【14-7】墓造り 上
【第14章 登場人物】
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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625
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「――ついては、帝国騎士道精神に
帝国暦383年12月22日、ケルムト渓谷内のヴァナヘイム軍総司令部に、帝国軍から軍使が訪れていた。
どれだけ砲弾を撃ち込まれようと、谷底の我が陣営は損害皆無である――ヴァ軍が帝国軍の使者を通したのは、自らの健在ぶりを見せつけるためでもある。
使者の用向きは、「ヴァ軍戦死者の遺体を返却する」というものだった。
ストレンドやその郊外で勇戦の末、惜しくも敗れた者たちの遺品・遺髪のほか、
「
帝国東部方面征討軍 総司令官・ズフタフ=アトロン大将は、ヴァ国将兵の忠魂が原野に朽ちることを惜しみ、それらの返還を申し出たのだという。
また、遺体のなかには、傷を負い帝国側の捕虜になったあと、手当ての甲斐なく死亡した者も含まれているそうだ。
「1人1人、墓まで造ってやるだと?」
「帝国め、我らに恩でも売るつもりか」
「敵は何を考えているのだ」
「気味が悪い……このような提案、断ってしまおう」
「いっそのこと、使者や付き人を斬ってしまえ」
「そうだ、この機に帝国兵を1人でも多く倒せ」
使者応対用とは別の幕屋では、参謀長・シャツィ=フルングニル少将以下、ヴァナヘイム軍の幕僚たちが、帝国側からの申し入れに反発していた。
ヴァ軍の敗色は濃厚であり、ケルムトの谷底に押し込められたまま、反撃の糸口すら
総司令官・アルベルト=ミーミル大将、副司令官・スカルド=ローズル中将の両名だけは、周囲と一線を画していたが、さすがに提案受け入れの是非について即答は避けた。
「ご回答は後日うかがいます」として、帝国使者は一度帰陣している。
帝国軍からの提案は、ヴァ軍の末端まですぐに広がった。変化に乏しい谷底生活を送る将兵たちは、渓谷外の情報に飢えていたからだ。
ところが、この遺体引き渡しの申し入れについては、最下層の者たちの受け止め方が異なった。
下士官・兵卒――正規兵――は、総司令部幕僚たちと同じくいぶかしみ、拒絶する声が多数を占めたが、特務兵――囚人や失業者――は、願ってもないことと、受け入れを切望した。
【13-12】正規兵と特務兵 中
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各陣営においてトーンに差はあったものの、前者に向けて後者は次々と声を上げたのである。
「待ってください。あのなかには、俺の兄貴が」
「……俺の弟も帰ってくるかもしれない」
返還される遺体は、先の退却時に平原に残り、帝国軍を喰い止めようとした者が多く含まれると聞く。
事実、ドリス城塞で後備えを願い出た2名の若き佐官・ヒューキ=シームルとビル=セーグは、特務兵を中心に編成された部隊をそれぞれ率いていた。
ミーミルが総司令官に着任する前から、両大隊の奮闘ぶりは群を抜いている。その分、「階段将校」自前の戦力は損害も大きく、特務兵の補充が多くなっていたのだ。
【13-13】正規兵と特務兵 下
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だが、そうした事情を
「んなもん、戻って来たからどうするってんだッ」
特務兵も負けずに反論する。
「ちゃんと墓をつくり、葬ってやりたいんです」
そうした声は、下士官の罵声と殴打によって報いられた。
「土に埋めてどうすんだ!芽が出るわけでもあるまいッ」
下士官・兵は、数え切れぬほど――ヴァナヘイム軍が帝国軍に敗れてきた数だけ――肉親や知己の戦死を経験してきている。
思い出に涙しようが、帝国軍を恨もうが、死んだ者は帰ってこない。
感傷的になっている暇があったら、小銃を点検するでもいい、塹壕を10センチ深く掘るでもいい――ほんのわずかでも生き延びる可能性を広げることに取り組むべきなのだ。
そうしなければ、次は自分が死ぬ。
一方で、特務兵は戦場経験が浅く、家族や友人の戦没に慣れていなかった。彼らは、下士官・兵のような境地にまでは、至っていないのだった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
正規兵と特務兵、どちらの主張も一理あると思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
ヴァナヘイム軍将兵たちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「墓造り 中」お楽しみに。
「お願いです。墓を……」
「……造らせてください」
「貴様ら、上官の命令が聞けんのか」
しつこく食い下がる特務兵に下士官の1人が、ふたたび拳を振りあげた時だった。
「何をもめている」
太く落ち着いた声に、一同は振り返った。
声の主は、短身ながら体躯は引き締まり、黒みがかった鳶色の頭髪は短く、シルエット全体の調和を乱していない。
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