【13-46】火計 8

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 宿所を離脱したレイス一行は、城下の街を南進する。


 南門を目指す理由は、モアナ准将と同じであった。宿舎から最も近いことと、その先に友軍が到着しているからだ。


 通りという通りに面した建物も間断なく発火し、炎をまき散らしながら風が往来を吹き抜けていく。さながらといった様相を呈し始めていた。


 火に照らされた道は、昼間のように明るい。ほどなく23時を回ろうとする時間帯を忘れさせるほどに。


 彼等の軍服は熱を帯びていた。飾緒の金具などは、触れれば火傷しそうなほどに。



 南へくだるほど火勢は強まっていく。家屋という家屋から炎が噴き出し、屋根という屋根が燃え盛っていた。うなりをあげて吹き付ける西風は、それらを助長する。


 まるでふいごのようだと、トラフが思った矢先のことである。彼等は足止めを余儀なくされた。


 進もうとしていた先で建物が崩れ、道辻ごと火炎に吞み込まれていたからだ。紅焔こうえんの袋小路を前に、これ以上、南へ進むことは出来ない。



 炎熱が3人の肌や髪をじりじりと焼いていく。


「熱いですぅ……」

 レクレナは、左右の手のひらをそれぞれの目に当てている。両目の水分が蒸発していくようで、まぶたを開けていられないのだ。


 ――!!

 その時、トラフの脳裏に浮かんだのは、ドリス出立の折、病床のソルから耳打ちされた言葉であった。


【13-38】重ね合わせ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330652310228387



 彼女は、来た道を戻り始める。


「お、おい、北には行くなと言っているだろう」

 慌てて追いかけてくる上官と後輩に、トラフは少女の言葉を伝えていく。



『城下を調べ歩いていたとき、北門と西門の間の城壁に小さなトンネルを見つけました。板張りで隠されていましたが、それをくぐっていけば、城外に抜けることが出来たのです』


 レイスはすぐに絵地図を開いた。該当箇所にトラフは指先を添える。


「トンネルの先はほりではないのか」


 先任参謀の指摘を予期していたかのように、ソルはその先も調査をしていた。


 確かに、トンネル出口付近に濠が迫っているが、そこだけは徒歩で渡れるほどの浅瀬になっていたという。絵地図に見入ると、水堀がその箇所だけ一貫性なく曲がりくねっているのが分かる。


 おそらく、ヴァナヘイム軍統治の頃に設けられた、脱出経路なのだろう。


【絵地図】ドリス城塞都市(宿所・脱出路 追記)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330652830447735




 レイスたちは、ソルが発見したとされるトンネルの場所に到達した。果たして、そこには不自然な板張りが施されていた。


 簡易な施工とはいえ、男手1人と女手2人ではビクともしない。拳銃の弾丸程度で付けた傷では、蹴破ることもできなかった。


 折悪く、西風は北寄りに変わりつつあった。あっという間に炎がこちらにも迫ってくる。


 人手を求め、トラフは周囲を見渡す。


 そして、道端で絶望し力なく座り込む兵卒たちに近づくや、彼女は怒鳴りつけた。



 このまま、ここで焼け死ぬか、私たちとともに城外に脱出するか、と。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


室内に続き城内と、レイス一行の脱出劇に疲れた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「火には火を」お楽しみに。

時計の針は遡り、カメラはドリス城塞撤退直前のヴァナヘイム軍にフォーカスします。


「間もなく、雨晴れてのち、夕方より西の風が強くなるだろう」

ミーミルは、さも必然だといった様子で断言した。その様子はまるで、簡易な四則計算でも解説するかのようであったという。


「閣下は、天候まで分かるのですか!?」

ヒューキ=シームル少佐は声をひねり出していた。それは驚きと感嘆を尊崇で包んだような唸り声であった。

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