【9-16】学園生活 ④ 鉄拳
【第9章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009
====================
セラは学園生活に慣れてくると、力を抜く大切さも心得はじめていた。
毎朝5時半にラッパの音で叩き起こされる集団生活は、過酷である。
それでも、新聞と牛乳の配達で、セラは早朝起床には慣れている。また、工場と酒場の掛け持ち労働により、基礎訓練をこなす体力も身についていた。
ところが、どうしても馴染めない風習があった。
事あるごとに、教官や上級生に殴られるのだ。
挨拶の声が小さい、蹴球の授業で負けた、ベッド周りの片づけがなっていない……殴打の理由など、いくらでも後付けできるものだった。
そればかりか、いくら自分が気を付けていても、クラスメイトや同じ班のメンバーが失敗すれば、己も連帯責任を
陰湿な
普段、お世話になっている教官はおろか、虐めの仕返しの折、協力してくれた上級生までも、鉄拳を振るうのだ。教官や上級生すべてを相手にしては、さすがのセラも反撃はできない。
セラは、腫れ上がった右頬をさすりながら、理不尽な風習に対して
しかし、憤りを抱えながら殴られる。級友の不手際に連座して殴られる。何とか回避策を考えているうちに殴られる。時に、罰走も追加される。何の罰だか分からぬままに。
理不尽そのものが鉄拳制裁の判断基準だと理解したとき――前向きな諦めの境地に至ったとき――セラの気持ちは、幾分か楽になった。
そして、ある講義を受けて、ふと彼は気が付く。
戦史研究を
本土南部海岸に上陸したムルング軍を度々撃退し、女傑将軍としてその名を轟かせたエドナ=エスカータ――彼女もまた、配下の一部隊が起こした手落ちをきっかけに、全軍崩壊の憂き目に遭っている。
1人が万全を期そうとしても、それが末端まで届かなければ、意味がないことを、セラは学んだ。それは、学園生活における連帯責任にも通じるのではなかろうか。
それからのセラは、自然体になっていった。
最低限のことはやるが、その先、ダメになったとしても仕方がない。殴られる時は殴られるのだ。
貧民街で労働に追われていた頃のように、フルパワーで動き回っていても疲れるだけである。
寮ではもちろんのこと、校舎でもセラは居眠りすることが増えていった。しかも、教官や上級生に
その絶妙さ加減に、級友からは「紅髪の職人技」とも呼ばれるようになる。
それでいて、学年首位の座は失冠しない。
ある日、屋上の定位置で昼寝をしているセラに、コナルが聞いてみた。
「お前、いつも寝てばかりなのに、なんで成績は1位のままなんだよ」
「過去の試験問題を入手しているから、教官ごとの出題の
だから、試験問題を推測できる――と、眼を開けずにセラは答えた。
「くれぐれも、居眠りが見つかるようなヘマはしないでくれよ」
うたた寝に連座して殴られたのではかなわんからな――色の異なる瞳を細め、感心と
セラはひとり口元をほころばす。
そして、決意する。
――上級生になっても、自分だけは鉄拳は振るわないようにしよう。
何より、手が痛そうだから。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
鉄拳制裁に伴う達観が、ぐーたらレイスの原因だと気が付かれた方、
ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
セラとエイネが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「学園生活 ④ 手紙」お楽しみに。
ドサドサとたくさんの封書らしきものが落ちる。
「……」
軍靴の上には、手紙が山を成していた。
セラはそのうちの数枚を手に取る。それらは香水が焚きしめられていた……またしても女子生徒からの恋文であろう。週明けは特に枚数が多い。一部男子生徒のものが混じっているのには閉口する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます