【9-10】麒麟児 上

【第9章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009

【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

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 先の小戦闘における活躍により、セラは地域の領主・フィン=ゴウラの目にとまり、帷幕いばくの末席に加えられることとなった。


 所詮は「じょう」の田舎貴族である。帷幕といっても、参謀3人の集まりに過ぎなかった。


 だが、人数の少なさからくる牧歌的ぼっかてきな雰囲気は、少年・セラの発言が採用されやすい環境と同義であった。



 その後の野盗掃討戦にて、献言・献策が的を射る度に、この少年参謀に対する領主・フィン以下の信頼は、厚くなっていった。


 フィンは、髭から体毛までが繁茂した巨躯きょくの持ち主である。ところが、その外見からは、想像もつかないほど情に厚く、涙もろい。


 献言が的中するたびに、その大きな手でセラの紅い頭をぐわしぐわしと撫で付け、献策が功を奏するたびに、両目に涙をたたえて、暑苦しいまでにこの少年参謀を褒めそやした。


 信頼の醸成とともに、周囲はセラの出自に目をつむるようになっていく。




 セラが、ゴウラ家のなかに居場所を確保しつつあった帝国暦372年、東岸領全体を揺るがす、貴族どうしによる騒動が勃発した。


 発端は、帝国本土における第八皇子・フォラ=カーヴァルと、陸軍参謀次長・ネムグラン=オーラムの対立の余波が、東岸領に飛び火したものである。


 第八皇子か参謀次長か――明らかに前者の方に「義」と「理」はあった。だが、「実」においては、後者が勝った。


 はじめは2代目・3代目程度の気鋭の領主たちが――しまいには大貴族たちも、騒乱に加担していく。


 歴史ある名家のなかには、前者に同情を示す者が多かった。だが、利にさとい気鋭の者は、オーラム家の支持にまわった。



 そこかしこで戦乱の砲火が飛び交い、一つ判断を誤れば、一族滅亡に直結する重苦しく難しい抗争であった。


 そうした争いに、セラの所属する田舎領主も、否が応でも巻き込まれたのである。

 

 そして、この紅毛の若すぎる参謀の活躍により、ゴウラ家は難を逃れることとなる。



 この紛争の間、セラの主張はぶれなかった。徹頭徹尾、ネムグラン=オーラム派につくよう、領主へ進言したのである。


 これまでのゴウラ家のような、の態度では、当座のしのぎにしかならぬ。目の前の局面を乗り切れたとしても、後日いわれなき罪状を叩きつけられ、一門取り潰しに追い込まれるだろう、と。


 オーラム家につくことは、東岸領の実質的な主に収まりつつあるブリクリウ家の下に就くことを意味する。ブリクリウ家は、ネムグランの嫡子・アルイルの傅役もりやくを仰せつかっているのだ。


 オーラム家の威光を笠に着たブリクリウ家による執拗な収奪。それによって没落の淵へ追い込まれたレイス家――セラの身の上について、田舎領主たるゴウラ家の者たちも、それを知らぬ者などいない。


 ――狐面のブリクリウ家当主は、御父上のかたきではなかろうか。

 人一倍、義理人情に厚いフィンは、少年の心情に配慮し、決断を下せずにいた。



 しかし、そうした大人たちの心遣いなど虚しくなるほど、少年参謀は現実的であった。


 セラは繰り返す。オーラム家の傘下に入りなさい、と。



 オーラム派に与することで、第八皇子の本拠地ブレギアからの騎翔隊の襲来も危惧された。


 かの名参謀・キアン=ラヴァーダが育て上げた騎兵は、ネムグラン家の討伐隊を何度も打ち破っている。


 その騎翔隊が、この東岸領に乗り込んできたら、田舎領主など木っ端のように粉砕されるだろう。そうした風聞を中小領主たちは恐れていた。


 だが、その点においても、少年参謀は冷静であった。


「騎翔隊が活動できるのは、草原とその隣国までの範囲に過ぎません」






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


セラは良い領主の下につくことができたな、と思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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【予 告】

次回、「麒麟児 下」お楽しみに。


「騎翔隊が活動できるのは、草原とその隣国までの範囲に過ぎません」

「それは、どういうことかね」

ゴウラ家当主は、少年参謀に説明の続きを促す。


ブレギア騎翔隊は、とても帝国領に肉薄するだけの余力はないと、少年は言い切った。

セラの言やもっともなり――フィンは膝を打った。

 

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