【9-38】 帰館
【第9章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009
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雨は、いよいよ土砂降りの様相を呈していた。
降雨と同時に襲ってきたのは、残暑の存在など忘れたかのような肌寒さであった。
レイス家の小さな館は、静まり返っていた。
キイルタは、タオルと着替えを用意し、暖炉に火を入れて2人を待っていた。
2人はもう帰ってこないのではないか――胸騒ぎに心が潰されそうになりながら。
兄妹はずぶ濡れになりながら、館に帰ってきた。
衰弱しきったエイネは、セラに背負われていた。
勢い余って玄関先に出たキイルタは、兄君を突き飛ばすようにして、妹君の身を受け止めた。
彼女は動転しながらも、エイネに肩を貸し、その身を部屋へと移す。
「……!」
雨に濡れた寝間着を脱がせようとキイルタが手をかけると、その先の肌は尋常でない熱を帯びていた。
熱を放つ少女の身体や紅髪を手早く拭き清め、着替えを済ませると、そのままベッドに寝かしつける。
休む間もなく、水
続いて、解熱薬を紙袋から取り出し、木皿のなかで
とりあえず、少女の処置を終えたキイルタは、再び大股で玄関に取って返した。そして、そこで座り込んだままの少年の首元を締め上げる。
「あなたは、いったい何をなさっていたのですか!?」
何から問いただせばいいのか、キイルタは分からなかった。
でも、心の内で、安心している自分がいる。泣き出したい自分がいる。彼はここに帰ってきてくれた。
しかし、妹君の症状をおもんばかって、詰問ばかりが口をついて出てしまう。
「あれほど、先生が『身体を冷やすな』と言い残されたのに、エイネ様を長時間雨にさらすなんて……」
それに、怒・哀と感情を高ぶらせることも先生は禁じられていた。兄妹でどんなやり取りがあったのかは知らないが、セラを心配したエイネの心情的負担は、小さなものではなかっただろう。
【9-31】 読心術
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139556737959022
「狐を退治しようと思ったんだ――」
幼馴染の怒気に当てられながら、セラはぽつり、ぽつりと口を開いた。
みんな、狐の連中に悩まされているじゃないか。
お前の親父さんも。
ゴウラさんも。
アトロン将軍も。
ダイアン先生も。
そして、父上も……。
病巣を取り除く手術に立ち会って、思いついたんだ。
「諸悪の根源を除去しよう、と」
落石の仕掛けは、何度も試験を繰り返した。
完璧なはずだった。
狐の命運も尽きるはずだった。
「そしたら、みんな救われるんじゃないか、って。先生も俺を見直してくれるんじゃないか、って」
ほら、あの医術の達人だって、ブリクリウ一派の横暴に
彼の黒ずんだ視線は、玄関の敷石に落ちたままであった。
「……」
キイルタは、この数日、兄君が館を留守にしていた事情を理解した。そして、この日、妹君が身を挺してそれを止めたことも。
妹君を治療した女医は、兄君を傷つけていたのだろう。
キイルタの灰色の瞳には、あの日――夏の日照りのなか、どこに行っていたのかは知らないないが――亡霊のようになって帰宅した少年の姿が、目の前の彼に重なって見えた。
【9-27】2つの決意
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428018200650
ダイアンの先生が「いざという時に」と、置いていった解熱薬は、効果てき面だった。
治まるところを知らないように思えた発熱は、翌朝には引いていた。
ところが、熱が下がりほっとしたのもつかの間、その夜からエイネは激しく咳き込み始めた。
咳止めの薬の効果も虚しく、一晩中続く
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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セラとエイネが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「返電なし」お楽しみに。
食事の量がさらに細くなると、エイネの容体は急激に悪化していった。
ダイアン女医とは、いまだ連絡がつかない。
実家にも電報を打った。父・ロナンはすぐに家の者をヴァナヘイム国に派遣してくれたようだ。
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