【9-17】学園生活 ⑤ 手紙
【第9章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009
====================
帝国士官学校にはロッカールームがあり、教材や体操服等の置き場として1人に1扉が割り当てられている。
その日も、あくびを噛みころしながら登校したセラは、ロッカーを開けた。すると、ドサドサとたくさんの封書らしきものが落ちる。
「……」
軍靴の上には、手紙が山を成していた。
セラはそのうちの数枚を手に取る。それらは香水だろうか、ほのかに匂いが知覚された……またしても女子生徒からの恋文であろう。週明けは特に枚数が多い。一部男子生徒のものが混じっているのには閉口する。
勉学を優秀な成績で修めているだけでなく、射撃ほか訓練をそつなくこなし、それでいながら周囲からどことなく距離を置いている。程々に整った顔立ちに、少年にしては高い背丈も相まって、セラに好意を寄せる女子(一部男子)生徒は増えつつあった。
士官学校は、校内の生徒同士の手紙のやり取りは黙認していた。しかし、校外とのそれとなると、話は違ってくる。
生徒は、どれほど高貴な家柄の子弟でも、軍の規律よろしく、親族親友との面会はおろか電話すらも許されない。
それは、リーダ格であるジョージ(股間全開事件でその権威は著しく傷つけられたが)であろうと、自信と愛嬌をないまぜた笑みの下、何を考えているのかよく分からないセラであろうと、等しく同じである。
外界と隔離された学園生活における最大の楽しみは、家族や友人からの手紙や電報、それに差し入れであった。
教官によって中身をあらためられるものの、書簡の類の受け取りは認められていた。
週に1度、学校に届いた便りや小包を、当番の学生が生徒に配る仕組みになっている。
兄弟姉妹から手紙が4通も5通も届く者、親に依頼していた書籍が手に入る者、祖父にねだって送ってもらった
小川の
しかし、彼はなまじ釣り竿などを用意したことについて、後悔していた。
そもそも釣れない(釣り糸をいくら垂らしていたところで、
魚の下処理(内臓を取り、
極めつけは、薪に火が着かない(東海岸より帝都近郊の方が湿度は高いようだ)。
途方もない労苦の末、焚火の炎を安定させることに成功したセラは、下ごしらえをして、ほとんど食べる身がなくなった小魚を1匹そこにかざす。
魚の対処がひと段落し、もう何度目かの手紙の黙読に入る。思わず頬が緩む彼の横に、いつの間にか古の明君――ならぬ、コナルが
「うむ、エイネ君は、新領地で息災のようだな」
「そうそう、妹は東岸領の自領で、慎ましく暮らしているようだ」
セラにとっては唯一の肉親であり、目に入れても痛くない存在だ。顔がほころぶのも致し方なかろう。
――ん?
紅髪の少年は
級友の手にある封筒と
「ちょっと待て、どうしてお前がエイネから手紙を受け取っている」
悪びれる様子もなく、コナルは言い放つ。
「このあいだ、エイネ君は俺の分も焼き菓子を送ってくれたじゃないか。そのお礼に紅茶葉を手配したらさ、毎週俺にも手紙をくれるようになった」
唖然としてたたずむセラの前で、級友はもしゃもしゃと何かを食べはじめる。
「なんだこりゃ、骨ばっかりだな。塩も振りすぎだ」
手間暇をかけ、ようやく食べごろになった小魚は、コナルの腹の中に一瞬で消えていった。
文句と引き換えに。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
セラさん、モテモテですね(。-_-。)と思われた方、
珍しく、セラが後手に回ったな、と思われた方、
ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
セラとエイネが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「2人の少女 上」お楽しみに。
エイネとキイルタ、2人の少女がお茶を片手におしゃべりをします!
兄と同じ紅髪の彼女は、黒髪の幼馴染の訪問に歓喜した。
「すぐに準備をするから座っていて」
いまのレイス家は、使用人を雇う余裕などない。エイネはエプロンを身につけると、嬉々として台所を行き来しはじめる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます