【9-11】麒麟児 下

【第9章 登場人物】

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【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

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 セラによる大人たちへの献策が続いている。

「騎翔隊が活動できるのは、草原とその隣国までの範囲に過ぎません」

 

「それは、どういうことかね」

 ゴウラ家当主は続きを促す。言葉からも、少年参謀へ全幅の信頼を寄せていることが伝わってくる。


「ブレギアという国は、兵牧・兵農分離がなされていないからです」


 騎翔隊の乗り手たちは、郷里に帰れば牧畜従事者に姿を変える。また、近年では、ラヴァーダの富国策の一環により、彼らは小麦の生産にも力を注ぎ始めている。


【4-5】産を殖やし業を興す 上

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 春には、仔馬や仔羊の出産対応をはじめ、小麦の種蒔き、馬乳酒の仕込みに草原の村々は大わらわ。秋にも小麦の刈入れが控えている。


 つまり、ブレギア兵は、労働力として半年に1回、故郷に戻らねばならないのだ。



「幸いにして、我らとブレギアの間には、ヴァナヘイム国が存在します」


 ヴァ国は、長年ブレギア国と戦い続けている。緩衝かんしょう材としては、うってつけの存在だ。


「まして、ブレギアから大軍を差し向けねばとなると、補給の都合、街道の諸都市を押さえながら進まざるをえません」



 つまり、帝国東岸領を目指すには、ブレギア軍はヴァナヘイム国領の真っただなかを踏み込んでいくのである。


 数百の小規模部隊ならともかく、数万規模の軍勢となれば、いくら騎兵とはいえ、進撃できる距離も、限りが生じることだろう。


 しかも、6カ月という付きだ。


 帰国の日数を気にしていては、落とせる城塞数も限られよう。せいぜいヴァ国の一部を制圧するあたりが、関の山ではなかろうか。



 こうした事情から、ブレギア騎翔隊は、とても帝国東岸領に肉薄するだけの余力はないと、少年参謀は言い切った。


 セラの言やもっともなり――フィンは膝を打った。考えてみれば、これまで敗れてきたオーラム家派遣軍は、どれもブレギア国境付近で打ち破られているではないか。




 第八皇子と陸軍参謀次長の対立に端を発した騒動は、少年参謀の見立てどおりに推移し、落着した。


 第八皇子は帝都から追われ、騎翔隊のひづめも東岸領までは届かなかった。


 フィン=ゴウラが、紛争の当初からオーラム家に従う意向を示したことは大きかった。


 日和見を決め込んだ中小貴族を、戦後次々と取り潰していくなか、ブリクリウ=ターンは、滅ぼした旧家の所領の一部を、ゴウラ家に下賜したのである。



 フィンは、自家を救った少年参謀の金言を、勲功一番とした。


 この功績により、セラは東岸領にわずかながらレイス家としての領地を安堵あんどされたのである。


 新領地・スリゴ――旧領の規模には遠く及ばないうえに、北方の寒冷地で物成りも悪かった。


 しかしながら、セラは名実ともに「レイス家復興」を果たしたのであった。







【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


戦乱の行く末を全て言い当てた少年セラに、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「推薦状」お楽しみに。


「今日はご馳走だな」

「あにさまは、約束を果たしてくださったんですもの」

レイス家の貧民街での最後の食事は、エイネが贅をこらした。


「あの、俺……」

食事の準備に忙しい妹の背中へ、兄は言いにくそうに、言葉を選びながら切り出した。

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