【13-45】火計 7

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

====================



「始まりやがったか……」

 西の方角に立ち昇る火災旋風や、そこから放射状に広がっていく炎の流れ――それらをセラ=レイスは宿所のベランダからにらんでいた。吹き寄せる煙に紅い髪を力なく揺らしながら。


 火災騒動のためだろう、監視役の衛兵たちはいつの間にか居なくなっていた。


 部屋から脱出しようと、レイスが扉の取っ手を握るも、相変わらず鍵が掛けられたままだ。衛兵は、施錠したまま立ち去ったわけである。


 火の手は間もなくこちらに至る。抵抗を示すドアノブを彼は慌てて回し始める。


「閉じ込められたままあぶり焼きはイヤですぅ」

 ベランダに出たレクレナも、流れ来る煙に咳き込みながら、すぐに逃げ戻ってきた。


 誰かいないのか、と大声を上げながら、レイスは扉を叩き続ける。しかし、それに応じる声はない。


「中佐、お下がりください」

「お、おう!?」


 レイスがトラフに視線を向けると、彼女は腰から外した拳銃を両手で構えていた。


 上官が扉から離れるや、トラフは発砲する。立て続けに数発――ドアノブの周りをぐるりと射抜くように。


 射撃音とわずかな白煙が収まると、木製の扉は円形に縁どられ、中心にある取っ手は、力なくぶら下がっていた。そこをトラフは軍靴で蹴り開ける。


 レイスは「お見事」とばかりに口笛を吹く。それには、「おおこわ……」という成分も多分に含まれていた。



 表に出た参謀部の3名は、ひとまず宿所の3階通路から周囲を見渡す。西の方角は炎の海となっていた。それが風に煽られ、着実に東の街並みへと飛び火していく。


 一方で、北の方角は暗いままであった。おでこに手をあてて見回していたレクレナが、そこを指さす。

「あっちは、まだ火が回っていないようですぅ」


 しかし、先任参謀は即座にそれを否定する。

「ダメだ。北門には行くな」


 少女・ソルが作り上げた絵地図を、彼はその場に拡げて言う。火点の配置が、東西南門に比べて、北門周辺は少なすぎるのだ――不自然なほどに、と。


「ここには敵の備えが必ず仕掛けられているはずだ」

 根拠はない。俺が敵司令官だったら必ずそうする――この一言だけで、トラフとレクレナにとっては十分なようだった。


 参謀部の者たちにとって、先任参謀の断言ほど信頼に足るものはない。


【絵地図】ドリス城塞都市

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330652163432607






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイスたちが宿舎から脱出できてホッとされた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「火計 8」お楽しみに。


家屋という家屋から炎が噴き出し、屋根という屋根が燃え盛っていた。うなりをあげて吹き付ける西風は、それらを助長する。


まるでふいごのようだと、トラフが思った矢先のことである。彼等は足止めを余儀なくされた。


進もうとしていた先で建物が崩れ、道辻ごと火炎に吞み込まれていたからだ。紅焔こうえんの袋小路を前に、これ以上、南へ進むことは出来ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る