【9-12】推薦状

【第9章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009

【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

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 ゴウラ家がセラに報いたのは、領地だけではなかった。


 帝都の官立・陸軍士官学校への推薦状までも用意したのである。


 セラの才気に触れたゴウラ夫妻が、この麒麟児きりんじを東岸領の片田舎で終わらせてはならない、と判断したのであった。


 元々、この推薦状は、先の盗賊退治の恩賞の1つとして、東都より下賜されたものである。


 セラがそれを受け取る権利は十分にあった。


 実子の居ないゴウラ夫妻は、推薦状の取り扱いに困っていた。甥のアシインの成績では、難解な入学試験をとても突破できないだろう。


 そこでフィンは、推薦状の氏名記入欄を、紅髪の少年のものに書き換えてしまったのである。




 大きな手柄を立てた小さな参謀は、借家へとした。


 戦功によって安堵あんどされた新領地・スリゴに、妹を迎え入れる準備を整えて。



「今日はご馳走だな」


「あにさまは、約束を果たしてくださったんですもの」


 レイス家の貧民街での最後の食事は、エイネがぜいをこらした。


 とっておきの塩漬け肉が惜し気もなく火にかけられ、市場で売られていた二番水が欠けたグラスになみなみと注がれた。



「あの、俺……」

 食事の準備に忙しい妹の背中へ、兄は言いにくそうに――言葉を選びながら切り出した。


 ゴウラ家領主様から陸軍士官学校への推薦状を手渡された。士官学校は、帝都ターラにある。


 帝都――すなわち帝国本土である。


 これまでレイス一家が苦心惨憺さんたんして生き抜いてきた貧民街も、この度の騒乱で勝ち取った小さな所領も、東岸領である。


 本土へ行くには、茫漠ぼうばくたる海を渡らねばならない。数年前の都落ちの折、この大海を父とともに越えてきたが、船で半月もかかってしまったほどである。


 領地から、士官学校へ通うことは当然のことながら不可能である。



 幸いにして同学校は、全寮制であった。


 東海岸に猫の額のような領土しか持たず、微々たるろくしか期待できないセラにとって、学費不要・全寮制の学校は、願ってもない話だった。


 しかし、己の生活費を切り詰めても、帝都で妹が暮らす部屋まで借りられるほど、経済的な余裕はない。



 キイルタのお父さんに頼めば、きっと工面してくれることだろう。


 だが、先の内戦により、トラフ家には、たくさんの中小貴族たちが保護を求めているという。


 とても幼い兄妹に構っている余裕はないはずだ。


 何より、第八皇子の凋落ちょうらくにより、東岸領はいよいよブリクリウ家の専横が始まりつつある。


 ただでさえ、没落貴族たちの取成しなど、ブリクリウ派にとって目障りな行為であるのに、そのようななか、旧領主に再び接近していることが明るみになれば、トラフ家こそ危険に陥る。



 つまり、陸軍士官学校に通うことは、妹を1人対岸に残して海を渡ることになる。兄が躊躇ちゅうちょするのは、ただその1点であった。



「行ってください。都の学校」

 エイネは、焦げ目のついた豚肉に視線を落としながら、りんとした声で応えた。


 妹は、後頭部にも目が付いているのではないか――しかもその第2の目は、兄の心のなかまで見通す力がある。


 妹の言葉を浴び、セラは本気でそれを信じかけたのであった。


 古びたフライパンからは、かぐわしい香りが立ちのぼっていた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


凱旋した少年・セラを祝っていただける方、

この先、エイネが1人になってしまうのではと心配な方、

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セラ・エイネ兄妹の乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「学園生活 ① 汚物」お楽しみに。


士官学校での生活は、3カ月が過ぎようとしてた。

入学試験こそ席順は20位だったが、その後は、学年トップの地位をセラ=レイスの名前が独占した。


の外部入学生が生意気な――。

たちまち、上級・中級貴族子弟による嫌がらせが始まった。

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