【13-38】重ね合わせ
【第13章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855
【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625
====================
「かなり熱いわね……」
トラフはベッドの脇に腰掛けながら、少女の小さな額から手を離した。
昨夕、ソルは発熱し倒れたのであった。翌未明に至っていよいよ高熱となり、起き上がれないでいる。
「ソルちゃん、ごめんなさいぃ……」
神妙な面持ちで入室したレクレナの手には、冷水の張られた
蜂蜜頭の少尉は、自身の熱烈なスキンシップ(再会を果たした感激によるところが大きいらしい)のせいで、少女が体調を崩したと思い込んでいる。
その診立ては間違っているとトラフは思う。昨日レクレナに遭遇する前から、ソルの様子はおかしかった。どんくさい女少尉にあっさりと後ろを取られるなど、俊敏な少女にとってあり得ないことだからだ。
おそらく、参謀見習いとしての職責に忠実であり過ぎたからだろう。要は、初任務に気張り過ぎ、体調を崩したのだ。レクレナのスキンシップは、とどめに過ぎない。
トラフは懐中時計の
西風の吹き始め――敵による火計の発動は近い。彼女たちは、一刻も早くドリスに乗り込むべく、夜半には宿を出立する予定であった。
問題は、一度眠りについたら、なかなか目を覚まさない上官だった。いかにして、時間をかけずに彼を叩き起こすべきか――さすがに民間の宿での発砲は
それだけに、少女の体調不良により足止めを強いられたのは、トラフにとって想定外だったと言える。
「先を……お急ぎ……さい……」
しかし、帝国軍の統治下とはいえ、カイサのこの宿に1人置き去りにするわけにもいくまい。健康そのものならいざ知らず、身動きもままならないとあっては、同性の手助けは不可欠だろう。
ところが、一行のなかでの女性となると、自身を除けばレクレナしかいなかった。この女少尉に病人を委ねていくことについて、トラフはどうしても不安を禁じ得ない。
「ソルちゃんの看病はぁ、この私におまかせくださいッ」
レクレナは、上官の不安と逡巡を知ってか知らずか、起伏の少ない胸を張る。
だが、ビシャビシャの布切れを顔面に置かれたソルは、鼻や口に冷水が入ったのだろう、激しくむせ込んでいる。
そのような様子を見てしまうと、馬に
「ひとつだけ……」
悩める女中尉に、ソルが消え入りそうな声で呼びかけてきた。
なにか、重要なことを告げようとしている――聴き漏らさぬよう、少女の口元近くにトラフは耳を近づけた。
その小さな口が訴えていたのは、彼女が完成させた絵地図――そこに描かれているもう1つの点についてだった――。
伝え終えると、ソルはうっすらと笑った。
「副長……先任参謀を……お願……しま……」
蒼みがかった黒髪にビリリと緊張が走るのを、自覚する。
『キイルタ、あにさまをお願いね――』
「――ッ」
紅髪の上官の妹君――かつての言葉と重なり合い、思わずトラフは立ちすくんだ。
【9-41】 もう1つの決意 《第9章 終》
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139557239437024
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
茹蛸ソル🐙が心配な方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
ソルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「火計 1」お楽しみに。
馬上のレイスとレクレナは船を漕ぎ、何度も後ろにひっくり返りそうになっていた。
それらの様子を見て、わずかに苦笑したトラフは、再び前方を向く。
その時である。
彼女の
「……婆さんの予報が的中したな」
レイスは自嘲気味に言い放つ。だが、自信と愛嬌をないまぜた笑みも歪んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます