【9-15】学園生活 ③ 種明かし

【第9章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009

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 数学担当教官は、たちまち生活指導教官となり、騒動を起こした生徒5名は、別室に連れて行かれた。


 もちろん、数学の授業は取りやめとなり、その日は生徒各々が自習と相成った。


 生徒たちは、ざわめき冷めやらぬ教室を抜け、図書館へと移動する者も少なくなかった。


 もちろん、そこに紅毛の少年の姿は……なかった。



 彼は自習を幸いに、屋上塔屋とうやの物陰で、昼寝を決め込んでいた。足を組んで横になり、交差した両腕は頭の下に敷いて。


 セラは、学園生活に慣れてくると、力を抜くことも心得はじめていた。


 勉学から訓練まで、全力で動き回っていても疲れるばかりである。



 帝都の初夏の空気は過ごしやすい。郊外の工場群の煤煙も、ここまでは届かないようだ。


 爽やかな風に当てられていると、自然とまぶたが落ちて来る。眠りの入口をウロウロするのが、セラは3度のメシよりも好きであった。



「絶妙な具合だっただろ」

 寝入りばなのセラに声をかけてきたのは、1人の男子生徒であった。ハサミを形作った人差し指と中指を、おどけた様子で動かしている。


 彼の名はコナル=ケルナッハといい、セラのクラスメイトである。


 初めて彼を見る者は、その顔にどうしても目が行ってしまうだろう。片方の頬は雪のように白く、もう一方はそばかすのように赤い。頬だけでなく瞳の色も左右非対称であった。片方の瞳はヒヤシンスのように青く、もう一方はカブトムシのように黒い。


「すまないな、体育を欠席させてしまって」


 コナルはと称し、蹴球サッカーの時間は保健室で休んでいた。


 いいってことよ、と言いながら、彼もセラの横に腰を下ろす。

「あいつら、いよいよ図に乗ってやがったからな、今日は本当に胸がすっきりした。お前に礼を言いたいくらいだ」


 今頃、ジョージ達は、生活指導教官にこってりと絞られていることだろう。いい気味だ。同じ思いを抱いている生徒は、少なくないともコナルは言う。


 彼自身も、その顔について揶揄からかわれること、1度や2度ではなかったようだ。




 セラとコナルは、気が合った。


「ここは気持ちがいいな」

 入学早々の昼休み、屋上で1人過ごしているセラに、声をかけたのはコナルである。


 しかし、コナルは、名門・ケルナッハ家の出である。自分のような没落貴族に関わると、ロクなことがないからと、セラが表立って接触することはない。


 コナルもそうした配慮を察して、教室で話しかけることはほとんどなかった。


 級友たちは、彼等が親しい間柄だと気が付いている者は皆無だろう。


 人目に触れない場所限定ながらも、学年で一番優秀な男と友人であることに、コナルは誇りに思っている節がある。




「で、どうやったんだ?」

 席替えのくじで女生徒を最前線に並べたカラクリを、コナルは知りたがった。


 保健室の窓から寂れた中庭に降りれば、教室はすぐ目の前である――体育に出払った教室をする作戦を授けたのも、セラであることは言うまでもなかろう。


「手品は、種明かししない方が楽しいものさ」


「俺にくらい教えてくれたっていいだろう」


 紅い頭を揺らされながらも、セラはわずかに笑みをこぼすだけであった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


セラは、なかなか良い友人と巡り会えたな、と思われた方、

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セラとエイネが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「学園生活 ④ 鉄拳」お楽しみに。

※スケッチブックに漫画を描く芸人さんではありません笑


憤りを抱えながら殴られる。

何とか回避策を考えているうちに殴られる。

時に、罰走も追加される。何の罰だか分からぬままに。

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