【13-48】消し炭 《第13章終》

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

【絵地図】ドリス城塞都市(宿所・脱出路 追記)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330652830447735

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 ソルが発見したトンネルは狭かった。


 西門と北門の間の城壁をくり抜いたそれは、通路というよりも土管であった。少女はともかく、大人は四つん這いになって進むほかない。


 大雨が降った際、城内の水を逃がす排水路も兼ねているのかもしれなかった。


 その土管を抜けた先に、ヴァナヘイム兵が居たらである。先頭はセラ=レイス中佐が引き受けていた。


 最後まで先頭を担うことを申し出ていたレイス隊副長・キイルタ=トラフ中尉は、中佐にもしものことがあったら、と2番手は譲らなかった。


 その後ろを渋々進むは、ニアム=レクレナ少尉。ヴァナヘイム兵が現れる前に副長に撃たれては元も子もない。


 彼等の様子を見て、帝国兵もぞろぞろと続いた。業火にあぶられたままよりも、少しでも生還の可能性が漂う脱出口に賭けたのである。いつの間にか、土管の入口には縦列が形成されていた。



 城壁の奥行はせいぜい30メートルほどである。それを貫くトンネルもさほど長くはない。


 だが、長年放置されていたようで、雨風による浸食だろうか。小隧道ずいどう内では、そこかしこで傷みが見られた。


「ここ、大きな穴がいくつも開いているぞ」

 泥水が溜まっている個所もある。後続の者たちに気を付けるよう、先頭のレイスから注意を促す声が飛ぶ。


 ――そういうお心遣いが嬉しいのですよ。

 上官が先頭を買って出てくれた時の感激をみしめながら、トラフは続く。


「え、中佐、何ですかぁ?」

 だが、間にトラフを挟んでいるうえに、後ろを多くの帝国兵が続いているため、レクレナはどうにも聞こえにくいようだ。


 副長、意外とお尻大きいんですねぇなどと、憎まれ口まで叩いている。


 ――トンネル抜けたらデコピンッ(怒)

 水溜りを避けながら、トラフは後輩へのを決意した。



***



 帝国暦383年11月30日夕刻、帝国中央軍・第2師団所属の第4・第5旅団は、ドリス城塞都市へ入った。


 崩れ落ちた南門の脇に通り道をかろうじて確保し、何とか入城を果たした形だ。だが、言語を絶する光景を前に、両旅団の将兵は何から手を付けて良いのか、判断できないでいた。



 ドリスの街は灰燼かいじんに帰していた。


 消しずみと化した家々は、白煙を上げくすぶっている。時折風が強まる度に、赤々とした残り火が、そこかしこに確認された。


 焼け落ちた建物は、西風に炭化した躯体をさらしている。


 それらの合間には、黒焦げとなった遺骸が折り重なるようにして、至る所に転がっていた。身元を特定することはほぼ不可能だろう。


 かろうじて燃え残った鍋や缶なども溶け崩れ、原形をとどめていなかった。


 本廓ほんぐるわや礼拝堂、石垣などの石造りの構造物はおろか、緑地の樹木まですすだらけになっている。


 これらは、いかに激しい火炎が襲ったのかを物語っていた。



 城門は、東西ともに、南門と同じ惨状であった。


 火薬が仕掛けられたのだろう、やぐら・城壁もろとも爆砕され、もはや瓦礫がれきの山でしかない。


 北門については、いっそう悲惨な状況だった。


 城門そのものは崩れ落ちていなかったが、門扉から城壁まで、大小無数の弾痕が穿うがたれていた。それはまるで、巨大な蜂の巣のようであった。


 何より顔をそむけたくなるのは、それらを浴びたであろう友軍の数え切れぬほどの亡骸であった。


 第7師団将兵のおびただしい数の死体は、積み重なってはを成し、転がり落ちてはほりを埋め尽くしていた。ぼろきれのようになった軍旗が風に揺れ、水堀は朱に染まり続けている。


 首や手足が付いているだけマシであったが、それらのほとんどが、はらわたや脳髄が飛び出し、恐怖と苦痛に顔は歪められていた。



 延焼が軽微だった北の城門に、第7旅団の将兵は殺到したようだ。


 一連の火は、帝国軍を追い込むためのヴァナヘイム軍による企てだった。敵将・アルベルト=ミーミルは、炎までも操ったというのか。


 いぶされて飛び出してきた獣が、狩られるかのようだった。


 本来、城兵を守るはずの虎口こぐちや水堀は、帝国将兵に災いした――城門のクランクや濠に架かる一本橋によって、一斉に城外に避難することを妨げられた。


 顔を出し、姿をさらす度に、ヴァナヘイム軍の銃火によって効率よく殺傷されていったのである。


 遠く燃え盛る炎を背に、北門を潜り抜けてくる帝国軍将校や、濠橋を渡る同軍兵卒は、城外に待ち構えるヴァナヘイム軍からは丸見えだった。


 一方で、北門先の商家や、濠向こうの暗闇に身を伏るヴァ軍将兵は、帝国軍側から捕捉することは至難の業であった。






第13章 完

※第14章に続きます。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


今回の火計を通じて、レクレナの故郷の料理

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330651973554563

を思い出された方(いないか・汗)、

🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


トラフとレクレナたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回からは、第14章「停戦」が始まります。

長かった「航跡」第1部も終盤にさしかかります。


ミーミル相手に後手に回り続けたレイスが、積極的に仕掛けていきます。

両雄の戦い、帝国・ヴァナヘイム両軍戦闘の行く末を見守ってください。


お楽しみに!!

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