【13-44】火計 6

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

【絵地図】ドリス城塞都市

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330652163432607

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 ドリス城下は、火の海になろうとしていた。


 西の城壁近辺の家屋という家屋から、夜空を焦がすかのように轟轟ごうごうと火柱が吹きあがっている。


 それらが、折からの西風にあおられ、累々と延焼していくではないか。


 火は風を、風は火を呼び合い、両者は炎となって燃え広がる。


 家屋の密集地帯に飛び火がさしかかった。すると、待っていたかのように中央の建物からほむらの大輪が咲く。花弁は昼間のように辺りを明るく照らしていた。



「こ、これは火事ではない。火計だ」

 帝国軍第7旅団長・コナン=モアナ准将とその幕僚たちは、寒風吹きすさぶバルコニーで、一様に酔いから覚めていた。


 西門は既に炎に包まれている。足元まで火勢は迫っていた。この本郭ほんぐるわに炎が回るのも時間の問題だろう。


「このままでは我ら全員焼け死ぬぞ」

 准将以下は酒瓶を蹴倒し、我先にと厩舎へ走る。それぞれ馬にまたがるや、本廓を後にした。


 彼らは南門へと急いだ。ここから最も近い城門であることや、南の郊外に第4・第5旅団といった友軍が到着しつつあることを視野に入れて。



 南門への途上、嫌でも下士官や兵卒の様子が視界に入った。


 水桶を持ち、消火に追われる者。バケツリレーで消化を試みるも焼け石に水だ。


 負傷者を運び出そうとする者。また、それを看護する者。


 焼け出され、いましがたまで寝入っていた建物を呆然と見上げる者。


 酔いつぶれたせいか、火傷を負ったせいか、うずくまったまま動かない者。


 それらの者たちを打ち捨て、モアナたちは城塞内の街道を南へ南へと下る。西風が巻き起こす砂塵をやぶり、頭上をかすめる炎をやり過ごして。


 

 やっとのことで、たどり着いた南門にも炎が及ぼうとしていた。


 モアナは、付き従う副官や従卒、その場を右往左往する兵卒に、急ぎ城門を開くよう命じる。


 数人がかりでかんぬきが、ゆっくりと外されていく。


 モアナは腐っても第7旅団の指揮官である。この南門から城外へ避難するよう、城内各所の将兵へ向けて、彼が伝令を走らせようとした――その時だった。


 ドーンという爆発音が響いたかと思えば、石垣の振動が門上へ伝わっていく。そして、炎をまといつつあるやぐらが、グラグラと揺れはじめた。


 ヴァナヘイム軍は、城門に火薬を仕掛けていたようだ。


 東西南北の城門を受け持っていた各中隊は、数日前、異臭騒動を調査していた小娘一行を、まともに取り合わず追い返している。しかし、ここに居る者たちは、そうした事実を知らない。


 櫓は石垣もろともガラガラと轟音を伴って崩れ落ちていった。下敷きになる兵馬の悲痛な叫び声が、そこに重なる。


 間一髪で、南門から離脱したモアナたちにも粉塵が頭上に振りかかり、熱波が肌を焼いた。



 濛々もうもうと立ち昇る黒煙は風に押し流され、東の暗闇の空へ溶け込んでいく。


 礼拝堂前の中央広場に第7旅団長とその幕僚たちは逃げ戻っていた。彼等の下に、東門の様子を見てきた部下たちも集う。東門も西門や南門と同じ惨状だという。


 西門周辺の家屋から焼け出された下士官・兵たちもたどり着き、中央広場は帝国軍の将兵で埋め尽くされつつある。このまま城下の街並みと共に、炎に巻かれてしまうのだろう――誰もが、絶望的な表情を浮かべていた。



 そんなところに、北門の様子を確認してきた兵卒たちが飛び込んだ。


 彼等は叫ぶ。北の方角はまだ、それほど火が回っていない、と。



 業火を前に身を寄せ合うだけの者たちに、一筋の光明が差し込んだ。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ミーミルによる火殺の計略の勢いに圧倒された方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「火計 7」お楽しみに。


レイスが扉の取っ手を握るも、相変わらず鍵が掛けられたままだ。

火の手は間もなくこちらに至る。抵抗を示すドアノブを彼は慌てて回し始める。


「このままでは、閉じ込められたままあぶり焼きですぅ」 ベランダに出たレクレナも、流れ来る煙に咳き込みながら、すぐに逃げ戻ってくる。


「中佐、下がってください」

レイスがトラフに視線を向けると、彼女は腰から外した拳銃を両手で構えていた。

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