【13-37】カイサにて 下

【第13章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

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 香水瓶を受け取った少女は、小さな鼻先から頬、耳たぶまで真っ赤に染まっている。地肌が白いからだろう、それは髪の色よりもいっそう鮮やかだった。


湯舟バス付きの部屋が空いていないか、すぐに宿のスタッフに確認しまし……」

 トラフが提案しかけた矢先のことだった――突然の大声が廊下の空気をかき混ぜたのは。



「あ~~~!!ソルちゃんだぁ~~~~~~!!!」



 レクレナ少尉が戻ってきたようだ。どこをほっつき歩いていたのか知らないが、腹を満たしたのだろう。カイサの町に到着した直後とは、声の張りがまるで違う。


 突然、素っ頓狂な調子で呼びかけられ、びくついた少女は、手にした小瓶をあやうく落としそうになっていた。


 パンやら果物やら燻製肉やらがはみ出した紙袋を抱えながら、レクレナは蜂蜜色の髪を揺らし、ずんずんとこちらに向けて進んで来る。



 「ひさしぶり~」「最近見なかったけど、どこ行ってたの~?」などと口にしながら、挨拶代わりとばかりに、女少尉は少女に引っ付いていく。


 ところが、頭から首筋まで完熟トマトのような色合いになっていたソルは、ぐにゃりとしている。


 少女にいつものキレが全くない。あっという間にレクレナに後ろを取られてしまった。そこからは、抱きつかれ、頬ずりされ、蜂蜜頭のやりたい放題である。


 さあ引っかれるわね、いや嚙みつかれるかしら……トラフが左頬に手を当てて、救急箱の場所を思い出している間のことであった。従卒用の軍服と銀の飾緒を下げた軍服による交錯は、意外な形勢に至る。


 少女はレクレナに組み敷かれてしまったのである。


 「ババア、やめろぉ……」

 ソルは、むなしく抵抗の声を上げている。



 ところが、その時だった。



「……!?」

 少女のあちこちをまさぐっていたレクレナの両手が、ピタリと止まったのだ。


 そして、彼女の鼻頭がスンスンと音を立てる。はじめは周囲を探るように、次第にソルに近づいていき、その腰回り、わきの下、胸周りに首筋、続いて赤毛へと進み――。



 レクレナの表情が、残念なほどゆがんだ。そして、鼻をつまみつつ口を開く。







「うっわ、ソルちゃん、なまぐっさ!!!」


 今度は、レクレナの鼻声が廊下に響き渡った。



 少女の手から落ちた香水瓶がコロコロと転がる。



 思わず、トラフは頭を抱えた。


 そうであった。異臭騒動の物件を精力的に巡り続けたソルは、そこに漂っていた悪臭(腐敗した魚油の臭い)が髪の根元から足先まで染みついていたのだ。


【13-30】異臭騒動 下

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330651467927451


 だから、先刻の報告の際も、少女は断固として入室を拒否したのだった。紅髪の想い人に、そのような体臭を嗅がれることは、赤髪の乙女として断固避けねばならぬ。



 一番指摘されたくなかったことを大声で叫ばれ、哀れなソルは、顔色がトマトからナスのように変色している。


 「バ、ババア!!デ、デリカシーないんかい!!」

 抗議の声も蚊が鳴くようだ。


 レクレナが鼻をつまんだことで、いましめは解かれた。少女はふらふらと立ち上がる。


 「オボエテイロヨ……」

 捨て台詞を口にしてソルは去っていった。水色の瞳に雫をためつつ、蛇行しながら。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


初めてソルがレクレナに負けた(?)ことに驚かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


ソルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「重ね合わせ」お楽しみに。


「かなり熱いわね……」

トラフはベッドの脇に腰掛けながら、少女の小さな額から手を離した。


「ソルちゃん、ごめんなさいぃ……」

神妙な面持ちで入室したレクレナの手には、冷水の張られたたらいがあった。なかにはタオルが浸されている。

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