の上の山並み夏の雲

里山の競り出してくる夏の川

かなしみに終りのありて雲の峰

ねんころと風をあやして合歓の花

くるぶしを風の舐めゆく薄暑かな

秀才の従兄来てゐる夏休み

夏暁や病む子のまぶた薄くして

鏡台に眉筆ひとつ紅の花

痩せ川に丹色の橋や夏の雲

文机に淡き影置く青林檎

蝶渡る湖畔の宿の夏期講座

緑陰にはずむ幼のけんけんぱ

短夜やもう起きてゐる犬と鳥

独り家に風を呼びこむ網戸かな

森奥に灯り散らせる夏館

外したる夏手袋の置きどころ

本画より素描のよかれ白浴衣

女編む古き映画のレースかな

こつそりと夜更のバナナ窓の月

山行きの緑ナンバー雲の峰

建前にクレン車来る夏の空

コロナ禍の五輪うとまし髪洗ふ

蜩やタイムカプセル埋めてゐる

執念の赤木ファイルや花木槿

庭のものだけで間に合ふ盆支度

門火果て星に届ける瀬音かな

三日月の天守にかかる踊かな

秋の朝川面かすめて鳥ふたつ

盆の月子のゐる幸とゐない幸

秋口の音楽堂のプログラム

さっぱりとベリーショートの髪洗ふ

Kindleにhighlightして今朝の秋

哀歓を知り尽くしたる夏帽子

黒電話鳴らず八月十五日

語り継ぐ戦争なほも盆の月

敗戦忌大きな裸足見てをりぬ

袖口のインクの染みや水蜜桃

打ち終へて闇の底なる遠花火

ゆふぐれの鏡のつかれ秋暑し

かなかなや矢印に添ふ絵本館

腹見せて吹かるる雀初あらし

ゲラ刷の水彩の美し白桔梗

盆東風や注連を張りたる屋敷神

どこの子か泣く子の哀れ盆の月

カフェの灯の人肌色に秋ついり

秋蛍大河を渡る車窓の灯

奔放を縛られてゐる花芙蓉

昼顔や民を欺くまつりごと

本読みの背に乗る猫や秋暑し

残酷をもてあそぶ世や葉鶏頭

一魂をこめし一作濃竜胆

別棟のピアノ教室萩の雨

コスモスを叩く雨粒農の道

山麓に秋の雲あり雨あがる

旅に出る祖父と少年いわし雲

泣き黒子ある子の幸や鳳仙花

実柘榴や外階段の英語塾

神主は考古学者や曼珠沙華

赤のまま大きな墓と小さき墓

壁照らすダウンライトに秋の声

浅草の五重塔の良夜かな

風に浮く帽子の鍔や紫苑咲く

秋宵や手もと供養の犬とゐて

爪先のかすかな湿り秋の虹

廃業の医家の看板白木槿

豊年や棚田の角の道祖神

石仏のうしろ姿や夜の秋

わが指の影置く画集ちちろ虫

たぐり寄す秋七草に日の名残

父の質受け継ぐわれや月見草

残照の裾広がりに蕎麦の花

路地裏にはみ出す秋果小商ひ

秋暑し少しやつれて人の夫

ハミングに復習ふ楽譜や秋夕べ

野分あと総身に星の降りかくる

ラ・フランス箸一膳の一日かな

青松虫吉野家出ればビルの月

朝の月たぐり寄せゐる草雲雀

歳月や倉庫の屋根に草の花

行く末の長さ短さ秋の月

秋声やビルと山との街に住み

星月夜絵付きグラスの犬と蝶

吹き晴れの空の硬さや捨案山子

川へだて村と町あり山粧ふ

農道に並ぶ軽トラ秋日和

咲くものと萎るるものと水の秋

全快の知らせを受けて秋澄めり

鶏頭や男子の犬のおとなしく

書肆といふ看板薄れ秋燕忌

ふひに戸の開く旧道や野紺菊

横に付く馬のまなこや秋の雲

断ちきれぬ世襲のくさり雁渡る

一作をあげてさやかに菊の朝

東京の秋天はるか原画展

老猫の腹の波打つ秋の昼

一族の異端と呼ばれ赤のまま

廃れ家の門の赤錆び富有柿

老人の手際のたしか野紺菊

刈り取られ花鶏頭の紅の濃し

ばつたんこ脆き地層の島に住み

ビヲロンの音色やさしく銀杏散る

残菊や轟々と鳴る精米機

十月の雲蓼科を動かざる

軒低き職人町や銀木犀

ナンふたつ張り付け象の秋日和

いわし雲周遊バスに客ひとり

めはじきや父譲りなる甘へ下手

秋の日の影の膨らむ大樹かな

さしこめば指あたたかき今年米

銀漢や復古に帰する革命史

むらさきの冬蝶わたる川の面

電柱のかげ冬天に昇りゆく

枯菊の香り立つ庭すずめ来る

音楽と静かな会話文化の日

神留守や土産物屋に人だかり

控へ目に捕鯨を語る紀の男

独り居のレトルトごはん一葉忌

長月の世襲のくさりけものみち

立冬のさきに春待つうれしさよ

南向きカフェのあをぞら冬に入る

裸木に影はしらせて水踊る

冬すみれお市の妹お犬の方

冬たんぽぽ犬に曳かれて行く野道

街中でいつでも哭けるマスクかな

残月のうすく尖りて花芒

立冬やいつもの猫の通学路

暮れ庭に燭光ともす黄菊かな

老犬をリビングに入れ霜の夜

大根炊く壁に大根染みにけり

新宿の卜占くらき小夜時雨

畦道の草の仄かにもみぢせる

赤き実に鳥の来てゐる冬はじめ

冬天の高きを風の渡りゆく

読みさしの栞に銀杏黄葉かな

ゆるされて仏となりぬ花八手

美しき城下の和菓子初時雨

浅草の帯屋の綺羅や冬の月

冬天や寺を囲みて峡の村

青空の熟柿に小鳥湧き立ちぬ

からみつく世襲の泥や枯芭蕉

校庭のバックネットや冬桜

陸橋に迫る山並み冬の雲

寒昴ポスター褪せて名画館

寒空に己つらぬく雲ひとつ

親せきの少し億劫冬座敷

鯛焼の立ち食ひ愉し日は真上

言の葉の金紗銀紗や冬銀河

さいたまの森のあをあを冬はじめ

文明に文化およばず青写真

母恋の信長かなしちやんちやんこ

二百年生きし緋鯉や年の暮

男靴女靴あり年忘れ

アフガンの子らの眸や開戦日

地下のジャズ喫茶閉店十二月

冬ぬくし家族写真のみな笑顔

ねんねこに守りて大事小粒の子

親ごころ子には伝へず敷松葉

街燈のともる瞬間冬夕べ

彼の年の戦災孤児や除夜の鐘

冬晴や新車を運ぶトレーラー

鳥ひとつ頭上を過ぎる枯野道

砂浴びの雀ぴちぴち十二月

武蔵野に冬日あまねく古墳群

日の舟のゆらりゆらりと冬の川

指抜けば指のかたちの手套かな

うつし世のあはれを誘ふ冬の蝶

憐みは無用にて候冬の草

トラックに丸太ぎつしり雪催ひ

大福をひとつ買ひ来る漱石忌

冬木の芽小さき紅を一つずつ


【2022年】

体幹をまず鍛へたる初稽古

両雄の語り痛快読み初め

蒲公英に冬野のひかり集ひけり

玉あられ顔だけ出せる犬の小屋

ひたと据ゑ少女のひとみ弓始

明け初めてうすむらさきや初筑波

すこやかな家族のたより石蕗の花

大切のいくつもあらず月冴ゆる

買初の一筆箋の隅に猫

雪嶺の向かう怒濤の日本海

女てふ俳号かなし久女の忌

丁字路のビルの寒灯五階まで

サボテンの朱に砂漠見る室の花

枯野ゆく犬も枯れ色軽井沢

日銀の守衛のモール寒の入

うつし世をひよいと跨ぎて雪女

寮の灯のひとつ点りて三日かな

「我伝」てふ蕎麦屋の暖簾寒の入

吉兆の記の字の名刺初仕事

地方紙に課題ばかりと賀状来る

世は世としわれはわれなり小正月

ジャージ穿く女子高生や寒の入

成人の日の街騒の言祝げり

真冬日の蛍光灯の蒼さかな

家郷なき小禽ひとつ冬茜

冬鳥に好かれし枝に日の集ふ

一月やきれいに生きてゆきたけり

引き絞る弓のうなりや雪囲

年ごとに極むる簡素根深汁

ポインセチア女あるじの細き腰

肋骨の間隙なぞる霜夜かな

桔梗色このむ官兵衛竜の玉

あかるさといふさびしさや冬雲雀

日経をカフェで読みたる三日かな

今日よりは二月のひかり路地の土

和食屋の椀と箸の絵二月かな

春寒にさらされゐたる小家かな

湧水を汲む人だかり春浅し

二月の空手道場玻璃ひかる

節分や山家の鬼の頬赤し

二月の光を卓に呼びにけり

立春大吉札を掲げて麓の寺

佐殿の伊豆の配所や梅の花

赤き布巻かれしきつね稲荷講

くくと飲む白湯の甘さや春の暁

マンションの槌音高き二月かな

バレンタインデーこの子とあの子みな大事

自転車の宅配便や日脚伸ぶ

目薬を使ひきりたる二月尽

春浅しビルの谷間の喫茶店

人形のいい子にしたる春の宵

七曜の日課定まり水温む

これやこの春満月の武蔵野に

春宵に椅子の背もたれ軋みけり

やみてのちまた降りしきる春の雪

ウィンドに帯一条や冴返る

走り根にさみどり奔る雪間水

春雪に軒端の灯り滲み出す

含羞みてバレンタインの男の子

行きかけて振り向く猫や春の昼

黄水仙テニスコートは野戦場

公園の正午のチャイム水温む

縄文のビーナスの口浅き春

春一番吹きて踝冷へにけり

三月の光したたる水の星

春浅し平家に哭きて隠れ月

どこまでも気丈で通すクロッカス

ピアノ弾く少女のうなじ卒業す

まんさくや母校の門の旧漢字

河岸に山羊はなたれて柳かな

あたたかや診察室の患者の絵

普通とは凡庸のこと蜷の道

春一番昼三日月を研ぎにけり

無口なる一日となりて宗易忌

急に家追ひ立てられて春の泥

三月の風の育てる光かな

春日傘川に連れ添ふ街の道

横ぎれる猫の胴長クロッカス

うぐひすや親の心配いくつまで

おおぞらの帆布の撓みや春の昼

陽春やマスクの横のイヤリング

校庭に「野ばら」のピアノ春休

家籠の令和四年の西行忌

陽春の二之丸整備はかどりぬ

胡桃だれ蕎麦は上田や風光る

手つなぎて弾むを幼やうららけし

囀りや移動図書館バス来る

絵硝子のシェードの鳥や春の宵

目立たずに田んぼの畔に花なずな

たたずめばちぎれ雲ある春野かな

初桜十八歳をむかへる子

ふち厚き珈琲カップ冴返る

身ひとつで国を追はれて雪柳

清明や史書に伝ふる義の心

小流れに白鷺ひとつ蘆の角

恋猫に恋はるる猫のいやいや期

骨董のビクターの犬うららけし

レタス噛むとき星粒を噛むごとし

FMのスタジオの窓花吹雪

一生の今どのあたり花の雨

英傑を欲する民や昭和の日

滅びしは滅びて花の巡りかな

明るさや山より来る春驟雨

まなぢりの仄かな紅や花疲れ

北向きの厨にひとつ夏みかん

街灯のつくとき知らずリラの花

窓開けて電車の車掌花の宴

巣燕に声かけてゆくランドセル

はにかみて少女十八弥生月

文鳥のくちばしの紅うららけし

若蘆を連れて岐るる春の川

うららかや山国なれど山遠し

故郷の山は孤峰や別れ霜

晩春の拭きに拭かれし木目かな

梅桜いつしょに咲きて山の国

市役所の庭の真白な躑躅かな

峠路に十八蕎麦や山桜

校庭の吹奏楽に花吹雪

道の神並べて枝垂桜かな

桜しべ降る本丸の野面積み

ビル風に珈琲の香や蝶の昼

春雷に蔦の館の窓ひかる

花はみな祈りのかたち昼の月

鉄棒に春昼の空回転す

雲の影山に映して芝桜

花桃に先駆けて咲く花杏

金星の潤みて灯る春の宵

格子戸に三弦の音や春の昼

菜の花や空も高嶺も水の色

葉桜や戦地の犬に首輪なく

重箱の筍飯の桜色

ビル街の八幡宮や青嵐

下町や若く貧しくレース編む

苦学てふ古き言葉やリラの花

独裁を育む風土別れ霜

船長は船に殉ずる雲の峰

黒々と蕎麦ぬれぬれと卯月かな

植ゑし田と植ゑざる田ある月曜日

垂直に建てし四本や御柱

忙しげに庭を行く猫新樹光

この朝に届けられたる赤き薔薇

われかつて鳥やも知れず青嵐

影深きモノクロ映画迎へ梅雨

ひとふりの塩味きかす豆の飯

屋上のドクターヘリや積乱雲

ごめんねと郭公哭ける山の寺

ささやきは若人のもの白牡丹

場数てふ道場のあり時鳥

じやがいもの花に真珠の雨が降る

くれなゐのポピーの丘を風わたる

おおぶりのぼうたんひとつ飾り窓

薔薇咲くや戦車地球を破壊する

雪形や海を知らざる川の水

ちぎれ雲ぽぽと吐き出す鯉幟

小流れに小鷺の脚や日の翳り

葉桜やウクライナ史の蒼き翳

紫陽花や月の生まれて東山

亀の子の亀になりゆくその途中

ぼうたんの咲き満つ庭のさびしさよ

百合の香の路地に満ちたる夕べかな

過去よりも未来が大事さくらんぼ

あぢさゐの空にペットを吹きにけり

夏燕あめつち滅ぶやも知れず

夏暁の空に羽ばたく風見鶏

沖縄忌実印重きバッグかな

腕時計たしかむる癖ソーダ水

天窓のひかり眩しき走り梅雨

三尺の子の細腰やゆすらうめ

くれなゐにはにかむ頬や花いばら

峠路の先は見えずに朴の花

五月晴長座布団にごろ寝する

水彩の五重塔や夏木立

われと言ふ口の赤さや巴旦杏

パイナップル熟れて書棚の琉球史

移されし泰山木の空に咲く

紅薔薇と白薔薇と咲く保育園

まなぢりに紅をぽつちり祭の子

本二冊入れしリュックや夏の雲

かるのこの一途に渡る川の道

わだかまり溶けて汲み合ふ新茶かな

寒天のふるへの美しき夏料理

傘立てに傘ひとつあり梅雨の家

花いばら新規開店パンの店

傘さして深紅の薔薇を見てをりぬ

帽子屋の灯りほのかや走り梅雨

足もとに戦前のゐる梅雨の島

宅配の包み大げさ梅雨の月

温かき人柄とゐてソーダ水

木洩日の走り根越へて蟻の列

耳と耳合はせるチーフ花水木

枇杷の実や月ぽつかりと昼の空

藍ゆかた姐さん女房佳き女房

緑陰や風のめくれる歎異抄

ブレーカー脱ぐヨガ教師新樹光

ターンせる郵便バイク青葡萄

麻衣を人の形に着くずして

ファミレスでシニアのデート夏の暁

青ぶだう家つき娘家につく

ざはめきの圏外にゐる糸蜻蛉

けふのこと胸に迫りて髪洗ふ

白皿の粒マスタード夏夕べ

尊厳を傷つけられし水母かな

十薬の花の十字や昼の村

子のつむり撫でて寝かせる夜涼かな

地中海料理を卓に緑夜かな

茄子漬や子らに託せる家の鍵

夏雲やローカル線の時刻表

恐竜の雲を奔らせ夏の空

二歳児の命の軽さ半夏生

夏服を五つ留めたる貝釦

おもしろき浮世ながめて砂日傘

設計図なき人生や月涼し

究極のどんでん返し夏芝居

夏割れて戦後の闇の噴出す

蜜豆や佳きことのみを語りゐる

青柿やいまも異端のわれなれば

夏の暁雲を縁どる茜色

ボールペンくるりとまはす夏の果

夏果ての星したがへて月ひとつ

きゆつきゆつと洗ふ手首や夏旺ん

肩上げのいとけなき子の浴衣かな

打水や袋小路の城下町

親ガチャと言はれる世代夏果つる

投げ銭を打つ頃合ひや村芝居

銀漢や宇宙も不滅ならずして

大ぶりの薬缶に香る麦茶かな

われといふ厄介なもの薬掘る

秋扇すげーセンスとたまげゐる

強引なハッピーエンド夏の果

♯付けてみたくて秋暑し

秋暑し写経グッズの揃ひたる

ひぐらしや墓前の父母に報告す

若書きの素朴を愛す夜の秋

屑桜小さき漆器を濡らしけり

出し汁の硝子に澄みて冷素麺

敵役どうと斃るる村芝居

雨音の平屋の屋根に文月かな

白檀の香りほのかや秋扇

変電所白く照らして秋の暁

花畑風のささやく花言葉

ほんたうは見えない星も飛んでゐる

伏せてあるブリキのバケツ秋立ちぬ

草むらに雀こぼして秋立ちぬ

卓に置く大学ノート青みかん

みづうみの魚のあをさや文月来る

つつと雨はしらせ芭蕉もくねんと

ソファ去りリビング広き九月かな

ゴビ砂漠垂直に立つ天の川

畦道の馬頭観音秋の声

年ごとに手首の痩せて水澄めり

秋の日にレースカーテン洗ひをり

秋澄みて宿根草を鉢植ゑに

豆菓子の看板褪せて秋の雲

稲の秋橋の向かうは旧市街

秋涼しメニュー刷新喫茶店

鶏頭にゆふべの雨の匂ふなり

捨て猫の鳴いてゐるよな黍嵐

遭はねども慕はしきひと銀木犀

わが家族遠くに住める良夜かな

炭酸の抜けし炭酸夏の果

芙蓉咲く浅間はけふも薄けむり

あるがまま照らし出したる稲光

朱の漆器そば湯も甘き走り蕎麦

とりあへず飯の支度や野分あと

秋の日を集めて野辺の仏かな

地下鉄を出れば頭上の鰯雲

薄桃の栞はさみて夢二の忌

秋天や暗渠の水の音高し

改札に子らを待ちゐる秋日和

いもうとに少女の面輪あきざくら

大屋根に踊り出でたる今日の月

帰国待つ友のたよりや花芙蓉

気配消す笙の楽人良夜かな

街中の川面に割れる十三夜

稲妻の真下を走る小海線

歳時記の去年の染みや九月尽

黄昏をひつそり連れて銀木犀

清書して秋の気配や歎異抄

底紅やをさな見る目のやはらかさ

それぞれに事情のありて梨を剥く

蜜ひめて林檎ひとつの宇宙かな

桃むきて負のスパイラル解き放つ

独り居に月ひとつある小窓かな

湖のあを空のあを濃し秋の声

菊の束前籠に入れ通過せり

道の辺に泉湧くごと花すすき

プラモデル完成間近青みかん

子の帰る家は都会や秋暮るる

畳屋はかつて犬友あきざくら

柳散る官公街の昼休み

立てかけて畔の自転車稲雀

弥陀仏の他力宇宙や後の月

実柘榴や涙袋のふつくらと

坂下に老女ふたりや柿の庭

秋の夜の一等星とその他星

絵のごとく無人駅ある花野かな

冬の朝ルイボスティの紅深し

新築の庭よりつづく稲の秋

雁渡し子らの実家を守るわれ

われを待つ小さき玄関冬の暮

竜胆のやや混み合へる壺の口

グランドの投手は少女木の実降る

だつこして運ぶ老犬つくつくし

風立てば花の湧き立つ花野かな

つやつやと円満顔の栗三つ

旅のゆめ姫路鎌倉実南天

十月や昨日と今日の句読点

室町の星見るふしぎ虫集く

星散りて夜には夜の桐一葉

地に足の着きたる仕事とろろ汁

窓際に移すベッドや夜の林檎

ぽつねんと瀬音を聴ける木守柿

中庭のバスケゴールに秋日ざし

土鋤けばほろりとほぐる小春かな

ベランダに布団のふたつ日本かな

声連れて影の速さよ冬の鳥

ざはめきて桜紅葉のおもてうら

スカイツリーと東京タワー冬夕焼

小春日やペンキ塗りたて青ベンチ

回収の郵袋ずしり冬の雷

夕焼け小焼け大縄跳びに入れぬ子

カフェの灯に吹き寄せられて冬の蝶

青菜のせチキンラーメン冬の卓

夜の墓に布団きせたし不孝の子

日の色を分かち群れ咲く野菊かな

一夜かけ金星西へ冬の暁

演技座の出待ち数人冬の月

群れ咲ける黄菊赤菊まちの騒

大切にされゐるむすめ実南天

首都圏の引力つよし冬の月

亡き人の善きことばかり冬銀河

苔ひかり桜紅葉の降りしきる

石仏に江戸の銘あり初時雨

野の風を一途に恋ふる冬林檎

南方に八ヶ岳を連ねて冬浅間

孤立せぬ孤独尊し冬の空

冬の雷ピアノのありし頃の家

カーテンを半分開けて冬の雨

小春日や屋根に親子の風見馬

一陽来復坂の上なる禅の寺

あれ以来観たき映画のなくて冬

そのなかに義民の墓も初時雨

風凪ぎてタイルの道に紅葉舞ふ

一輪の遅れて咲きし冬の薔薇

国恋の残留孤児や開戦日

凸凹の丸の四つや冬至風呂

熊の子よ早う帰れよ奥山へ

自転車の進まぬ浅間颪かな

宝くじ売り場の旗に空つ風

北吹くや出窓の猫の箱座り

言ひかけてやめる癖あり鮟鱇鍋

冬麗や自在に動く絵描きの手

縄文の人も見たるか冬青空

黒土のさくりと解る鍬の先

ペン胼胝のまだ少しあり冬林檎

くれなゐの真冬の峰に神在はす

家中のカーテン閉めよ霜の夜

雑炊を馳走としたる夕餉かな

浮寝鳥うかせお堀の水鏡

廃屋の煉瓦の紅や冬青空

葉脈の無尽に奔る冬菜かな

外犬の庭を褥や干し大根

教会の真白きイエス十二月

年の瀬の残業帰りミルフィーユ

凍星の欠片を踏める夜道かな

柿色のウールジャケツで地下街へ

山巓の薄く研がれて十二月

高空を渡る風あり冬木の芽

冬晴や大きくまはるトレーラー

猫の目のトパーズ色や枯野道

葱畝に棒一本のかしぎをり

凩や教会の扉の閉ぢてあり

裏ぎりの天守の鯱や冬青空

冬服の繊維に絡む記憶かな

月に添ふ金星火星冬の暁

枯野道魔女のマークの清掃車

煤逃げの医師の出て来るパチンコ屋

高層に灯りひとつや冬至風呂

満天星に朴の枯葉の一つあり


【2023年】  

初霰鶺鴒の背中叩きけり

まだ恋を知らぬ若君読始

老幹にひかり集へるお正月

置き文に新たな署名お元日

瀬戸物の狸の腹や賀状来る

川岸に冬たんぽぽの並び咲く

冬日さす周遊バスの椅子低し

おほぞらに鋼張り詰む寒日和

数へ日の暮れて家電の音ばかり

代替りして繁盛や晦日蕎麦

折り紙の動物もゐる飾りかな

赤き実に小鳥来ているお正月

遥かなる山の幾重やお元日

明け空に金星潤む初詣

鼈甲に染みる大根おでん鍋

幼くて「はい」と答へぬ雪兎

こころざし紅に秘めたる冬木の芽

かさかさと枯葉の客や風の舟

枯草に混じるさみどり三輪車

松明けの野球少年声太し

運ばれる赤き新車や牡丹雪

鮟鱇鍋となりの席にたれか来る

公園の夕日凍りて時計台

すこやかに生きて飲み干す寒の水

昼風呂の檜の香り寒波来る

根菜の味噌汁に寒卵かな

自転車に寄り添ふ影や春隣

冬薔薇の蕾育む日向かな

明々と丘の学校春隣

表札に犬の名前や福寿草

冴返る空にうりざね朝の月

大寒の深夜ラジオに能を聴く

冴返る電気ケトルの赤ランプ

春めくや潮目の変はる誕生日

た走れる水にも影や春立ちぬ

歳時記に小鳥の声や二月来る

少女ゐて庭のはこべに鶏放つ

紅梅や海苔の佃煮ぽんと開く

のこされし心のゆくへ桜貝

ちらし寿司ふうわり桶に春の雪

通過せる観光バスに春日ざし

ものの影淡く這はせて春の午後

胸に棲む童話の少女春の雪

老犬の歩みそろりと春の昼

ほのぼのと玻璃いつぱいに春夕焼

鬼やらひ豆待つ犬の耳透けて

寒明や手負ひの息子帰省せる

春浅きコーンスープに薄き膜

佐保姫を恋ふ山鳩の声掠れ

春雪や古き詩集に挿画散る

二月の雲に入りゆく暁の月

坂道の四か寺巡る春日傘

煌めきつ中洲を巡る春の水

卓上の五色の付せん牡丹雪

連山をめぐらす盆地風光る

風かよふ古き校舎や春落葉

天窓の絵硝子の鳥二月来る

あをあをと水藻育てて春の川

あたたかや以下略とせる引用文

妖精のころも透かせて春の風

春雪や空に吸はれて鳥の旅

振れば鳴る音のかすかや種袋

取り寄せてまづ振りてみる種袋

囀や枝に音符を置くごとし

来年のこと語りをく挿木かな

千円の品出しバイト夏みかん

雨だれは太古の鼓動牡丹の芽

若き師の額の秀でヒヤシンス

鳥雲に並木は川に沿ひにけり

世の中の恐ろしくなり春の蜂

母と子の歳月充ちて卒業歌

茨の芽くれなゐ増して街の音

手の平に合はせたるかに夏蜜柑

目が顔のごとき仔犬やひこばゆる

三椏の花や原色アート展

海棠や太極拳の靴の裏

子らの拠り所たらんと土筆摘む

またひとつ悲しみの星犬ふぐり

好きに風吹かせてをきぬ雪柳

繊月の薄く釣らるる余寒かな

初梅や空のキャンバス独り占め

佐保姫に接吻されし狭庭かな

川音に育てられたる蕗の薹

天真がひよこひよこ歩く仔馬かな

春浅しシティホテルの窓ひかる

沈丁の咲くよ咲くよと笑ひけり

まひる野に星の曾孫の犬ふぐり

白鳥の引きし山脈沈黙す

ちんまりと座る小猫や白木蓮

義の心彼の地にありや夜の梅

をさなき目したる仔豚や雪解風

巣立鳥胸筋ひとつを恃みとす

ごわごわと両手組ませる余寒かな

いぬふぐり暮色せまれる靴の先

壊されし地球の悲鳴クロッカス

花盛り川のこちらと向かひ側

子を寮に残せし帰路の花吹雪

花時の鷹匠町の裏小路

花水木咲くや動物診療所

風なくて浅間駘蕩春田打

白熱の議論の窓の半仙蔵

春色をちらかしてゆく風と靴

亀鳴くや妬心の淡くなるばかり

むらさきに山影淡し蝶の舞

花冷や合掌ならぶ村の神

曇低く古墳の眠し花杏

麓から咲きのぼりゆく山桜

月日貝生きたきやうに生きたけり

黒き眸をきよとんと猫のをさな妻

板塀の聖書のことば春暑し

終着の鉄路の軋み山笑ふ

永き日や順番表の仮名苗字

川船の苗字数軒かきつばた

西空に尖る山巓別れ霜

咲き満ちて一片こぼす桜かな

ぢゆぢゆぢゆぢゆと少し濁りて囀りぬ

観光バスの車体の海豚花明り

古墳から街や憲法記念の日

行く春や碓氷峠の長き橋

ムスカリを吹き抜け風の紫紺色

匂ひ立つくれなゐの頬五月の子

真新しバスケゴールや紫木蓮

地下鉄の出口ややこし薄暑光

母と子の白き木綿や夏来る

少年の眸の黒き清和かな

金色の千代紙ひらり夏の月

坂多き南麻布の緑雨かな

どこからも見える尖塔夏の宵

軒先の真青なバイク梅雨に入る

オムレツにパセリの森を添へて朝

北国のDNAやリラの花

庭下駄や川辺の宿の瑠璃蜥蜴

Welcome犬を濡らせる緑雨かな

酢昆布の孤独を食みて水中花

新人のネクタイ散らす青嵐

仔雀の風に吹かれてリラの街

ビルの間に尖る山巓夏の暁

夏空に風見鶏舞ふ時計台

青嵐や大使館街ゆきどまり

打掛の深紅卯の花くだしかな

永き日の夜更けの駅に降り立ちぬ

近ごろの涙もろさや聖五月

白壁の暮れ残りたる早苗月

かきつばた江戸期に拓く用水路

強面で情に厚くてところてん

若葉には若葉の翳り白き家

田水張る空が二枚になりにけり

仔雀のちちとも鳴かず藤の雨

夕薄暑あんぱんの臍押してみる

源流は木曾より茅花流しかな

天泣に赤き自転車ひかる夏

囀や双り児のせて乳母車

かすれゆく飛行機雲や柿若葉

緑の夜鹿鳴館のシャンデリア

まつすぐに生きてゆかうね杜若

緑陰や宇宙の端で待ち合せ

引いて突く正拳突きの裸足かな

ヒヤシンス脳と心を同期する

力士みなテーピングせり夏相撲

川速くニセアカシアの花匂ふ

母の日の子であり母である自分

海賊の飛び出す絵本緑の夜

雨傘にあぢさゐ色を散らしけり

りんりんりん一輪二輪三輪草

姨捨のスイッチバック夏の月

柿若葉ほろりと酢飯ほぐれけり

夏空にスパーク海豚ジャンピング

岳人のブロンズ像やライラック

ミスチルの「箒星」降る天の川

風涼し卓の器に庭の花

ユキといふ犬の絵本や緑の夜

諦めをかりかり食める金魚かな

みいちやんの居場所はここよ白牡丹

ひとところ凹んでをりぬ麦の秋

夏空にラウンドキック決めにけり

山麓の小さき駅舎花あやめ

駅弁や雲丹と蟹との贅尽くし

波蹴りて積乱雲にイルカ跳ぶ

六月や玻璃に映して青もみぢ

浅漬の茄子の紫紺の滲みけり

夕星の釣られて赤し梅雨湿り

隠し湯へ抜ける杣道夏の月

緑蔭に馬つながれて軽井沢

眦に紅ひと刷けや祭の子

蕗炊きて小鉢たのしむ夕餉かな

泳ぎ来る鯉の目われを捉へけり

あぢさゐの花芯に犬の幼顔

機影なき音を仰げる立葵

心太おのが姿を知らざりき

夏帯や耳が覚へしわらべ唄


[連作:空が二枚に 🎐]

少年の眸の黒き清和かな

床の鳴る森の図書館新樹光

春の海チョーク引くごと船進む

田水張る空が二枚になりにけり

トランペット響く河原や山笑ふ

りんりんりん一輪二輪三輪草

海賊の飛び出す絵本緑の夜

川べりの絵画教室花いばら

母と子の白き木綿や夏来る

花茣蓙や幼き頬の泣きぼくろ

バス停に祖父と孫あり山法師

若葉には若葉の翳り白き家

西日射す新宿のまち発酵す

同窓会居場所のありや草いきれ

鶏頭にゆふべの雨の匂ふなり

牧柵に弾くバンジョーや秋高し

背きし子を門に待つ父秋の暮

冬麗や遠き町まで弓買ひに

膝掛や沈黙三日スマホ鳴る

日脚伸ぶ駅より放射状の街


[連作:あんぱんの臍 🍨]

鯖缶を丸ごと皿へ春隣

紅梅や海苔の佃煮ぽんと開く

どの家か干物焼くらし春の朝

卒業や牛丼に盛る紅しやうが

アボカドの種の無口や初燕

柿若葉ほろりと酢飯ほぐれけり

夕薄暑あんぱんの臍押してみる

オムレツにパセリの森を添へて朝

浅漬の茄子の紫紺の滲みけり

蜜豆や佳きことのみを語りゐる

舞鶴の海軍カレー白日傘

駅弁や雲丹と蟹との贅尽くし

白き朝トマトのスープ熱くして

烏賊刺の透きて緑の地酒かな

塀ごしに呵々大笑の柘榴たり

粗塩のほのかに甘き秋刀魚かな

ゆきひらに炊く白粥や霜の朝

プラモデル完成間近青みかん

熱々のショコラオーレや一葉忌

言ひかけてやめる癖あり鮟鱇鍋


[連作:星の伝言 🌠]

グーグルで探す居酒屋春の月

菜の花や空も高嶺も水の色

緑蔭や宇宙の端で待ち合はせ

夏空にラウンドキック決めにけり

街なかの小さき教会雲の峰

高く咲く金木犀に宵の星

秋空を押し返したる鶏頭花

金色の雲のかがよふ夕花野

ウクレレの弦のゆるみや星飛べり

ミスチルの「箒星」降る天の川

缶バッジみたいな月のぽんと出る

満月や子のなき家にもある家にも

切り取りて一眼レフの良夜かな

ヴィンテージジーンズのあな巴里の月

コスモスや星の伝言さはさはと

残月のうすく尖りて花すすき

解体の窓枠四角寒北斗

オリオンや言葉を選ぶ川の道

浅草の帯屋の綺羅や冬の月

寒すばる片方だけの耳飾り


[連作:耳敷きて 🦮]

大型犬ふはふは笑ふ栗の花

花いばら木曽馬の耳やはらかし

麦あらし野獣一頭駆け抜ける

みいちやんの居場所はここよ白牡丹

なす術もなく刈られゐる羊かな

緑蔭に馬つながれて軽井沢

庭下駄や川辺の宿の瑠璃蜥蜴

こう見えて硬骨漢の水母たり

家ごとに小橋あるまち夕蛍

戦争に征きし耕馬や遠花火

耳敷きて眠れる仔犬秋うらら

亀どちのひとつ方向く秋の昼

腹見せて吹かるる雀初あらし

犬の名を寅さんといふ鰯雲

あかるさといふさびしさや冬雲雀

スーパーの品出しバイト石叩き

簡単に買はれゆく犬小晦日

三連符打つ啄木鳥の「冬の旅」

春雪や帽子かぶせて猫の墓

犬の尾に満ちる力や春隣


[連作:バッグの骨 👝]

ねんねこの子の息甘しひとつ星

夏暁や病む子のまぶた薄くして

子のつむり撫でて寝かせる夜涼かな

北風や握り返して幼の手

少年のうなじの青さ聖五月

夕やけや大縄跳びに入れぬ子

遠足のしんがりとなる小柄な子

まつすぐに生きてゆかうね杜若

すんなりと肩に少女の洗ひ髪

ピアノ弾く少女のうなじ卒業す

清明やポニーテールの理系女子

ふつくらと十八歳の浴衣かな

秋澄むやバッグに入れて犬の骨

大切にされゐるむすめ冬すみれ

花芙蓉あねさん女房よき女房

親ごころ子には伝へず敷松葉

夜の墓に布団着せたし不孝の子

赤き実に小鳥来てゐるお正月

すこやかな家族のたより石蕗の花

春光や家族写真の横一列


[連作:からくり時計 🎠]

春浅しシティホテルの窓光る

鳥雲に並木は川に沿ひにけり

黄緑に湧き立つ空やポプラの芽

身一つにウェストポーチ新樹光

春塵にからくり時計まはり出す

菜種梅雨ランタンともす喫茶店

山背負ひ小さき役所藤の雨

隠し湯へ抜ける杣道夏の月

夏暁の空に羽ばたく風見鶏

城下図に書肆の名さがす夏座敷

蜩やタイムカプセル埋めてゐる

うつし世を立ち去りがたく秋蛍

実柘榴や外階段の英語塾

サフランや溥儀の波乱の上下巻

川へだて村と町あり山粧ふ

影連れて走るトラック冬の雲

宝くじ売り場の旗に空っ風

餃子屋の二階の塾やクリスマス

起重機の宙へ伸び行く寒四郎

二月の光の粒の立ちにけり


[連作:乱反射 🍹]

北向きのペットショップや春北風

げんげ野を征きたる馬の鎮魂碑

天空に花散る里の侘び住まひ

ブラウスの少女のかひな花水木

懸崖の山城跡や夏の風

設計図なき人生や月涼し

安寧をふはり広げる日傘かな

抜け出せぬ思考の迷路髪洗ふ

大切を仕舞ふ小部屋や白桔梗

底紅や生き過ぎたとも足らぬとも

軒低き職人町の銀木犀

文月の風の竪琴つまびける

読みさしの栞に銀杏黄葉かな

叱られて腹出す犬やゐのこづち

秋蝶に連山ひだを極めけり

木枯の木枯を押す野面かな

冴ゆる夜の乱反射せる江戸切子

冬麗やゆるりと組める結跏趺坐

ひと粒のなみだとなりて枯木星

絵硝子に午後の日差しや水温む


[連作:日の舟 ⛵]

春浅しふもとの村の屋根光る

眉ひらく今朝の鏡や春の雪

坂多き南麻布の緑雨かな

緑蔭や風のめくれる歎異抄

くれなゐのポピーの丘を風わたる

過去よりも未来が大事さくらんぼ

風光るアコーディオンの蛇腹かな

身ひとつで死にゆく身なり花の雨

野に光みちて八十八夜かな

夕風の身八つ口抜け夏の月

愛されて馬の余生や秋うらら

赤のまま大きな墓と小さき墓

とりあへず飯の支度や野分あと

襟合はす十一月のしづけさに

愉しき日トルコブルーの毛糸編む

日の舟のゆらりゆらりと冬の川

片方の折れて人待つブーツかな

ポケットに手袋のある夜旅かな

リビングの小さき版画や年の暮

すこやかに生きて飲み干す寒の水


[連作:水蜜桃 🍑]

表札に犬の名前や福寿草

鬼やらひ豆待つ猫の耳透けて

川音に育てられたる蕗の薹

地中海料理を卓に緑の夜

ちんまりと座る小猫や白木蓮

梅雨寒や腹に温めて犬の鼻

高床の洋食店や濃紫陽花

朝採の茗荷甘酢に薄紅に

ぽつちりの粒マスタード夏灯

強面で情に厚くてところてん

腕時計たしかむる癖ソーダ水

月日貝生きたきやうに生きたけり

愛着や青きりんごの堅きこと

アルバムの街の匂ひや水蜜桃

市役所の横は日銀ざくろ熟る

だつこして帰る老犬つくつくし

鷹飛びて匠の拳つかみけり

北吹くや出窓の猫の箱座り

代替りして繁盛や晦日蕎麦

極寒のルイボスティの紅深し


[連作:枝の音符 🪺]

囀や枝に音符を置くごとし

ぢゆぢゆぢゆぢゆと少し濁りて囀りぬ

小夜曲ひとり聴きゐる緑の夜

亀鳴くや絵の女われを見つめをり

夏夕べ幼のピアノ猫ふんじやつた

エリーゼに捧げるメロディ夏の月

シャーペンの芯のでこでこ扇風機

司書問へる「お探しですか」冷房音

屋上にドクターヘリや夏の雲

形あるものみなむなし蝉時雨

駅前のガールズバンド秋うらら

笙あぶる烏帽子の楽人良夜かな

改札に子らを迎へる秋日和

子ら帰る家は都会や秋の声

室町の星見るふしぎ虫集く

山頂の野外ライブや星月夜

孤立せぬ孤独のなごみ草雲雀

かさかさと枯葉の客や風の舟

大寒の深夜ラジオに能を聴く

レコードの軋めるジャズや冬深し


[連作:古墳の里 🍈]

西空に尖る山巓別れ霜

連山を巡らす盆地風光る

風なくて浅間駘蕩春田打

雲低く古墳のねむし花杏

かきつばた江戸期に拓く用水路

花冷の鷹匠町の裏小路

夕風のかすかな枝垂桜かな

行く春や碓氷峠の長き橋

集落を縫ひゆく堰や夏木立

夏芝居繊維工場の跡地にて

パルコ前にピンクの車夏氷

雛僧の肩の撫で肩茄子の馬

永訣の分水嶺のほたるかな

廃校の窓のぴかぴか秋の雲

日の色を分けて耀う葉鶏頭

繊月の研ぎて釣らるる夜寒かな

堀越に黙せる天守クリスマス

教会の真白きイエス十二月

冴返る電気ケトルの赤ランプ

冬晴や大きくまはるトレーラー


[連作:白桔梗 🌼]

た走れる水にも影や春立ちぬ

山麓の無人の駅舎花あやめ

はなみずき咲くや動物診療所

青い鳥びつしり咲かせ青紫陽花

手のひらに水の真珠や夏の朝

星涼し心裏に棲めるわが少女

不仕合せ仕合せどつち水中花

置物の猫ほんものの猫ラムネ玉

往年のイタリア映画サングラス

雑念の入りやすき日あつぱつぱ

世にをとこおほしとおもふ凌霄花

けうだいのやうな恋人アマリリス

麻衣を人のかたちに着くずして

世人みなわれをそしりぬ泡立草

白桔梗こころに風の吹く日なり

秋澄むや書店の棚の文字あまた

さんづけで呼ばるる妻や花木槿

詩の生まる時ふひに来る鳳仙花

数へ日の暮れて家電の音ばかり

銀漢や宇宙も不滅ならずして


[連作:雲海幻想 🌄]

短夜のあけゆく夢に山の風

ひつそりと葡萄郷なるワイナリー

山法師の花バイクに道を譲りけり

手を振りて先ゆくバイク青葉木菟

苔むせる廃墟の庭や草いきれ

熊笹と羊歯の増へゆく若葉山

いつの間に白樺の森かんこ鳥

どどどどとダンプ降り来る夏の暁

雲海に稜線ならべ四方の山

標高二千風のとがれる夏蓬

山頂に畳む二つのハンモック

林野庁の標識かすれ高山蝶

夏空に牧たれし牛動かざる

木道の傷みのはげし夏帽子

久女恋ふ山ほととぎすほしいまゝ

旧式のバス上り来るサングラス

体幹でくだるヘアピン青芒

対向車ふひに現はる木下闇

ひと息にワイナリーまで百日草

街の夏いつものカフェの独り客


[連作:瑠璃の羽 🟣]

真直ぐに降りたる雨や青紫陽花

半間を暮れのこしたる白紫陽花

岳人のブロンズ像やライラック

コンビニの跡にコンビニ山法師

ひとところ凹んでをりぬ麦の秋

向日葵や民泊に見る万国旗

折り畳み日傘たたんで入り来る

サルビアや熱砂の鳩を逃しやる

新任の監督若しサングラス

短パンにプーマ跳躍雲の峰

道に添ふ山川鉄路えごの花

道の駅しかない里の河鹿笛

たつぷりの水ゆつたりと夏の川

滝はねてオオムラサキの瑠璃の羽

猛暑日やビルの傾斜の迫る街

土用太郎胴体薄くなりにけり

少女らのくるぶしひかるサンドレス

カチューシャはいや痛いから青葡萄

晩夏光フリーランスに矜持あり

山国のサーフボートや夏惜しむ


[連作:銀河立つ 🌌]

敦煌の砂塵を浴びて西瓜売

緑さす莫高窟のほとけかな

星涼し絹の道ゆく汽車の旅

垂直に銀河の立てる地平線

戦跡をめぐる旅なり沖縄忌

琉球の昔のはるか沙羅の花

茉莉花や手製チャンプル旨苦し

責め負はす沖縄人(うちなんちゅー)や夏怒涛

海に向く天草太郎風光る

向日葵や熊本城の矢玉瑕

瀬戸内の波おだやかに秋日和

星飛びて六甲山の夜景かな

太陽の塔で待ちゐる受験生

山柿や紀州で生まる真田紐

真緑の佐渡の若布やたらい舟

冬ざれやたちまち曇る関ヶ原

陸奥の白石城の穀雨かな

天高し磐梯山は会津富士

活きのよき坂東太郎の鰻かな

侘助や忍城のぞむ古墳群


[連作:ラムネ玉 🏝️]

天地に満ちる歓喜や夏の暁

街騒の枕辺に寄す青すだれ

未使用の二種免かへし星涼し

夏灯し湯船に揉めるふくらはぎ

ぴたぴたと床に裸足を愉します

サンダルで行くコンビニのプリンかな

夏のれん高野豆腐を煮ふくめる

塩昆布に夏野菜もみ夕餉とす

深海の夢を見てゐるラムネ玉

サイダーのあをの全き海の色

夏シャツをぐるんぐるんと洗濯機

ほんたうは初音ミクなのサンドレス

白日傘ベリーショートの髪軽し

ごろごろと目の傷む日の麦茶かな

ふと犬の匂ひのしたる扇風機

母だけが頼りだつた子夏の月

はるかなる家族そろひし夏夕べ

あの頃にぎゆつと固まる走馬灯

好日やさつと涼風吹き抜けて

愉しまんいまこのときを花氷


[連作:祭囃子 👘]

夕立に浄められたる櫓かな

格子戸に祭提灯ともりけり

涼風の逢初橋で待ち合せ

巾着の和柄もゆかし白絣

からからと祭の街へ下駄鳴らす

少女らの浴衣の帯のとりどりに

祭ばやし町内会の連競ふ

信金の連の見えたる大団扇

立葵医師とナースの連来る

鶏頭や押忍の気合の空手連

五年二組の祭広場のブレーキング

ラッパーに目を瞠りたる金魚かな

スタジオの有線テレビ藍浴衣

差入のアイスクリーム実況す

烏賊やきの匂ひ漂ふホテル前

呉服屋の女将出店に扇子売る

列なせるB級グルメあつぱつぱ

ビル裏にすくむ猫の目ラムネ玉

祭果てうしろすがたの散りゆきぬ

ひきあげて屋台あとなる秋気かな


[連作:花野みち 🌺]

秋灯やジョバンニ通ふ活版所

北方の父待つ母子の秋の夜半

身に入むや病母のミルク案じゐる

秋寒やラッコぎらひになりにけり

傷心の丘より望む祭の灯

秋声や海の底なる天気輪

秋澄みて黒曜石の地図ひろぐ

星めぐり口笛ふけば花野みち

水の秋三角標の櫓かな

竜胆のコップ飛ばせる幻燈絵

稲妻や白き十字架「ハレルヤ」を

冷まじや鳥捕るひとの鷺の菓子

車掌問ふ三次空間愁思かな

秋潮に家庭教師の思索せる

金紅のりんごもらひてさびしめる

手旗にて「いまこそわたれわたり鳥」

新世界交響楽や雁渡し

身を挺す蠍座かなし天の川

星飛びて現世と異界つなぎけり

銀漢やカムパネルラの赤帽子


[連作:某月某日 🍧]

明易しとなり近所も起き出して

おごそかや唐紅(からくれなゐ)に夏の暁

ルーティンの筋トレにかく玉の汗

夏野菜サラダ玻璃器に映えにけり

冷房のカフェにひらける古典かな

もどり来て草取せんは冷えのため

猛暑日の熱きラーメン笑み草に

往路とはたがへる帰路や凌霄花

空からの風のまろうど黒揚羽蝶

うすべにの花から花へ黒揚羽蝶

指先のマウスの汗や執筆す

首筋と脇を冷やして氷菓子

窓開けて半身浴や百日紅

ラジオからレゲエのリズム跳ねて夏

鬼滅柄の団扇で風を呼びこめり

ひんやりと長座布団に昼寝かな

扇風機朝ドラ録画観直して

番組の山椒魚のお茶目かな

独り居の夕餉つましく冷素麺

安眠の冷やしまくらや夏の星


[連作:フラミンゴ 🦩]

文机の墨の匂ひやお正月

古雛の樟脳の香の奥座敷

春泥の轍くずれて乾き初む

朧夜に帰る女人の臈長けて

囀や枝葉少しく混み合へり

新刊のインクの匂ふ緑の夜

薫風に紅を散らせてフラミンゴ

眼さうなキリンの耳や若葉風

茄子瓜のぬか漬のせて朝の卓

かたつむり自転の軋む水の星

夕立や土の匂ひのあと先に

白壁のやや物寂びて晩夏光

のうみつなひみつのにほひ水蜜桃

万能のメンソレータムちんちろりん

さやさやと色なき風の通る道

さねかづら襟もと匂ふ恋女房

運びこむ雪の匂ひや藍暖簾

渡る神裾さばき美し氷面鏡

日の色と紫紺とありて冬すみれ

冬たんぽぽ犬の鼻孔の濡れ具合


[連作:熱帯夜 🪟]

夏空にコンパスぐるり観覧車

なつかしの回転木馬ラムネ玉

汗の子をまるつと洗ふ日向水

呪の天瓜粉つけキョンシーに

新聞紙ひろげぽたぽた西瓜かな

熱き日の麦茶の焦げ茶大ご馳走

猛暑日に身の置き所なかりけり

マネキンを射抜く西日や裏通り

端居してやるせなき時流しけり

夕立を待ちて詮なきはだへかな

レンチンで夕餉の汗を惜しみけり

じやあじやあとわずかな皿を夏厨

国道を奔るマフラー熱帯夜

地上波の炸裂トーク熱帯夜

一億の眠りのあさき熱帯夜

庭の花にじみて白き熱帯夜

スペインの街の飾りの冷蔵庫

タオル掛け吸盤ゆるむ冷蔵庫

冷し枕くくくと鳴きて明易し

うつすらと地球の匂ひ夏の暁


[連作:万緑コンサート 🎼]

蜜豆や会館カフェで待ち合せ

クーラーや民芸家具の底光り

老杉の枝と枝との木下闇

万緑や水色褪せぬ旧校舎

大暑なり合唱団は同窓生

ちらほらと学生もゐる夏館

涼風になびく暗幕日の盛り

万緑や百脚ほどのパイプ椅子

夏服や家族一同引き連れて

甚平の老爺も混じる和みかな

折り畳み日傘をたたみ受付へ

香水の仄かな手首かさねおく

緑蔭の講堂に振るタクトかな

ハンカチや舞台のピアノドイツ製

夏シャツに黒のボトムス五十人

女子団員かぶりものして夏旺ん

輪唱に『百万本の薔薇』咲ける

おごそかに『大地讃頌』白団扇

入魂の『遥かな友に』夏木立

全員で『ふるさと』うたふ涼しさよ


[連作:じやがいも 🥔]

酷暑下を車を飛ばしきみ来る

遠くからフリーのあかし夏帽子

手を振り合ふ阿吽の呼吸夏木立

思ふれば三十年の交り青葉かげ

ペン捨てて鍬もつきみの夏衣かな

丹精のじやがいもずしりレジ袋

常のごと文学談義ソーダ水

沈黙も対話のうちや蝉しぐれ

涼しさは農に徹する余生かな

身につきし土着の暮らし夏蓬

若き日の記者のきみ見るてんと虫

へうへうと家族を語るソーダ水

蜜豆の透きし寒天ひとすくひ

床を這ふスローなジャズや冷房音

夏館ぎつしり並ぶパイプ椅子

夏シャツの指揮者の背を見てをりぬ

たちまちに合唱の波大暑かな

涼風やともに歌へるわらべ唄

夏夕べ期日約さず別れけり

じやがいものほつこり甘し夏の宵


[連作:真夏のラーメン 🍜]

朝曇ふとラーメンの匂ひせり

矢も楯も五目ラーメン夏の暁

十分で隣町まで百日紅

万緑や川道鉄路並行す

標識に山城見える猛暑かな

合歓の花分けて自転車現れぬ

日盛りのモールの黙の広さかな

本読みてオープンを待つ冷房車

常連の仲間入りして団扇かな

厨房のうしろすがたに滲む汗

夏シャツの横一列にカウンター

おとなりはムーミンママや氷水

ハンカチと割箸そろへスタンバイ

どんぶりのスープの澄みや扇風機

絶品の烏賊と海老との旨煮そば

あんかけの色とりどりに夏野菜

割引券もらひ暑中に泳ぎ出す

灼熱の車に乗ればどつと汗

十分で帰宅追ひかけ日雷

けふの日の小さき幸ひ髪洗ふ


[連作:花づくし 🌺]

花ミモザ古き洋館水の色

あずさ号車窓彩る桃の花

抜け道の見知らぬ里の花林檎

若き日のもんぺの母や豆の花

木造校舎の二階玻璃越し桐の花

じやがいもの花や仄かに黄昏る

山中に咲く山法師うすみどり

凌霄のこぼれて水路明るうす

翅よりも小さき花吸ふ高山蝶

ばうやうと蒼む山並み百日紅

大寺に消ゆる日傘や合歓の花

三味の音かすかな小路萩の雨

新妻の眉のやはらに秋海棠

桔梗やふるき祠の苔むして

制服のうしろすがたや藤袴

大壺に竜胆投げて老舗蕎麦

白粉花をさなの矜持ちらと見せ

鶏頭のあつき花冠に触れもせで

気に入りのブルーのワンピ鳳仙花

時間軸ひよいと越へたる紫苑かな


[連作:文月八月 🪰]

八月や I was born 呟ける

短冊に散らし書きして文月かな

さまよへる御霊の化身秋の蝶

般若心経唱へてしきり蝉時雨

慟哭のひめゆり隊や仏桑花

洞窟のしじまの声や沖縄忌

過ちの種蒔きつづけ広島忌

南国の空のまさをや長崎忌

終戦日特攻兵の絹マフラー

硫黄島の海澄み渡り敗戦忌

北の果てシベリアにゐる夏の果て

戦争の愚昧真っ赤なハイビスカス

満洲に散りし移民や凌霄花

ひぐらしや再開拓の鍬振う

秋津洲永久の八月十五日

復員のゴム水筒や踊の輪

異国より帰る兵士や盂蘭盆会

ふるさとに線香花火散華せり

いさかひの絶へぬ人界秋立ちぬ

うつし世を立ち去りがたく秋蛍


[連作:涼夜かな 🌌]

クーラー消し三方の窓開け放つ

涼風のどつと吹きこむ小家かな

汗ばまぬ肌のさらりと慕はしき

久方の毛布やさしきベッドかな

あかあかと眼裏よぎる走馬燈

ただ今と過去と未来や星涼し

ひたひたと街の騒寄せ明易し

網戸越し枝葉のゆらぎ常夜燈

長袖のガーゼパジャマの涼夜かな

香ばしき麦茶を飲みて寝に就ける

枕辺に星降る音を聴いてをり

目醒めれば丑三つ時や月涼し

ひゆうと風ふくらんで来る夏の果

しゆくしゆくと虫を育くむ外の闇

薄闇にかざすてのひら夏の夜半

くるぶしを撫でゆく風や秋近し

前倒し季節を思ふ夜の秋

希望的地球の未来夏芝居

もうつぎの夏の心配苦労性

起き出して連作紡ぐ夏の暁


[連作:ライブ序曲 🎶]

短夜を眠れぬままに暁へ

朦朧と朝一カフェへ油照

寝不足の客と店員サングラス

歳時記に詠む連作やソーダ水

信号のビルの日蔭の涼しさよ

首都圏にはたらく家族夏の雲

商店は出店のしたく炎天下

夏川や露店の軒を並べ初む

烏賊やきやりんご綿飴にぎやかに

お好みと金魚すくひはまだらしき

足取りも軽き浴衣の少女たち

威勢よく青い法被の男子たち

図書館の海の底めく夏木立

冷房音閉架の本を依頼する

帰り来て麦茶飲み干し入浴す

まなうらに昔の祭り愉しめる

傾けばさしもの溽暑いくらかは

どうぞもう酷暑治めと願ひます

遠雷もけふは近くへ寄らざりき

日の入りや祭囃子の聴こへ初む


[連作:本たちの夏 📚]

冷房や書店の棚の別世界

長編に挑戦したる夏休み

夏服の胸に漫画の大人買い

帰省子の鞄の本の英語かな

涼風や字のない絵本犬駆ける

崖わたる山羊の絵本や夏の雲

林間学校二泊三日に文芸書

哲学を解く老講師夏期講座

緑蔭にひもとく牧野図鑑かな

図書館に借りし画集やバルコニー

空押しの箔の威風や木下闇

花布とスピンのコラボ夏霞

向日葵の栞の子らも本を読む

共布のブックカバー&サンドレス

よろこびを本に託せる夏座敷

かなしみを吸ひ取る活字夏灯

雷鳴や歴史小説佳境へと

夕立や詩集一冊抱へをり

起し絵や声に出したる歎異抄

釣忍『雨ニモ負ケズ』版画集


[連作:盂蘭盆会 🎇]

大甕に桔梗と百合の盆支度

投げ入れて百日草と濃竜胆

床の間に年代順に絵灯籠

瓜馬の踏ん張る足や魂祭

北窓に風の来てゐる夏座敷

浅間嶺に雲のひと刷秋近し

親せきの眉の似てをり茄子の馬

手土産の最中どつさり盆供とて

隣家より届く花火や日は西に

おろし立て赤き鼻緒に白浴衣

ひとつ星あかるく咲きて迎へ盆

クロどちを遊ばせ降らす盆の月

そ~れつと新民謡の盆踊り

都会より移住の人も踊かな

形だけ川に流せる瓜茄子

黄濁に軽石浮かべ夏の川

来夏を約しておくる送り盆

ひつそりと爪弾く糸や秋の風

さびしめば虫の応ふる門の闇

野牡丹やいつかは逢へるよねきつと


[連作:歌 🎼]

れんげ田や「桃色吐息」牛うたふ

アカペラで「いちご白書」をもう一度

合歓の花「 Summertime 」の子守唄

トレビアンナイト「真夏の夜の夢」

サフランや「コンドル飛んで」釘になる

水澄むや「明日に」ゆめを「架ける橋」

海猫帰る「襟裳岬」はなにもない

秋麗や「小樽のひと」の古代文字

めはじきや泣きぼくろの子「夢一夜」

「港町ブルース」のサビちんちろりん

哀愁の「北空港」に星飛べる

蜩や「ひとり上手」と褒めらるる

満月や「祇園小唄」のだらり帯

銀漢を「やつぱ好つき」と仰ぐ夜

「大阪で生まれた女」零余子飯

猿酒「遠くで汽笛聞きながら」

オリーブの実や長崎のソウルソング

ハイビスカス「涙そうそう」の弾き語り

風の輪の「糸」を結べる赤のまま

秋灯や「Smile」うたひ明日へと


道に添ふ山川鉄路夏の月

置物の猫ほんものの猫ラムネ玉

朝採の茗荷甘酢に薄紅に

手の平に水の真珠や夏の朝

エリーゼに捧げるメロディ夏の月

退き際を知りたる蟻や広葉樹

シャーペンの芯のでこでこ扇風機

集落を縫ひゆく堰や夏木立

ひまはりや民泊に干す万国旗

サルビアや熱砂の鳩を逃しやる

新任の監督若しサングラス

短パンにプーマ跳躍雲の峰

道の駅しかない里の河鹿笛

少女らのくるぶしひかるサンドレス

カチューシャはいや痛いから青葡萄

山国のサーフボートや夏惜しむ

星涼し心裏に棲めるわが少女

不仕合せ仕合せどつち水中花

梅雨寒や腹に温めて犬の鼻

高床の洋食店や合歓の花

コンビニの跡にコンビニ山法師

青い鳥びつしり咲かせ青紫陽花

星涼し心裏に棲めるわが少女

若き日のもんぺの母や豆の花

ぽつちりの粒マスタード夏灯

亀鳴くや絵の女われを見つめをり

真直ぐに降りたる雨や青紫陽花

半間を暮れのこしたる白紫陽花

折り畳み日傘たたんで入り来る

滝跳ねてオオムラサキの瑠璃の羽

雑念の入りやすき日サンドレス

猛暑日やビルの傾斜の迫る街

土用太郎胴体薄くなりにけり

山国のサーフボートや夏惜しむ

朝顔やむかし戦に荒れし寺

冷房のカフェにひらける古典かな

空からの風のまろうど黒揚羽蝶

ラジオからレゲエのリズム跳ねて夏

祭ばやし町内会の連競ふ

信金の連の見えたる大団扇

ぴたぴたと床に裸足を愉します

深海の夢を見てゐるラムネ玉

うすべにの花から花へ黒揚羽蝶

白桔梗こころに風の吹く日なり

秋澄むや書店の棚の文字いくつ

さんづけで呼ばるる妻や花木槿

詩の生まる時ふひに来る鳳仙花

銀漢や宇宙も不滅ならずして

大壺に竜胆投げて老舗蕎麦

秋すだれ理解されずに黙しけり

鬼滅柄の団扇で風を呼びこめり

取り合せ俳句の妙や蚯蚓鳴く

ふと犬の匂ひのしたる扇風機

好日やさつと涼風吹き抜けて

戦争の愚昧真っ赤なハイビスカス

キャンピングカーの影濃し秋暑し

大屋根の甍なだれて秋来る

秋津洲永久の八月十五日


[連作:秋暑し 🧵]

八月や声なき声の地に満ちて

文月も半ばの空のさびしめり

絵日記の水彩ペンや秋に入る

初秋の郵便バイクターンせる

縫糸のコバルトブルー秋暑し

流木をあそばせルンバ秋の風

涼新た古墳山なる大日かげ

舌まるめ水飲む猫や秋の声

けふからは色を変へたる処暑の風

山並みの一歩前出る九月かな

底紅や新婚さんのアパートに

ほほづきや姉が鳴らせば弟も

風船かづら雲は都を目ざしゆく

ビロードの鶏頭色をきはめけり

コスモスや黒犬の尾のちらちらと

実むらさき昼は人かげ失せにけり

秋の日や斜にかぶりてベレー帽

ひとひらの月と無数の星ぼしと

新調のまくらにのせる夜長かな

長き夜や壁の鳴る音いづこから


[連作:新豆腐 🥣]

豆腐屋の裏は竹藪新豆腐

新豆腐坂の途中の豆腐店

鍋抱へ絣の子ども新豆腐

行商の荷台の犬や新豆腐

川床に出張る割烹新豆腐

上品な白髪の来る新豆腐

せつかくの嗅覚味覚新豆腐

五十回噛みは難くて新豆腐

一枚の皿にずしりと新豆腐

昼の宴薬味たつぷり新豆腐

ぬか漬けの胡瓜と茄子新豆腐

味噌汁は若布がよけれ新豆腐

おとなしき子と元気な子新豆腐

ツインテル耳にかかりて新豆腐

親知らず少し疼きて新豆腐

信長の母恋ひかなし新豆腐

油揚げ求むきつねの母子や新豆腐

遠ざけしファストフードや新豆腐

家族とは解かれゆくもの新豆腐

みなさびしせめて一夜の新豆腐


八月や声なき声の地に満ちて

文月も半ばの空のさびしめり

絵日記の水彩ペンや秋に入る

初秋の郵便バイクターンせる

縫糸のコバルトブルー秋暑し

流木をあそばせルンバ秋の風

涼新た古墳山なる大日かげ

舌まるめ水飲む猫や秋の声

けふからは色を変へたる処暑の風

ほほづきや姉が鳴らせば弟も


[連作:脳内妄想 🦕]

ボタニカルアートに描く花すみれ

おぼろ夜の鹿鳴館のシャンデリア

老鶯になりほろほろと鳴きにけり

マチュピチュの遺跡に立てば雲の峰

餡蜜を際限なしに食べてゐる

密林に吹けるサックス木下闇

敦煌の砂ぢんにまみれ秋高し

人界と異界のあはひ螻蛄鳴く

大陸の風ぐわうぐわうと鷹渡る

暗譜せるラフマニノフや野分後

月の砂漠ひもでむすんだ瓶になる

ゴーギャンの絵に棲む吾や仏桑花

虹色のアルパカ飛ぶや黍嵐

憧れの鯨になりし海豚かな

子らと犬さんざめきたる秋日和

憂愁に寄り添ふてゐる虫のわれ

恐竜の首の伸びたる柘榴かな

長き夜によだかの星の瞬ける

高原を駆けめぐりたる虎落笛

冬麗や日向を拾ひぽくぽくと


[連作:色匂ふ 🎨] 

筑波嶺や紫苑の空を風通ふ

色変へぬ松市役所の前庭に

中学の女生徒とほる白芙蓉

今生の色をこぼして秋の蝶

慎ましき日々の明け暮れ檸檬の黄

過去よりも未来が大事万年青の実

金雲雀タクシー乗り場たれもゐず

痩せまぶた色なき風に吹かれけり

山麓のアートの村や蕎麦の花

蕎麦咲いて天の光の透き通る

お堀なる水草紅葉の紅鳶に

木道にまつむし草の花浅葱

紅葉得て空は群青新たにす

ひるがへる銀杏黄葉の裏表

色鳥は瑠璃のかなしみ胸に抱く

待つひとは来たらず二十三夜月

野分だつ分水嶺の黒曜石

法務局横の教会式部の実

虹色のスカイツリーや十三夜

ピラカンサ小鳥いつでもいらつしゃい


山並みの一歩前出る九月かな

底紅や新婚さんのアパートに

もの食べる口を見る犬秋日濃し

おとなしき子と元気な子新豆腐

慎ましき日々の明け暮れ檸檬の黄

月の砂漠ひもで結びし瓶になる

ひぐらしや出征学徒をさなくて

蜂蜜にスプーン沈めり星飛べり


[連作:秋旨し 🍛] 

新涼のごろごろ野菜のカレーかな

ふはふはのチーズオムレツパセリ添へ

ラーメンに青菜のみどり秋澄みぬ

天丼の秋茄子カボチヤ獅子唐辛子

もち米と栗のコラボで栗おこは

干し芋やもの思ふ口さみしくて

ひとり居のある日の午後の鬼胡桃

無花果のほろと解れて溶けにけり

ラ・フランス着いた食べたと娘より

幸田筆柿ふでのさきからかぶりつく

海猫帰る鰊御殿の今むかし

伊達公は料理男子や枝豆餅(ずんだもち)

花櫛の信濃乙女の林檎かな

宮島の紅葉まんぢゆう秋茜

あれなるは土佐いごつそう鰹船

秋鯖の美味を佐賀関よりライブ

はらわたの妙なる調べ初秋刀魚

大根の透きてあめ色おみおつけ

メガ盛りのフルーツパフェや紅葉狩

ムラサキシメジ生えていさうな茸山


[連作:つゆくさ 🌼] 

露草の角を曲れば川の音

月草や一つ星見て月隠れ

夜は空の星になりたる螢草

月草の五つ六つと群れ咲きぬ

つゆくさに犬鼻寄せて立ち止まる

行き過ぎて立ち止まる猫ほたる草

露草に小鳥来てゐる朝の路地

月草や昨夜の雨に洗はわれて

水音に育てられたるほたる草

つゆくさの薄紫のなみだかな

月草は庭の花とも野辺のとも

蛍草タクシー止まる夜明け前

露草を自分の花と決めにけり

月草で真白き布を染めにけり

ほうほうほう螢の宿の蛍草

露草に久女の下駄の鼻緒かな

月草のはらりとこぼす滴あり

昼の星地上へ降りてほたる草

つゆ草の小花や蝶の舞ふ如く

月草や銀輪すいと通りゆく


秋晴の牧場の牛や雲の模様

キャンプ地や午前三時の虫の闇

川床に出張る割烹冬構

絵のなかの王妃の恋や雁渡る

雲を置く空のスクリン吾亦紅

つゆくさや大きな顔の犬来る

そのなかに足環の鳥も鳥渡る 


[連作:露店街 🍧] 

この辺り三之丸なる秋日和

江戸へ行く大名行列秋の声

花いっぱい発祥の地や濃竜胆

欄干の記銘かすみて水澄める

川沿ひに蛙明神鎮座せり

入り口を守る交番秋の雲

名画座の跡地のロープ秋茜

秋風や老舗喫茶のテラス席

質流れ細々と置く秋簾

店番は同級生や新豆腐

鯛やきのインバウンドに紛れこむ

ピザ店主はベトナム二世小鳥来る

両側の小店とりどり薄紅葉

西の山東の山や木の実降る

新松子千年きざむ赤鳥居

狛犬を恐れぬ鳩や秋の昼

境内の小さき画廊山粧ふ

水治む祠もありて秋の虹

暮れ急ぐ赤提灯の無月なり

秋灯や森のたぬきの軒歩き


[連作:青い 📫] 

秋めくやグレーブルーのスーツ着る

秋の日のピカソブルーに会ひにゆく

イニシャルの刺繍のブルー秋澄めり

ターコイズブルーの指輪あけびの実

インディゴのマフラー巻きて待合せ

水澄みて花屋いつぱいマリンブルー

秋草の青やシチズンサイエンス

山羊の仔の眸まさをや花野みち

光秀の水色桔梗翩翻と

高原の雑木林の濃竜胆

美ヶ原(うつくし)の松虫草の薄縹(うすはなだ)

あをぞらを映す山湖や銀杏散る

つゆくさの瑠璃を空へと運ぶ鳥

丑三つや蒼きおほかみ月に啼く

秋風に褪せて酒場の藍暖簾

藍染の作務衣の黙や落葉掻

露の世や碧き窓ある夜光杯

銀漢や天駆けめぐる蒼き馬

活きのよき秋刀魚のうろこあさぎ色

カクテルのブルーキュラソー星流る


新涼や砂糖と塩を買ひ足せる

馬の目の潤みてつぶら水の秋

木道にまつむし草の花浅葱     

紅葉得て空は群青新たにす

行商の荷台の犬や新豆腐

行く先を探してをりぬ秋の川

その下に生きもの集ふ熟れ葡萄

厚く塗るバターとジャムや小鳥来る

中学の女生徒とほる白芙蓉

色変へぬ松市役所の前庭に     

秋暁や月とわかれて星ひとつ

山麓のアートの村や蕎麦の花    

蕎麦咲いて天の光の透き通る

執筆の気づけば夜や柿ひとつ    

今生の色をこぼせる秋の蝶

高原のパラグライダー天高し


[連作:ライブ 🕺]

卒業の校歌ライブを伴奏す

花菫地域アイドル初ライブ

大型の車体のロゴや夏旺ん

盛り上るコール合戦夏木立

リーゼント決めて登場アロハシャツ

ファンクラブ特典シート汗飛びぬ

腹筋の覗く夏着やうんセクシー

多国籍バックコーラスパナマ帽

学園のスタジオ狭しサングラス

小柄なる女子ドラマーや秋暑し

満月や高原ライブいま佳境

鹿も聴くシンセサイザー星月夜

弾き語る歌手の二の腕秋燈下

長き夜の連れは旧友四人かな

千人の地方歌舞伎や文化の日

両袖のオペラの字幕秋あふぎ

秋澄むや合唱コンの凛々と

全員で百万本の薔薇うたふ

秋高しモールの庭のジャズライブ

ポインセチア手練れ揃ひの朗読会


[連作:鶏頭花 🌺]

朝ごはんうまし鶏頭のいろの濃し

ビタミンのサプリメントや鶏頭花

爛漫に駅の花壇の鶏頭花

バス停の全線地図や鶏頭花

司法書士事務所の庭の鶏頭花

薬局の名前ひらがな鶏頭花

空港は街の果てなる鶏頭花

鶏頭の鶏冠かすめて離着陸

山向ふ一揆の里や鶏頭花

鶏頭や昨夜の雨のころころと

けいとう咲く生家の庭の屋敷神

なんとなく日向のさみし鶏頭花

番犬はいつもゐねむり鶏頭花

刈られても萎れぬままや鶏頭花

鶏頭や耳朶にのこれるわらべ唄

ラーメンに太きメンマや鶏頭花

湯上りの炭酸水や鶏頭花

旧仮名のけいとうくわや鶏頭花

いつまでも日差の匂ひ夜の鶏頭

群れ咲きて闇を濃くする鶏頭花 

南天に花と実のある九月かな

夕映えに手をつなぐ子や草の花


[連作:ハーモニー  🚃]

鳥には鳥の石には石の秋の色

雲は雲追ひかけてゆく葉鶏頭

水澄みてBaby Booのハーモニー

懐かしのボニージャックス花

銀の鈴鳴らすゴスペル秋燈に

十月のまち十月の空育てけり

輪唱の照る山もみぢバスの窓

茸狩りもしも明日が雨ならば

くわくわくわくわと蛙の唄や街あかり

森で出会いし森のくまさん木の実食ぶ

しゆしゆしゆしゆと枯野を走る汽車ぽつぽ

ききやうがはらのきつねの古老汽車に化け

畳屋の畳の旗に野分だつ

薄紅をひらりひらりと秋桜

ドラミング独語独語やけらつつき   

否否と言はれてばかりくつわむし

妻が笑み夫が応ふる栗ごはん

犬小屋に犬の鼻さき秋うらら


[良夜 🌔]

合流に鷺ひとつ置く夕月夜

音楽と月とネオンの街の川

すつぽんと躍り出たる望の月

ぐんぐんと昇る満月ビルの空

盛り塩や添水(そふづ)ことんと月あかり

バーの扉にサイドカーてふ良夜かな

満月や凛とつぶらな仔鹿の目

月照らす栗鼠の巣穴を一瞬に

惣構へ城のいくさや萩の月

山城の姫の仰げるけふの月

十六夜の木の間隠れに出にけり

立待の名こそゆかしく昇り来ぬ

座布団の縁をなぞれる居待月

あふむけにあふぐ天窓寝待月

諦めを悟りし後の二十日月

犬猫のねごとや二十三夜月

宵闇や山頂ほのと明るめり

月恋の唄かそけしや月の雨

床の間の中古のアコギ良夜かな

小窓から月がおとなふ独居の夜


園庭のソーラン節や秋暑し

小鳥来る額縁店のウィンドウ

金風や犬語に猫語鳥語ほか

盛り塩や添水そふづことんと月あかり

番犬はいつもゐねむり鶏頭花

照り降りの家族の道や葉鶏頭

つゆくさの瑠璃を空へと運ぶ鳥

カクテルのブルーキュラソー星流る


[色なき風 🌾]

たかはらの吹奏楽や水の秋

花蕊すふ秋蝶の舌無音なり

かげろふの湧き立つ渓の水昏し

老いを引く磁石のありや後の月

遠き日の街の記憶や秋すだれ

群れ外れ白きコスモス幼くて

自転車に色なき風やマイボトル

秋暁や仰向けに寝るブルドッグ

軽音の女子ベーシスト秋うらら

秋高し玻璃にぶつかる鳥ひとつ

うれひごと置きて飛び立つとんぼかな

首都に入るジャンクションなり雁渡し

天才を讃へるドラマみみず鳴く

秋寒のビターチョコの堅さかな

現金屋てふ仕舞屋に秋の風

煉瓦ビル覆ひ尽せる蔦紅葉

赤のまま一重まぶたの女の子

湖にカヌーひとつや花梨の実

来年の暦を買ひて秋澄めり

卓上のミニチュア宇宙秋灯


[古城の四季 🏯]

天守より眼下になびく花の雲

二之丸のざはめく気配花の宴

桜蕊降るやウクレレ弾き語り

お方さま愛でし座敷の白牡丹

おぼろ夜の商人町のまちむすめ

はうじ茶の香る城下や菜種梅雨

あばれ川治る城主夏の風

門番の黒き幻影夏さかん

緑蔭に人力車夫ら憩ひけり

裏切もいまは昔の晩夏かな

良夜なる月見櫓に雅楽の音

姫君の小さき顔(かんばせ)十三夜

秋澄みて城下を奔る水の音

白鳥の舞ひ来し堀の玲瓏と

秋麗やサムライ求め異国から

星飛ぶや鳴りを潜めて猫と鳩

青空に放つ蓮の実外の堀

内堀の水草紅葉や太鼓橋

雪巓のするどく尖る花頭窓(かとうまど)

苔むせる野面積なり春近し


園庭の叱られる子や茱萸日和

北窓の時計職人小鳥来る


[生きる 🤗]

いつぱい泣いていつぱい笑ふ鳳仙花

やめさせられるまでやめないよ秋桜

そこに咲くことがたふとい草の花

大きな顔の犬を待ちゐる赤のまま

幸せはささやかがいい一位の実

一人でも独りじゃないよ山葡萄

とりあへず家へ帰ろう草雲雀

棗の実一緒に重荷背負ふから

一釜をみんなで分ける栗ごはん

新豆腐わかつてくれる人がゐる

待つひともなき改札や秋の声

離れ住む家族の幸や水澄めり

こつこつと歩める日々の金木犀

けんめいな学びのあかし銀木犀

すずやかな未来を期して新松子

あを空にすつくと立てる秋明菊

さはやかや友少なくて憂ひまた

親友はわずかでよけれ小鳥来

色鳥のおのが羽毛を知らざりき

へうへうと淡々と咲く紫苑かな


[星飛べり 🌠]

みづうみの金銀砂子星月夜

木曾路ぬふ中山道や天の川

星飛んでネット小説三年目

性別を名乗らぬ雅号夜這星

壁紙を変へて華やぐ銀河かな

返信を待ち侘びてゐる天の川

生涯の愛車とめ見る星月夜

見渡せば宇宙の果や天の川

銀漢や鳥を待ちゐる白鳥湖

星の師を月と見なせる天の川

流れ星記念写真はいつも隅

銀漢や革の手帳にひとり言

銀漢を大きな顔の犬と見る

脛の骨触れれば固し天の川

若きらのみな愛しき星月夜

星飛べり歴史舞台の幕間に

彼の空にその夜あまたの星飛べり

ことのほか小さき星の飛びにけり

銀漢やこはしてつくる水の星

つつつつと涙の水脈(みお)の流れ星


豊年の大鹿歌舞伎大ご馳走

宅配の台車ゆく街秋高し

秋の暮銀行寮に灯の一つ

野放図に茸並べて道の駅

露天湯へ通ふ岨みち真葛原

風船かづら雲は都を目ざしゆく

エリザベスつけられし犬秋風鈴

なんとなく日向のさみし鶏頭花


[鳥渡る 🐦]

鷹渡る瑠璃色ふかき天空を

南北にふたつの故郷渡り鳥

あめつちの無限大にて鳥渡る

高原の湧き水ゆたか小鳥来る

色鳥をこぼして風の立ち去りぬ

色鳥のこぼせる北のにほひかな

鵙(もず)鳴きて川辺の家の灯かな

真似つ子の習性もちて懸巣鳴く

鶫(つぐみ)来て森の不夜城開城す

鵯(ひよどり)の縦にとまりし枝の黙

鶸(ひは)渡る海から山へ北半球

旧知の名歳時記にあり尉鶲(じようびたき)

園庭の隅に鶺鴒(せきれい)二羽三羽

国道の草木ざはめき石叩き

垂直に飛び立つ鴫(しぎ)や夕間暮れ

啄木鳥(きつつき)や山は欠伸をこらへをり

国境のはるか高みを鳥渡る

連鎖きる鋏くはへて鷹渡る

賢治となふ「いまこそ渡れ渡り鳥」

ちかちかと宇宙(そら)の白鳥ステーション


[秋澄めり 🫧]

秋澄みて泰山木の連理かな

水鳥の剽げてあそぶ水の秋

日輪の鱗粉まとふ花すすき

川急ぐ白鳥の空あふぎつつ

秋澄むや音楽祭の旗の街

開館を待つ史料館水の秋

秋澄みてひかりの粒子かがよへり

ひらがなのあをぞらのあを水の秋

大きな顔の犬のおすはり秋高し

風わたりコキアの紅を深めけり

さやけしや人形姉妹ほほゑめる

爽涼の椅子の軋みのかすかなり

子を負ひて立つ厨ごと水の秋

喃語聴く背中の温し秋澄めり

秋澄みてオニオンスープ飴色に

ハート型鯵のフライや水澄めり

星ながれ幼ひとつを残しゆく

今生の想ひを引きて星飛びぬ

秋澄みて鳥の形の雲ふたつ

鳴動の波動つたふる水の秋


[秋高し 🐄]

地域猫庭に来てゐる秋日和

秋麗やどてりと土に眠る犬

天高し電柱の列ふもとまで

秋草の懐(ゆか)しき色の匂ひけり

ランドセル弾む背中や秋の昼

自転車の補助輪はずし秋の虹

ビル街のおほきな影や天高し

けふからの更地に寄せる鰯雲

高原の創作ランチ水澄めり

牧柵にかける上着や秋の雲

てんてんと牛と羊と天高し

馬の家の小窓明るく秋の空

橋上のアルプス指呼に秋の川

秋空やじやり道ぬけて靴の泥

天高し肩を抱き合ふ道祖神

爽やかや空気の粒の耀へり

草の花楚々と咲かせる野道かな

犬の忌や瑠璃をかさねる秋の空

西山に邑(むら)のあるごと秋夕べ

小説の海にたゆたふ夜長かな


暁の星のひとつや虫集く

稔り田に神の通ひ路大空へ

空港は街の果てなる鶏頭花

銀漢や創作三年定まれり

どの道も海に至りぬ秋遍路

別荘のかすれし番地敷落葉

陸橋や指呼のアルプス秋の雲

恐竜の首の伸びたる柘榴かな


車椅子ダッシュの犬や秋日和

行く秋や煉瓦倉庫の港町


星月夜大きな顔の犬とゐる

国境といふ地上絵や天の川


[木の実ふる 🪇]

公園の投手は少女木の実降る

ななかまど泉滾々湧きてをり

湧き水の美術館なり水引草

鍵束に委ねる暮らし秋深し

橡(とち)の実や祖母たんせいの和人形

シャカシャカと振るマラカスや茨の実

どんぐりのぶつかり合ふて笑ひけり

蓮の実やピアノレッスンスタカート

ひよんの笛愉快な音を出しにけり

桐の実をとほくへとばす夕まぐれ

垣添ひに音符ならべて楝(あふち)の実

榧(かや)の実の降る小道行くふたりかな

青みかん始発電車に客まばら

銀輪の眩き野辺に茱萸(ぐみ)の赤

山ぶだう眼下の街にジャム工場

諧謔も味のうちなり木通(あけび)の実

箸を持つ手のふつくりと栗ごはん

パソコンの猫の手まるし銀杏の実

有の実や犬に抱かれて眠るやや

柿の秋ラップのやうに詠む俳句

ランナーの虹色めがね実南天

七色のポケットチーフ棗(なつめ)の実


高原の泉ゆたかに水引草

人情の灯りみんなの冷蔵庫


その辺の雲つかまへて神の旅

天高く天守の窓を開け放つ


[もの想ひ 🍵]

勾玉のはだら模様や秋惜しむ

秋日和キーホルダーに鍵四つ

秋澄みて金継ぎ夫婦茶碗かな

菊月のカレンダーのあと二枚

みんなゐる家族写真や秋うらら

木の家に加湿器の粒めぐりけり

曲線のパソコンデスク秋うらら

手の平のかたちのマウス秋日影

壁紙を替へしスマホや夜の葡萄

身に入むやこの一冊の手帳こそ

雑木もみぢ一点豪華腕時計

使いこむ三色ペンや紅葉鮒

水差しの透けてブルーの秋日かな

ひとり居の小さき暮らしや菊日和

手作りのオーディオ鳴らす秋の宵

ひきだしの小物とりどり愁思かな

長き夜の一部と化せる老い眼鏡

まくら辺のデジタル時計暮の秋

いざとなればバッグひとつや野分前

文房具わちゃわちゃとゐる文化の日


[もみぢ 🧕]

沿線の白樺黄葉のぼり線

SLの車窓の紅葉黄葉かな

廃線にからまる蔦の紅葉どち

木曾路なる中山道の櫨(はぜ)もみぢ

古城なる堀に浮べる紅葉かな

苔むせる野面積みなり黄落期

薄もみぢ猿をまつれる宮の森

桜もみぢ黒犬の毛の艶やかに

碁盤の目に巡らす堰や柿紅葉

江戸からの古き集落銀杏散る

青系の紅葉も見たきダム湖なり

降りしきる落葉松もみぢ針の雨

畦道をともす満天星もみぢかな

人訪へば雑木紅葉にむかへられ

飛騨路なる紅葉かつ散る鍾乳洞

すれちがふ車すれすれ照葉かな

お砂場にもみぢのお皿並べけり

輪唱の秋の夕日に照る山もみぢ

丘の上は狼煙跡なり遠もみぢ

いつもわれアンチ王道冬紅葉


古美術の河童の皿に柿ひとつ

秋日濃し戦地の驢馬のひたむきに


秋澄むや空気の粒の耀へり

水澄みて泰山木の連理かな

漢方を服す女人に秋やさし

ほろほろと紡ぐ詞(ことは)や蓼の花

お砂場にもみぢのお皿並べけり

桜もみぢ黒犬の毛の艶やかに

秋晴や並木は人のごと立てり

イニシャルの青の絹糸冬に入る


[冬に入る 🪶]

冬空やむかし市電の走りたる

寒禽やガードマン振る警備棒

牛の目をよぎる雑踏冬の雲

色変へぬ松や朱色の太鼓橋

石段の踏まれる前の枯葉かな

湖は木の葉時雨に暮れにけり

いんいちがいちといふやう銀杏散る

冬ざれやドッジボールのにがてな子

犬小屋の主は主水(もんど)や冬うらら

蓄電器のかげの三毛猫冬の虹

まねかれて勝手知ったる冬館

冬座敷まづ結論を述べにけり

トンネルを抜けて眼下に冬灯

空と山押し合ふてゐる冬の月

ただいまとおかへりを言ふ寒灯

何となく何かを待てる寒夜かな

冬の夜の電子時計のりちぎかな

わが呼吸ふと恐ろしき夜半の冬

愛用の上着のほつれ霜夜かな

冬灯や脚を組み替へ読む文庫


[神の留守 🧙‍♂️]

武蔵野の空の果てなく冬初め

冬初め筑波の雲のおほらかに

冬めくや朝一番のストレッチ

靴ひもを結び直して冬に入る

おとなしき大型犬の小春かな

黒猫のしつぽのぴんと白障子

枯園の小鳥のふひに飛翔せり

街なかに馬をまつりて冬の雷

映りたきものを拒まず冬の水

用水の垣根にからむ枯葉かな

冬日影工事現場のヘルメット

起重機の振動どどと草枯れる

その辺の雲つかまへて神の旅

詰め詰めの団体さんの神の旅

銀色のキャリーバッグや神の旅

えらさうに選評のべる神の留守

諏訪神も出雲に出張りお留守らし

なにもなきいなか住まひや時雨月

小六月痛まぬ部位を忘れをり

二重なる心のキャリア冬の虹


[ふるさと 🫛]

冬三日月風と土とに育てられ

へその緒の土に還りて寒北斗

降り立てば空気がちがふ冬の駅

改札にコートの襟を立てにけり

寅さんの影法師ゐる冬の駅

西口の灯の照らす枯野かな

寒月に三編み少女ほほゑめる

追憶を吹き鳴らしたる虎落笛

謗られて恥じ入る一茶寒雀

ちかちかと瞬き合ふや寒昴

父の山母なる川や枯木星

代替り生家の卓の蜜柑籠

わが守る子らの故郷や冬青空

冬うらら孫の故郷は山むかふ

文学はこころの故郷石蕗の花

わが犬のふるさとはわれ冬菫

ほろほろと海を目ざせる冬の蝶

空凍てりや鳥も海へと還りけり

みな還る魂魄(ソウル)の故郷冬銀河

帰り花みなで歌へる「故郷」かな


[いい子たち 🥕] 

みいみちやんてふ犬の人形冬麗

おとなしき馬のひとみや冬の雲

手つなぎに躍る幼の冬帽子

抽斗の小物とりどり冬夕べ

ストレッチ巧者の犬の小春かな

飾り窓ポインセチアの赤まつか

おしやべりな猫のゐる家小六月

さか上りくるり出来たよ冬の空

健気なる羽をほろほろ冬の蝶

白鳥の仲よし家族あそびけり

芯に紅ひめてゐるよね猫じやらし

茨の実ぶつきらばうなとこが好き

へそ見せて目つぶる犬や小六月

少し行きふり向く猫や冬ぬくし

重さうな実に堪へてゐる柿の枝

あぜ道の冬蒲公英の日の輪かな

野うさぎはゆめの月にて餅を搗く

ほんたうは空寝じやうずの浮寝鳥

冥界と行つたり来り帰り花

雑草の名に甘んじる蓼の花

にんじんを鍋の主役にポトフ炊く

えのきだけリーズナブルに功労賞


沿線の白樺黄葉のぼり線

つつつつと涙の水脈や冬銀河

胸のうち明かさぬ別れ冬の月

冬天や記念写真はいつも隅

冬晴や電柱の列ふもとまで

二重なる心のキャリア冬の虹

昨日とは違ふ蒲団の干してあり

文房具わちゃわちゃとゐる文化の日


[小春日和 🌞] 

橋ひとつ越へれば街や小六月

舗道ゆくブーツの列や駅通り

冬あたたか緑をのこす大欅

枝の柿三つ四つや尾根に雪

冬の日にビル高からず山の街

あを空になす術もなく冬木立

冬ぬくし歯科衛生士好きなひと

冬麗や歯科医の空のうすはなだ

老犬の小屋を新たに小春かな

冬ぬくし犬の睫毛の濃し長し

慎ましく座れる猫や日向ぼこ

なにかゐる障子の外や違い棚

いつもそこ揺れる飛石実千両

うすき日を集めて赤し実万両

仄暗きミニチュア宇宙炬燵かな

暖房を消したる午後の無音かな

しあはせのほのかな白や花野菜

一文字の突き出してゐるマイ袋

ゆきひらに炊く粥の香や冬灯

雑炊に玉子をぽんと夕餉とす


冬三日月革の手帳にひとり言

啄木鳥や山は欠伸をこらへをり

賢治となふ「いまこそ渡れ渡り鳥」

親友はわずかでよけれ石蕗の花

いつもわれアンチ王道冬の草

いんいちがいちといふやう銀杏散る

安曇野を影絵にしたる冬日かな

憂ひごと置きて飛び立つ冬雲雀


[虫の眠 🐑]

葉書絵のごとくはらりと柿落葉

降り積もる落葉のしとね虫の眠

朝に見る砂の足あと神送

機影追ひ一陣抜ける北風

寒泉に土の息吹きを聴きにゆく

ほんのりと日向の匂ふ冬田かな

枯蘆や川は無言を貫けり

雨の水川の水あり浮寝鳥

鴛鴦の雄のつれなさ日の翳

白鳥の戒名のある川辺かな

猥雑も田舎ぶりなり都鳥

空の孔開けて一滴冬の雷

堪へ抜きてただそこに在る藪柑子

いただきの透けてまさをや冬の山

街中の路標もくねん冬ざれぬ

月冴ゆる夕星ひとつ侍らせて

あのさあと言ふ人たちや虎落笛

着ぶくれて心ふくれて家にあり

マスクして底を打ちたる独りかな

マンションの二階の木葉時雨かな


無点句を温めてやるおでん鍋

山かげの各駅停車冬に入る


[とんびの輪 🧭]

チラシ噛む郵便受の枯葉かな

枯園を風の奏でるかきくけこ

ビル街の大きな影や冬日和

百号の窓の額ぶち冬三日月

深き洞ある幹昏し木葉雨

流木の静止動画や冬の川

葉牡丹を植ゑてみたしと通り過ぐ

鳶の輪の八手の咲くを知らざりき

畑中に枯れ鶏頭の立ち尽す

帰り花隠れ処住まひ七年目

寒暁やとなりの窓にあかりつく

水のごと自然に生きて寒さかな

寒雷やピアノの椅子の黒四角

心配はやめて小粒の蜜柑むく

ブティックの一灯ポインセチアかな

ふと目醒めきよとんとしたる小鴨かな

落武者のごと枯蓮の堀に立つ

冬菫プラトニックを至上とす

ふざけてんのふざけてんのよ竈猫

まぐれとか気まぐれとかや冬の蜂


[イノベーション 🫗]

遠山の上半分に冬日射す

中腹に足を延して冬の虹

北風に一歩一歩の子どもたち

冬山の終着駅のカフェレスト

星どちに愛されてゐる冬木の芽

この街を棲み処と決めて冬の鳥

雲厚くぱらつと来る冬野かな

吹きさらし冬田の中の弁当屋

裸木と質素簡素を讃へ合ふ

冬沓の青を履かせて大型犬

その芯に紅をひそめて枯薊

水音や侘助顔をあげなさい

寒菊や美男えてして冷たかり(笑)

苦労性みづから言へり炬燵猫(同)

げんかんの南天の実に「ただいま」を

冬更けてイノベーションと言ふてみる

冬至まで二十日の夜の気配かな

あかぎれに軟膏ぬりて夜の刻々

北窓塞ぐローアングルの小津映画

冴ゆる月にじんで見ゆる老ごころ


おしやべりな犬のおねだり小六月

勾玉のはだら模様や冬うらら


降り積る枯葉のしとね虫の眠

寒泉に土の息吹を聴きにゆく

映りたきものを拒まず冬の水

葉牡丹を植ゑてみたしと通り過ぐ

いつもそこ揺れる飛石実千両

ただいまとおかへりを言ふ寒灯

北窓塞ぐローアングルの小津映画

わが息のふと恐ろしき夜半の冬


[無言劇 🕴️]

寒菊や蒼く明け初む水の星

仕舞をく胸の想ひや冬の川

ここまでの区画整理や冬青空

レジ紙を短冊にして日向ぼこ

地下鉄の窓のコートの無言劇

登校の子らのフードや冬の虹

しゆしゆしゆしゆとスパーリングや玉霰

ワンツーを繰り出してゆく霧氷林

枯れ枝に柿のうはさをする鴉

冬鳥の夜会はじまる大けやき

コンビニで住民票や十二月

置き炬燵老人の説く多様性

枯園に縞なす石をひとつ置く

少なめの傷でお願ひ花アロエ

寒鮒をことこと煮詰めほろ苦し

房内に小家あるごとブロッコリ

骨盤の尖りて薄き霜夜かな

ひと山の枯尽したる枯木星

ちかちかと星の国から雪列車

手鏡の木彫は薔薇や霜夜更く


高僧の法話の易き京の冬

冬薔薇や大型犬のほふほふと

丸石を億万と置く冬の川

集団に意志あるごとく寒雀


[ネット同朋 🌐]

荒川の鉄橋ながし枯野道

赤錆の陸橋に見る雪の嶺

波に浮く冬水鳥に日の燦燦

説明は不粋や冬のアート展

子には子の親には親の冬野あり

故郷を仕舞へる胸の冬しんしん

看板のかはりし英語塾の冬

矢の如くまた金曜や冬奔る

たひやきや鳥居の前を素どほりす

冬旱しんねりむつりのけふのわれ

枯蔦の基地のフェンスやランの人

地に足を着ける暮らしや名草枯る

住む人をいまだ知らずに花八手

あへていま誤解をとかず冬の滝

手を振りて隣人通る小春かな

豆菓子に膨るる腹や着膨れて

打つ響くネット同胞室の花

山眠り新旧辞書を友とせる

この星に棲む家のなき年の暮

老犬の不調うれへる夜半の冬


[蔵のライブ 🌙]

がりがりのフロントガラス朝の霜

バスタブに朝日さんさん師走かな

冬麗やソファを除けし部屋広し

つやつやと玉の生け垣冬日ざし

室の花きのふの続き話すごと

老医師の語りの長し花アロエ

本堂へながき石段冬の雲

冬晴や製糸工女の峠の碑

活況の値下スーパーずわい蟹

天ぷらと蕎麦を求めて年忘れ

東京の菓子おくられて年の暮

なんといふ冷たき言葉報道官

老犬の小さきせなかや枯木道

嫌はれる覚悟をかため花八手

ただじつとそこに居座る冬の雲

風花やこんなところに染め物屋

この服を捨てかねてゐる師走かな

この屋根に守られてゐる去年今年

寒月や蔵のライブのいま佳境

寒すばる客のまばらな最終便


遠山の上半分に冬日射す

中腹に足を延して冬の虹

この街を棲み処と決めて冬の鳥

吹きさらし冬田の中の弁当屋

裸木と質素簡素を讃へ合ふ

星どちに愛されてゐる冬木の芽

あかぎれに軟膏ぬりて夜の刻々

冬の灯や脚を組み替へ読む文庫


[紙飛行機 🪂]

屋根の雪いづこも丸し峡の村

朝日得て雪嶺影をきはめけり

駅前の小鳥の店に冬日影

寒潮や薩摩切子の唐の色

冬空や紙飛行機のニュートラル

機影いま北を目ざせる冬あを空

小鳥いらつしゃい冬田のなかの喫茶店

びようびようと吹かれてをりぬ冬木立

性別を告げぬ小説カーペット

軽井沢の作家夫人の暖炉かな

午後の日のかたむき尽す冬至前

人はみな背中を持てる師走かな

遠吠えに母を呼ぶ仔や寒昴

星凍て猫に甘へる仔犬かな

冬三日月逢へぬ面影慕ひけり

寒星のひとつに夜の飛行機も

月冴えて蘇生を目指すペンの先

告げたきを告げて安らぐ冬銀河

昼と夜のあはひに棲まふ雪女

足冷へて闇を揺蕩うわが小舟


冬日ざし大きな犬の口のなか

地下のジャズ喫茶再開冬銀


[ギター泣かせて 🧣]

通勤の背を追ふなよ空つ風

こがらしや誘導棒の描く円

鋼色のゼリー流せる冬の川

沈黙を守りてきよし冬の滝

某庭の泰山木と石蕗の花

島国の岬の果ての野水仙

さびしめば師走の街に出ゆきぬ

寒菊の香をたどりゆく路地の奥

お歳暮の旗のちぎれて冬の雲

冬の街ギター泣かせて女の子

ジングルの五線譜おどる冬の空

木枯しやテレビの猫に猫なで声

リビングの病む娘に和み冬日向

妻まもる夫の寡黙やシクラメン

青コート女子のセコンド入場す

オトコマエ女子が贔屓や置炬燵

枯れ枝のざはめき騒ぐ夜の窓

悉く枯れ枯れてゐる気配かな

靴下をつくろふ夜さり久女の忌

デジタルのゼロの四つや霜の声


枯園に縞なす石をひとつ置く

ひと山の枯尽したる枯木星

枯れ枝に柿のうはさをする鴉

枯園を風の奏でるかきくけこ

謗られて恥じ入る一茶寒雀

ちかちかと星の国から雪列車

冬鳥の夜会はじまる大けやき

手鏡の木彫は薔薇や霜夜更く


[蝶ネクタイ 🎺]

西の稜線に茜さしたる冬朝日

雪道にアイスバーンの黒光り

橋向ふ鋭き雪嶺の屹立す

丸石を億万と置く冬の川

薄き日が育む冬の木の芽かな

集団に意志あるごとく寒雀

裸木の影のベンチに届かざる

冬青空市井の人でよしとせり

冬晴の城下見渡す物見台

正円を描く絵筆や浜千鳥

誕生の前から知る子室の花

絵手紙の返事来りて暖房音

クリスマスケーキてふ花運びゆく

ビル風のあひだのカフェの聖夜劇

聖樹のブルー楽士の白き蝶ネクタイ

パイプ椅子ならべ聖夜のコンサート

薬喰われの場合は土野菜

芯の蜜透けて飴色冬林檎

ひとつ星連れて三日月中空に

玄関のあかりほのかに山眠る


[ビルの街 🏙️]

寒蜆いつもの朝の卓上に

雪もよひ北の国へ友渡る

うす曇り冬の匂ひの人来る

保護犬といふ名の哀し冬菫

おしやべりな犬のおねだり冬日和

まが玉のはだらもやうや冬うらら

また同じことを訊かれて帰り花

室咲や五輪真弓のユーチューブ

青空の底を目ざして冬の鳥

うす曇り義民の墓に菊の花

鍵型に路地めぐらせて寒灯し

べうべうと芒野をゆく風小僧

ボクシングもうかなはずや老だぬき

コンビニのおでんの昆布の結びかな

貸ビルにいくつの生計(たつき)冬灯

霜の声日記代りにネット書く

長き夜や小物もの言ふ時代劇

秒針や夜長の先のスクワット

去年今年エスエヌエスと縁遠く

一年のアップサイクル年惜しむ


波に浮く冬水鳥に日の燦燦

リビングの病む娘に和み冬日向

妻まもる夫の寡黙やシクラメン

風花やこんなところに染め物屋

寒月や蔵のライブのいま佳境

地下鉄の窓のコートの無言劇

子には子の親には親の冬野あり

あへていま誤解をとかず冬の星


[秒針ことり 🌼]

寒いねと言ひ合ふ暁のカフェかな

今朝もまたはたらく子ども霜の花

風花やフードはき出す朝の駅

スーパーの年越し魚に行列す

冬青空白き機影の北へ向く

街道の並木西向き雪もよひ

山脈をびりびり鳴らし鰤起し

県境のわだちのふかき雪の闇

懸崖に露天湯浮けり竜の玉

一陽来復今日が仕舞ひの草野球

名も知らぬ猫の来てゐる漱石忌

廊下行く物理教師や寅彦忌

数へ日や箸一膳を買ひ求む

物といふ物は不要や冬安吾

冬日ざし秒針ことり動き出す

N響のわかき奏者に冬の薔薇

外は雪オーシャンブルーランプ点く

手首まであるセーターを愛でにけり

寒波来て高き小窓を打ち鳴らす

霜夜ふけ村上里和アナウンサー


【2024年】

[花屋の花 🌺]

哀歓のさざ波のごと去年今年

玄関にわれ待つ靴や去年今年

日に翳す指の薄紅初日の出

よく似たるをんな三代初詣

朝日浴び寅次郎にも淑気かな

外に出す花屋の花の淑気かな

ウィンドのドレスのブルーお正月

ふくじゆさう帯屋の帯の綺羅尽す

にと笑ふ証明写真着ぶくれて

ぴちぴちと洗はれてゐる寒雀

元旦や置き配着のメール来る

読初は秀吉と決めムロツヨシ

初旅はスキーウェアで中央線

スケートの擦過音のみ山の湖

初夢は四国お遍路藍を着て

空海の御手に休めるお正月

三日早や賑はふカフェや色硝子

あけおめと言ひ合ふ店の飾かな

毎年やシティホテルの新年会

小正月髪を好みに染めにゆく


[やさしい嘘 🍓]

雲間より冬日一筋麓の村

尖塔の尖端ぴかり冬の暁

朝霧にコンビニ湯気をこぼしけり

枯野道さみどり季節を待ちにけり

手をひとつ打ちたる如く寒雀

冬日ざし大きな犬の口のなか

冬ぬくし枝垂れ細枝石仏に

雪しまき一筆箋に遠いまち

くるぶしの小さきくるみや着ぶくれて

アクリルに永久に閉ざされ薔薇の椅子

夕暮れのチャイム響きて寒の入

新海苔や記事の見出しの上つ面

老犬にしたはれてゐる暖炉かな

冴ゆる夜の手指の節の笑窪かな

母さんのやさしき嘘や寒苺

冬の月だいじなものを掌に

餺飥の味噌味旨し置炬燵

春待つや指輪勾玉犬の骨

霜の夜をラジオの汽笛一閃す

寒月や海外からのメッセージ


懸崖に露天湯浮きて竜の玉

鍵型に路地めぐらせて寒灯し


[子の息甘し 🧦]

ほのと頬あからめてゐる晴着かな

着ぶくれて歯科の健診受けに行く

セーターのコバルトブルー若返る

ブルゾンもブルーがよけれ新春は

中年やアンサンブルのカーディガン

山脈や革ジャンパーのツーリング

大切なシルクのジャケツ一張羅

わがコート離し掛けをく美容院

ねんねこの子の息甘しひとつ星

花柄や水仕の背のちゃんちゃんこ

昼星にとんがり帽子冬帽子

冬帽のとんがり並ぶ通学路

マフラーは娘のおあがり格子柄

手袋をポケットの指さぐりをり

耳袋つけてうさぎになりたる子

かつかつとブーツ鳴らして女来る

ストールに心をゆるくあずけおく

ストールを巻きて夕べの街へ出る

毛糸編む魔術のごときわが手指

ひと針に想ひをこめて毛糸編む 


[六連星 🪼] 

霜の声小さく小さく顔洗ふ

沈黙で応へたつもり暖房音

高僧の法話のやすき京の冬

猛烈な寒さの後の眠さかな

雪の嶺したがへ里山なだらかに

梟にペーパーレスを告げにけり

風荒く言葉も荒くゆりかもめ

系図屋のこさへし系図冬の蜂

背筋のしなりやよしと霧氷林

冬の雲テラスも家の一部にて

木枯や喫茶かかしの窓灯り

色変へぬ松と枯木と宮の森

昼月を透かせて瑠璃や冬の空

呼び鈴はパンの商ひ冬の暮れ

太陽のにほひをはなつ冬林檎

透明なピアスきらりと冬林檎

何もなき一日の幸や室の花

寒灯に初めてのわれ発見す

ただ聴いて欲しいだけなの寒昴

ポケットの深き家着や月冴ゆる


寒菊や蒼く明け初む水の星

駅前の小鳥の店に冬日影

荒川の鉄橋ながし枯野道

裸木の影のベンチに届かざる

聖樹のブルー楽士の白き蝶ネクタイ

スーパーの年越し魚に行列す

デジタルのゼロの四つや霜の声

靴下をつくろふ夜さり久女の忌

柘植の芽の丸く膨らむ寒の入

寒土用シャコバサボテン紅色に


[in 浅草 🌅]

寒暁やロゴ入りつなぎさつと着る

愛車に積むさうぢ道具や星冴ゆる

カセットを聴きて出動冬の朝

隅田川に昇る太陽冬あけぼの

首都高を縫ひて現場へ寒土用

きつちりと働くをとこ冬日和

冬の昼ベンチでサンドイッチかな

冬日影お宮のひこばえもらひ受く

冬晴やスクランブルで踊る人

冬雲や都会の鳥も舞ひにけり

銭湯の一番乗りや冬三時

自転車で流す川岸冬の夕

虹色のスカイツリーや冬の月

はいお待ちいつもの檸檬サワーかな

博識なあるじの古書屋冬灯

居酒屋のママの訳あり寒灯

影踏みの男ふたりや青写真

湾岸へネオンを流す冬の川

平凡な一日の過ぎて冬深し

木洩日を瞼に描き春を待つ


[水平虹 🌈]

まぶた重し雪来る前の低気圧

真贋を問はれてゐるや竜の玉

雪もよひ工場のまちの港にて

風花やれんが工場のセピア色

枝くはへ鳥の羽ばたく冬の空

冬雲や山に分け入る単線軌道

プリズムの水平虹や冬の湖

堀川に古武士の如く蓮の骨

ご褒美はコンビニスイツ寒復習

ポインセチア三つの席に読書人

寒紅やこの身ひとつで三十年

卓上に握手をしたる手套かな

白障子書棚に影絵奔らせて

枯れ草に露の耀ふ野辺の道

冬鳥のぴーくるちゆちゆと晴朗に

ふゆあをぞら小柄な女子の大太鼓

風やみて雪の坊やも去りにけり

天地のイントロかすか日脚伸ぶ

春を待つ団地のカフェの色硝子

キルティングバッグの黄や春隣


[ほふほふと 🍎]

冬薔薇や大型犬のほふほふと 🌹🐶

歳ちかき叔母の手みやげ冬苺 👝🍓

鳥一羽びゆつと横ぎる冬青空

雪原にぽつんとひとつ開拓碑

材木に雪のせトラック出て来り

牛はこぶトラック右折冬の雲

ほんのりと薄紅さして冬木の芽

カラフルに尖がつてゐる冬帽子

寒中や喫茶の椅子のレザー張り

寒九郎ビニールカバーの回覧板

室咲きやテレビの猫を撫でてやる

YOUさんのソウル瑠璃紺冬すみれ

冬館「実は」の先に待てるもの

譜面台の楽譜の匂ひゆきやなぎ

シクラメンましろに咲きて誕生日

白鳥やひたすら生きてゐるつもり

葱ひとつ二百円也買ひ控へ

使捨てマスクを洗ふ冬の果

真心に安らぐ夕べ納豆汁

寒波来て半身浴や梅の声


シクラメンましろに咲きて誕生日

土手草の濡れてやはらに春隣


冬日ざし秒針ことり動き出す

手をひとつ打ちたる如く寒雀

冬の街ギター泣かせて女の子

冬青空市井の人でよしとせり

N響のわかき奏者に冬の薔薇

名も知らぬ猫の来てゐる漱石忌

夕暮れのチャイム響きて寒の入

告げたきを告げて安らぐ冬銀河


[kawaii 🐤]

寒波去り光の街を影奔る

枯芝の牛の母子や森永工場

日脚伸ぶ量販店の生活詩

機能美の並ぶ店舗や春隣

鳥が飛ぶ益子の皿に春兆す

筑波発分厚き湯呑み春近し

kawaii の神出鬼滅青写真

鍵束を入れる小鉢や春隣

冬晴や登山電車が橋わたる

冬青空工事現場の赤のコーン

寒土用魔女の箒の清掃車

雪しまき砦跡なる標にも

夕星を置きたる空や冬の道

冬川の水脈(みお)の藍色極めけり

夜降(よぐたち)の雪になりたる小窓かな

鏡の冬たのしき色を探しけり

雪しんしん『生きる』の市民課長さん

室咲きや暗譜で復習ふモーツァルト

老犬のひげのぽよぽよ冬の果

独り居に小鍋ひとつや春近し


[中古車置場 🚙]

一月の晦日の暁に期するもの

明けの月星したがへて春兆す

冬霞ねぼけまなこの犬がゐる

冬深し小屋に籠りて犬老いる

春待つや小鳥きよとんと首傾げ

ジャケットの千鳥格子や春近し

コンビニのATMに春日ざし

川沿ひの中古車置場日脚伸ぶ

和食屋のほつけ定食ひじき添へ

天井にサックス鳴かせ春を待つ

平安の切手シートや冬日和

青空に薄紅ぽつと冬木の芽

着払ひ出して安堵や日脚伸ぶ

ほたほたと振袖のごと牡丹雪

冬の果床の塵にも影立ちぬ

未熟なる過去に折合ひ春隣

突き詰めて考へる癖余寒かな

夕飯に餡パンおごる余寒かな

自転車のあかりゆらゆら冬帽子

さやさやと手をつなぎ合ふ寒昴


[早春譜 📯]

二月の川辺のいぬのふぐりかな

如月の空に木の芽を透かし見る

日向土手なづなの羽を広げたり

つらら溶けたんぽぽ一輪用水路

二月の影を曳きゆく犬と人

埃浮く書斎の窓や日脚伸ぶ

うららかや公正りちぎ公務員

ウィンドに座る三毛猫浅き春

如月や動物園に行かうかな

二月の校舎の上のちぎれ雲

膝裏をのばして春を迎へけり

交差して捻りのポーズ春兆す

筋トレの8カウント春あけぼの

けんこう骨寄せて開いて春の声

春昼や八年目なるわが愛車

白鳥帰る獣医の上を旋回し

セルリアンブルーの空や早春譜

穏やかやミニマリストに春の月

首都ぬけてはしる特急春満月

地図に置く家族三つや春の星


[恋 🐚]

人想ふ女ひとりや春の雪

すれちがふ心と心牡丹雪

たれもゐぬベンチに名残雪が降る

音楽堂のヒマラヤ杉の木の根明く

佐保姫に恋の行く方を問ひにけり

かげろふに恋人たちのまぼろしが

春泥や恋のわだちの深くあり

その一羽わが身重ねて残る鴨

春装を見せる人なき街路かな

沈丁の匂ひに恋をのせてやる

さらさらと虚しさこぼす春の空

恋人よそばにゐてこの余寒の日

黄梅やマラソンびとの靴の音

忘却をいざなふ春のひとつ星

連翹に季節の巡り知りにけり

ジョークさと笑ふ横顔春の闇

新生のあかりのごとく蝶生る

またの日の巡り来らむ月日貝

古傷になるときを待つ浅き春

春灯やベリーダンスの教室へ


[こころざし 🕊️]

青雲の春や義侠のこころざし

安曇野の睦月の空にちぎれ雲

雑木林二月の気配かそこそと

こまごまと二月を並べ露店街

川波のぎんぎんぎらと春立ちぬ

湧水にかざすボトルや春来る

立春大吉駅の朝モスビジネスマン

立春大吉キャリーケースの銀の色

如月や誰かと話すためのカフェ

春めくや自転車の人ふひに出る

カーテンの隙間の世間春兆す

人てふ字の愛と哀とや冴返る

冴え返る棚田の畔のほとけさま

枝の紅ふくらみかけて余寒かな

本当にもうこれきりと寒もどる

知らぬ間に深爪したる余寒かな

中庭の竹のベンチの雨水かな

仲春のむつくり起る狭庭かな

浅春の城下の菓子にうるし皿

二月来て列島地図に晴れの色


[よちよち仔犬 🐕]

文鳥の紅のくちばしあたたけし

湧水の尽ることなくあたたけし

襟元にもの言ふ赤子うららけし

老犬によちよち仔犬うららけし

のどけしや「ゆ」の一文字の藍暖簾

のどけしや空のぐんじやう湖に貼る

うららかや橋わたりながらつぎの橋

おとがひを風に撫でられうららけし

山麓の庭のピザ窯長閑なり

あたたかや公民館の道祖神

お煮しめの田舎ぶりなる駘蕩に

駘蕩として鳶の羽シンメトリー

木は森に人はとくわいに春一番

永日や三色ペンのシャープペン

横に立つ寡黙な人や夕永し

永き日の影と同行二人かな

白壁をあかね色に遅日かな

ひとかけのバレンタインのビターチョコ

ひたひたと足音の去る春の宵

ふと目覚め甘き気配や春の夜


[眠たいキリン 🦒]

佐保姫の金糸銀糸の野山かな

一輪のガーベラ買へば春の虹

眠さうにキリンゆうらり春の空

腹這へる女子ライオンや風光る

うららけし大型犬のぽくぽくと

あたたかに驢馬の散歩の蹄かな

あをぞらに銀を光らせ猫やなぎ

おほぞらに赤き機影や雪やなぎ

面白く跳ねて謳つて春の水

石よけて先を急げる春の水

のどけしや兎神社に猫座る

段々の山の茶畑のどけしや

キャラメルの紙で折る鶴鳥曇

積年の想ひの丈やうすがすみ

縁石に脱ぐスニーカー春一番

強東風や窓の小さき家に棲む

畳屋の卓のパソコン遅日かな

魔女の杖ひと振りごとに春灯

滴りを両手に受けて春の星

しづしづと東の空に春の月



※以降は『俳句ポシェット 🌿🪺🌼🌱🌺🌳🫧』に吸収合併(笑)します。




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大型犬ふはふは笑ふ 🐕 上月くるを @kurutan

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