【プレイバック⑫】アシイン=ゴウラの小休止 終

【第8章 登場人物】

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【組織図】帝国東征軍(略図)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927862185728682

【イメージ図】イエロヴェリル平原の戦い

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139554877358639

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 383年7月、両軍がにらみ合うイエロヴェリル平原に、烈暑が襲いかかった。


 この平原の夏は、俺たちが体験したことのないほどの熱暑だった。


 特注の鉄棒も陽炎かげろうたゆたうなか、焼けるような熱を帯びていた。さすがの俺も、懸垂けんすいをする気が起こらない。



 渓谷にこもった敵が、打って出るような気配はなかった。


 敵さんもきっと暑いのだろう――谷底に守りを固めたまま、ちっとも出てこない。それを真に受けて、帝国軍各隊は平原に散らばっちまった。物陰も飲水もないのだから、仕方がなかろう。


 食糧不足がいよいよ深刻さを増しているところに、日陰不足と水不足……三重苦にさらされたら、帝国軍上層部でなくとも、当座の対応を余儀なくされるはずだ。


【8-2】炎暑 下

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 そこを、見事にかれちまったわけだ。



 敵の総司令官は、涼しく水の確保にも容易な谷底に潜み、俺たちがバラバラになるのを待っていたんだ。時間を無駄にせぬよう、自軍には猛訓練を課しながら。



 各隊とも連携が取れない帝国軍右翼は、まともな反撃すらままならぬまま、各個撃破されちまった。


 それにしても、谷底から這い出してきたヴァナヘイム軍のヤツら、やけに数が多い。俺たちの前に展開するアルヴァ=オーズ師団は、1万5,000と値踏みされていたものが、どう見積もっても3万は下らないのだ。


「やつらは自陣に閉じこもっている間に、兵士がる樹を育てていたのだろう」


 少しでも緊迫した雰囲気を和ませようと軽口を叩いてみたが、カムハルやレクレナたちに妙に納得されちまった――そんな樹木があってたまるか。


【8-5】兵士が生る樹 上

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 をもってしても、どうしようもなかった。野砲を数門ぶっ放したところで、たかが知れている。


 この敗戦で、帝国の右翼各隊が受けた被害は、尋常ではなかった。軍司令も師団長も、指揮すべき将兵を見捨て、逃亡とんずらしちまったほどだ。


 俺たちも、後方の帝国本隊に逃げ込むため、退却を急がねばならない。



 撤退にあたって、レディ・アトロンと、が、はじめて意見を異にする。


 彼女は、「後方、帝国中軍に合流するまで、追撃を受けることはない」と、楽観的な計算をした。


 彼は、「敵司令官は恐るべき速さで追撃に移り、味方は帝国中軍にたどり着く前に粉砕される」と、悲観的な計算をした。



 彼女は、傷ついた味方を1人でも多く救おうとした。


 彼は、足手まとになる者は打ち捨てようとした。



 両者が理解し合う機会は、永遠に来なかった。



 すべては、の予測どおりの展開となった。



 レディ・アトロンは、最後まで平原に残った。


 そして、雲霞うんかのようなヴァナヘイム軍を喰い止め、多くの味方将兵を見送ったあと、彼女は壮烈な戦死を遂げたのである。




 帝国軍は、本当に惜しい人材を失っちまった……。


 指揮官としての采配能力。


 武人としての戦闘能力。


 何よりも裏表のない清々しいまでの人柄。



 こうした替えが効かない人物が倒れ、我先と逃げたお偉方は生き残った。


 馬好きのビレー中将は、先にレディ・アトロンから献上された、ブレギア産の極上馬のおかげで命拾いしたらしい。


 何とも皮肉な話である。



***



 副長殿から依頼された、振り返りについては以上だ。


 俺が知っていることは、全部話させてもらった。


 この先、俺たちは、アトロン連隊をはじめとする敗残兵――再編後も一部隊として組み込むには半端な余りもの――とともに、臨時大隊を編成。そのまま、予備隊として後方に置かれるらしい。


 いまのうちに荷物をまとめておくように、今朝、副長殿から指示があったのを思い出した。


 敗走に次ぐ敗走が続いた俺たちに、まとめるほどの荷物もないのだが。


 そうだ、レクレナ、俺の鉄亜鈴アレイを見なかったか?






【プレイバック⑫】アシイン=ゴウラの小休止 終




【作者からのお願い】

「アシイン=ゴウラの小休止」は最終話を迎えました。


途中、副長トラフの軌道修正が入りながらも、ゴウラの想いは強く……予定を上回る話数になってしまいました。


ここまでお付き合いくださり、感謝申し上げます。


ステンカ戦役――サマラ撤退作戦――については、いつか詳細を描きたいと思います。


振り返りはもうバッチリの方、

レディ・アトロンには生き抜いて欲しかった方、

ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ゴウラたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回からは、第10章「首飾り」が始まります。


その後のフェイズは、ヴァナヘイム国へ――アルベルト=ミーミルのファンの皆様、お待たせしました。


総司令官である彼は、戦勝報告のため王都ノーアトゥーンへ呼び戻されます。

そこで、「首飾り」の巡り合わせにより、1人の少女(?)と出会います――。

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