【9-14】学園生活 ② 図形問題

【第9章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009

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 帝都陸軍士官学校の教室では、黒板前でジョージ=ベールク生徒が、絶体絶命のピンチに陥っていた。


 問題が解けないわけではない。


 左手ノートの下にあるズボンは、下着もろとも何者かによって股間を丸く切り取られていたからだ。否、下手人はニワトリ頭――没落貴族のセラ=レイス――にほかならない。


 ジョージに課されたのは、折悪く図形問題であった。解答に導くには、右手にチョーク、左手に黒板用の大型三角定規を用いなければならないのだ。すなわち、股間を隠すノートを手放さねばならない。


 彼の仲間たちは、はらはらと視線を交わすもどうすることもできない。下手に動けば自分たちが罰せられる。そもそも彼らも一様に状態なのだ。


 壇上に据えられたジョージは、まるで裁判における有罪確定の被告人のようだった。


 彼は、に座るニワトリ頭をにらみつけたが、睨まれた方はどこ吹く風という体である。



「どうした、分からんのか」

 教官が呆れた様子で声をかけてくる。


 そんな訳はない。ニワトリ頭にこそ、一度たりとも試験で勝てたためしはないが、ジョージの成績は優秀な部類に入る。


 彼は黒板の右脇に置いてある大型定規をなかなか使用しようとしなかった。彼の板書は、いつもの自信は消え、小さく薄いものだった。


「なんだその数字は!?後ろの生徒が読めんだろうッ」


 教官に書き直すよう叱責され、ジョージが慌てて黒板消しに右手を伸ばした時だった。


 その先に立掛けてあった定規を誤って倒してしまったのである。


 思わず、左足を大きく前に広げ、両手でそれを受け止めてしまった。左手が保持していたノートが、ばさりと落ちる。彼は、教壇の上で生徒たちに向き直っていた。




 最前列の女生徒たちの前に、彼の股間が全開でさらされたのは、記すまでもない。




 女生徒の悲鳴からリーダー格の友人を救おうと、思わず立ち上がってしまった残り4人についても、揃いも揃って同じである。


 教官はベールクに向けて発しようとした罵声を唾とともに吞みこんでしまい、奇妙な喉音のどおとが響いた。



 このように、セラは頭が切れる分、下手に手を出したらどのような仕返しをされるか、分かったものではなかった。


 流れるように大掛かりな演出をしながら、決して己の尻尾は掴ませないのである。


 一方で、ちょっかいさえ出さねば、彼の方から挑発してくるようなことは決してなかった。


 周囲にそのことが浸透するにつれ、彼への嫌がらせは、自然と鳴りをひそめていった。


 この頃から、愛嬌だけだった彼の表情には、良く言えば落ち着きが、悪く言えばふてぶてしさが加わっていった。







【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


セラの遠大な仕返しは、作戦そのものだな、と思われた方、

数学の教官の喉音は、お菓子を詰まらせたサザエさんみたいだな、と思われた方、

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セラとエイネが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「学園生活 ③ 種明かし」お楽しみに。


「絶妙な具合だっただろ」

寝入りばなのセラに声をかけてきたのは、1人の男子生徒であった。ハサミを形作った人差し指と中指を、おどけた様子で動かしている。

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