【9-18】2人の少女 上

【第9章 登場人物】

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【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

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 東岸領のレイス家に、キイルタが訪れていた。


 この蒼みがかった黒髪を持つ少女は、トラフ家の息女である。


 トラフ家は代々レイス家を補佐してきたが、先の政変においてレイス家先代・ゲラルドの機転により、命脈を保つことができている。表向きはレイス家と反目し、ブリクリウ派閥にくみしたのである。



 ゴウラ家から譲られたレイス家領・スリゴは、片田舎のうえにさして広くはない。所領の規模をわきまえた、こじんまりした建物が、領主の館であった。


【9-11】麒麟児 下

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 セラの妹・エイネは、領主不在の小さな館を守っている。


 兄と同じ紅髪の彼女は、黒髪の幼馴染の訪問に歓喜した。


「すぐに準備するから、座っていて」

 いまのレイス家は、使用人を雇う余裕などない。エイネはエプロンを身につけると、嬉々として台所を行き来しはじめる。


 前領主様の御息女にお茶の準備をさせるなど、恐懼きょうくの極みだったのだろう。キイルタは、落ち着かない様子で、ダイニングチェアに座っている。もう少し気の利いた菓子を持参すべきでしたなどと、口にしながら。



 エイネは、2種類のパウンドケーキ――プレーンのものと、柑橘系果物を生地に入れたもの――を紅茶と共に振る舞った。


 そこからは少女2人による和気藹々わきあいあいとしたおしゃべりが始まる。冒頭、エイネはキイルタに、敬語ではなく友達口調で話すようにお願いした。


 平日に3日ほど開かれる、領内のオーク教会学校にて読み書きを習い、時折ゴウラ家から派遣される、所領統治補佐の大人たちをもてなす。そして、それらの合間に、大好きな花の絵画を描く――エイネはそれなりに充実した日々を送っていた。


【9-8】舟出 中

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 一方、キイルタの通う東都・ダンダアクの女学院は、規則規則と口やかましい場所なのだそうだ。


 その学院も創立記念日に伴う休みに入っている。初夏の連休を利用して、彼女は東岸領北方にあるトラフ家第2領土の別荘を訪れていた。


 スリゴからは、目と鼻の先である。


 キイルタは別荘に到着するや、その日のうちに、この館まで足を延ばしてくれたようだ。エイネはそれが何よりも嬉しかった。



 リビングルームの窓辺には、数多くの花たちが、鉢に植えられていた。それらも少女たちの歓談に、彩りを添えている。


「これ、すごく美味しいです……美味しいわね」

 パウンドケーキについて、しっとりとして、それでいてしつこくない甘さが最高だと、キイルタは褒めてくれる。


「ありがとう。あにさまも、このお菓子が大好きなのだけど、帝都まではとても日持ちしなくて」


 キイルタの華奢きゃしゃな肩が、ピクリと反応する。


 ――やはり、あにさまのことが聞きたいのね。

 彼女の兄への想いは、とうの昔から気が付いている。エイネは、苦笑を微笑ほほえましい気持ちで包み、飲み込んだ。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


エイネとキイルタの女子会、続きが気になる方、

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セラとエイネが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「2人の少女 下」お楽しみに。


「あにさまは毎週たくさんのお手紙をいただいているそうよ」

「手紙……」

「うん、とても良いがするお手紙みたい」

……」

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