【13-25】悪夢

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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「第2砲陣、突破されました!」


「第3砲陣、崩されつつありますッ」


 ストレンド郊外での帝国・ヴァナヘイム軍の戦いが、山場にさしかかろうとしている。


【13-18】 二枚斧 上

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330650565909273


 帝国軍は圧倒的な数の砲兵を率い、ヴァナヘイム軍に反撃の暇を与えず、一方的に打ち負かすはずだった。先日、ミュルクヴィズの街をぎ払った時と同じように。



 このストレンド郊外の戦闘については、後年とある軍事学者が両軍の布陣を一瞥いちべつしただけで、「帝国側の勝利」と断定するに至る。それほど、両軍の陣容の差は歴然であった。


 ところが――。


 実際の戦場では、アルヴァ=オーズ麾下、ヴァナヘイム軍・第1師団の突進を前に、コナン=モアナ准将麾下、帝国軍第7旅団は、なすすべもなく布陣を破られていた。


【13-20】 二枚斧 下

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「歩兵第4・第6中隊もそちらに回せ!!」

 モアナは、終始立ち上がったまま、怒鳴り散らしている。


 だが、帝国軍は完全に勢いに呑まれていた。


 歩兵を回しても、足止めにすらならない。弾き飛ばされ、踏みつぶされるばかりである。


「おのれ、猪どもめぇ……」

 既にあたら3個中隊をすり潰してしまった。



 空気をビリビリと震わすは、麓から迫るヴァ軍の喚声。


 無数の銃声が足下に迫る――発砲音のみならず、跳弾音まで。



 ――このままでは……分断される。

 モアナは、奥歯が割れるほど、強く噛みしめる。



「ヴァナヘイム軍、来ますッ!!」


 林立する「二枚斧」の旗印が一塊となり、こちらに打ち寄せて来る。



 ――ッ!!




***



「うううぅううぅうむッ」


「閣下!」

「閣下、大丈夫でございますか!」


 モアナ准将は、副官たちの声を前に目を覚ました。


 ――まただ。

 あの日――ストレンド城塞郊外での一戦に立ち戻るのは、もう何度目のことだろうか。


 彼は、禿げ上がった頭頂部から胸元、それに背中にかけて、ぐっしょりと寝汗をかいていた。


 ヴァナヘイム軍第1・2師団との死闘から、もう何日も経過しているはずなのだが。


 それに、敵の指揮官・アルヴァ=オーズ以下、そのほとんどは間違いなく討ち取ったはずだ。


 にもかかわらず、自分をはじめ幕僚たちまでもが、みな悪夢にうなされ続けている。


 それほど、あの猛将の最期は、鬼気迫るものがあった。


 喉元に剣先を突き付けられたような恐怖は、いまだ拭えていない。



 モアナは、不快な気分を抑えつつ身を起こす。従卒たちに着替えとタオル、それに水を1杯持って来るよう命じつつ。


「……」

 体毛に覆われた体を濡れタオルでぬぐいつつ、彼は考える。



 参謀部を更迭されて以来、彼とその麾下は前線に転属させられている。


 先任参謀に返り咲いた紅毛の若造に、彼らは振り回されていた。猛将と命を削り合うような戦いに次ぐ戦いを強いられ、風塵舞う野戦陣営での寝起きが続いているのだ。


 こうした心身に疲労が染み込んでいくような環境も、悪夢を誘発しているのかもしれない。


 だが、間もなくドリス城塞に入ることができよう。


 主力を失ったヴァナヘイム軍の奴らは及び腰だと聞く。さしたる抵抗を受けることなく、入城できることを期待したい。


 城塞に入ったあかつきには、久方ぶりに屋内で休息を取る――将兵一同、それだけを心待ちにしているのだ。



 それにしても、最前線に飛ばされてからというもの、派閥の領袖・ターン=ブリクリウ大将の反応は誠に素っ気ない。


 ご機嫌伺いの品を所領元(留守居役)から東都・ダンダアクに贈らせても、返電すらない始末だ。


 このまま手柄を挙げずしてと凱旋した場合、粛清されるのが関の山ではなかろうか。黒狐大将閣下の手もとには、己の代わりなどいくらでも居るのだから。


 黒狐の下で出世できる望みは、大方潰えた。


 ――いっそのこと、アトロン総司令官あの農夫に鞍替えした方が良いかもしれん。


 モアナは、ぬるい水を喉の先に飲み下した。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


オーズの最期は、彼を討ち取った者たちに、少なくない精神的外傷トラウマを植え付けた――そのこと気付いた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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モアナたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「カンファレンス 上」お楽しみに。


「敵はエドラ撤退を前に、城下の領民を避難させたようです」

あおみがかった黒髪美しい副長は、報告を終えた。


足を組み、頬杖をついて聴いていた先任参謀・セラ=レイス中佐は、最後の一言にあかい眉を曇らす。

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