【14-4】ひとすじの赤い風 下

【第14章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 森のなかで保護された先任参謀・セラ=レイス中佐たちは、ドリス南方に天幕群を構える帝国軍・第5旅団陣営に迎えられた。


 この野戦陣地には、城塞内で大被害を被った第7旅団の負傷兵が一面に寝かされている。その数は増える一方で、第5旅団の衛生兵だけではとても手が回らない状態であった。


 先任参謀一行はすすだらけではあったものの、負傷者はいない。自然じねん、診察は後回しにされた。



 周囲では、重度の火傷を負った者や、北門での戦闘で銃創を受けた者たちが、横たわっている。


 アンペラ1枚が敷かれただけのに不満はないが、そこかしこで上がる力なきうめき声に包まれては、さすがのレイスも横になる気にならなかった。


 そこで、彼等は所在なく立ち話をしたり、衛生兵を手伝ったりしていた。



 そんな彼等に、ひとすじの風が、吹き抜けた。


 同時に先任参謀の腰に、1人の少女が抱きついていた。風はこのがピャッと走り抜けたことによるものであろう。


 レイスが無精髭越しに見下ろすと、それは参謀見習い・ソル=ムンディルであった。


 くすんだ赤髪と従卒姿の肩を震わせてはいたが、腕には力が込められており、決して離すまいとの意思が感じられた。


「よくぞご無事で……」

 先任参謀の軍服に顔をうずめたまま、少女は消え入りそうな声でつぶやいた。


「トンネルのおかげで命拾いしたよ」

 レイスは相好を崩し、胸元の赤く小さな頭にそっと手のひらを載せた。


【13-46】火計 8

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 その後ろでは、困ったようにして微笑むキイルタ=トラフ中尉を前にして、アシイン=ゴウラ少尉がと泣いている。彼に続く参謀たちも涙ぐんでいた。


「副長、お怪我なく何よりです」

 もし、火傷を負われていたら、俺が一生――この先のくだりは、ゴウラ自身の鼻水をすする音でかき消えた。


 同僚たちの様子を、おやおやと言いたげな表情で眺めていたアレン=カムハル少尉は、後輩に向き直る。

「レクレナ、ひたいどした?」


 すると、ニアム=レクレナ少尉は、ガーゼの貼られたおでこに、両手を添えて震え出す。

「デ、デコピンだけはイヤですぅ……」


【13-48】消し炭 《第13章終》

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 ドリス城下にて、火殺の計略が発動したとの報が届くや、参謀部の者たちは、取る物もとりあえず同城塞に駆け付けた。ソルなどは、ようやく熱が下がりはじめた頃合いながら、ベッドを飛び出してきたのである。


【13-38】重ね合わせ

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 彼等は、崩れ落ちた南門の脇を抜けるようにしてドリス城塞に入った。焼け落ちた城下街の惨状を前に言葉を失いかけたが、先任参謀・副長・新米少尉を求めて、必死に探し回ったのだった。


 少女から事情を聴き、北門と西門の間にある城壁のトンネル――城外への脱出路――の入口が開いているのを確認し、彼等はようやく一息つくことが出来た。


 先任参謀や副長たちは難を逃れている、と。




 コナン=モアナ准将は、総司令部からの警告を黙殺しようとしたのである。おかげでヴァナヘイム軍による火計は発動し、彼の麾下の多くは命を失った。


「あんの禿げ頭、うちのの警告を聞こうともしなかったとは」

 だが、ゴウラの怒声に、生き延びた先任参謀たちは続こうとしなかった。


 今回の件を荒立てたところで、戦死者が蘇るわけでも、灰になった城下町が再建されるわけではない、とトラフは筋肉質の部下をたしなめる。


 逆に、准将に恩を売るのだ――間違いなく、今後は御しやすくなるだろう。



 副長の献策はれられた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイス・トラフ・レクレナが、仲間たちと合流できて良かったと思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「薪と角材 上」お楽しみに。

帝国軍は、ケルムト渓谷に籠るヴァナヘイム軍に攻撃を開始します。


「どうだ、砲撃の効果は」

遠く、やや間延びしたような弾着音が響くなか、帝国軍先任参謀セラ=レイスは、双眼鏡を目に当てながら、観測兵たちに尋ねた。


「……あまり期待できないですね」

「あの谷底深くまで籠られてしまっては、手の出しようがありません」

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