【15-17】遺言 下
【第15章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859351793970
【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625
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アルベルト=ミーミル退役大将は室内にいたものの、来訪者たちの討議には加わっていない。
椅子に腰かけたまま、窓外に広がる湖をぼんやりと眺めていた。
「アルベルト君よ。これは、この老人からの遺言だと思って聞いてくれ」
元対外政策課長も、元副司令官も、元参謀長も、そして元特務兵も、フロージの言葉を一言も聴き
元総司令官は振り向かなかったが、農務大臣は構うことなく続ける。ただし、言葉を選ぶようにして。
「お前さんは機会を逸した。この国には、お前さんが命を差し出すほどの値打ちが、なくなってしまったよ」
「……」
ミーミルは、
そして、柔和な笑みすら浮かべている短髪まだら模様の小男に、黒く
そこに光はないが、フロージは気にするそぶりを見せずに、言の葉を紡いでいく。
「真面目なお前さんのことだ。軍務省次官・クヴァシルとの約束を守ろうと、この国の戦争責任の一翼を担おうとしているね。そのためだけに生きながらえておると」
問いかけを肯定するかのように、ミーミルの瞳は幾分かだけ
初めてこの官舎を訪れた折、それ以上踏み込めなかったローズルやフルングニルたちは、
【15-12】面会
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330654760536603
いまや室内のすべての者たちが、短身年長の農務相の言説に、聴力のすべてを注いでいた。
「……国家とはな、為政者とはな、4つのことが出来ていればワシはよいと思っておる。公平な裁判、安い税の徴収およびその効率的な運用、そして、民衆の生命財産を守ることだ」
農務省の太く短い4本の指を前にして、退役大将の瞳に戸惑いの色が浮かぶ。
それを見透かしたように、フロージの
「それに引き換え、いまの審議会の体たらくはどうだ」
裁判も開かずに当事者を始末し、民衆に新たな税をあてがおうとしておる。
搾り取った
帝国軍に薄給でこき使われ、命を落としている窮民には1ラウプニルも使われん。
「おまけに軍は、目の前で繰り返される強盗強姦・人身売買について、見て見ぬふりを決め込んでおる」
いつの間にか、ミーミルまで頭を垂れて、フロージの言葉に傾聴していた。
「4つの役割を1つとして果たせなくなった国家に、存在する意味などありゃあせん。お前さんがいま帝国軍の前にのこのこ出て行っても、死にかけの審議会――その
着座のまま瞑目してしまったミーミルに、フロージは立ちあがって言葉を浴びせる。
「お前さんが本当に守りたいのは、ヴァナヘイムという名の土壌であって、審議会という器ではないはずだ。守るべきは、我らを
その言葉に、思わず元総司令官は瞳を大きく見開いた。
元対外政策課長は渾身の笑みを浮かべ、瞳を閉じた。
元副司令官と元参謀長たちがうなずき合う向こうで、元特務兵は充血させた両目から、それ以上こぼれぬように口をへの字に結ぶ。
「……かくいう
農務大臣は自虐的に笑って、自説を締めくくった。
【作者からのお願い】
「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
宜しくお願い致します。
この先も「航跡」は続いていきます。
フロージの言葉が心に響いた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「親友と祖母 上」お楽しみに。
イエリン郊外の領主邸宅――そのサンルームでは、1人の少女が、老いた
「帝国軍か来てくれなければ、私も父もこの国の為政者たちに殺されていました」
カーリ=フォルニヨートは、収容所での過酷な生活の一端を口にして、悪寒を覚えたのだった。思わず左右の手を交差し、両の二の腕をさすってしまう。
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