【13-13】正規兵と特務兵 下

【第13章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

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 一連の騒動――正規兵と特務兵の衝突――は、各部隊で確認され、ヴァナヘイム軍総司令部にも次々と報告がもたらされた。


 それは、看過できぬ件数に及んでいる。


 そのため、アルベルト=ミーミルは人目を避けて、各隊の様子を見て回ることにした。こうした総司令官のにも、幕僚たちは慣れたもので、参謀長・シャツィ=フルングニルは、己も帯同すると申し出る始末であった。


【10-1】 小さな凱旋 上

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 どの部隊においても、殺伐とした雰囲気が漂っていた。総司令官一行が呼吸すら億劫おっくうに感じられるほどに。


 しこたま殴られたのだろうか。顔にあざをつくり、口周りを腫れぼったくするなど、憮然ぶぜんとした特務兵の姿ばかりが目につく。正規兵と異なり、彼等は軍服をまとっていないため、一目瞭然りょうぜんなのだ。



 しかし、何度目かに、さしかかった大隊は雰囲気を異にしていた。


 階段将校――ヒューキ=シームル少佐とビル=セーグ少佐の2部隊であった。


 両部隊とも、殴打された特務兵の姿はまったく見られず、物々しい空気も漂ってはいない。


「シームル隊とセーグ隊は、問題なさそうですね」

 フルングニルは、ホッとした表情を浮かべて総司令官を振り返った。


 他の部隊では、ことごとく重苦しい空気に当てられ、ここに来てようやく置けたような気分である。


「……」

 参謀長の説明に、ミーミルは微笑を浮かべ、小さくうなずいただけだった。


 この「階段将校」たちの率いる部隊は、数多の激戦区をくぐり抜けてきたため、所領から従軍している下士官や兵たちは少なくなっていた。その分、特務兵が多く補充されている。


 つまり、兵卒の構成割合が他部隊と異なるのだ。ここでは多数派の特務兵がやりこめられることはない――だが、ミーミルは、そのようなつまらないことを口にするつもりはなかった。


 実際、両隊の前に臨み、そうした数の事情以上に、温かい雰囲気に触れることができた。指揮官2人のキャラクターからだろうか、あっけらかんとした空気すら立ち昇っている。



「……」

 両隊に向けて、総司令官は柔らかい視線をいつまでも向けていた。それに応えるかのように、話し声が聞こえて来る。


「自分たちの指揮官は、総司令官閣下ではなく、少佐殿です」

 

「そいつぁ、嬉しいことを言ってくれるね」


 防護柵と防弾盾の向こうでは、下士官たちが両少佐と言葉を交わしていた。


「お前たちがいなかったら、戦果を上げるどころか、いくさにすらならなかったよ」

 セーグが両隣の下士官たちと肩を組むと、自然と円陣のようなものが出来上がる。


 そうだったな――シームルが、脇にたたずんだひときわ若い下士官の肩に手を置く。


「命を落としていったヤツらを忘れちゃいけない……お前の兄貴・オーベリソン、それにロースバリ、サンダール、ヘルバリ……忘れるわけがない」


 階段将校たちの言葉には、表面的なものではなく、苦楽をともにした将校ゆえの――下士官・兵卒のために上層部にも食って掛かってきた2人だからこその――重みと説得力を伴った。


 そうした上官の言葉に、下士官たちは感極まったのか、そのまましゃくり上げるように泣き始める。


「俺たちの後ろには、帝国軍を喰い止められるヤツはいねえんだ」


「だから、思うところはいろいろあるだろうが、もう少しだけ俺たちについてきてくれ」


 階段将校2人の呼びかけに、下士官たちは無心でうなずくばかりである。総司令部の命令と同じことを言われているのだが、彼等は心底納得したようだった。



「……両少佐に、ご挨拶なさいますか」

 フルングニルは、しばらく階段将校の部隊にとどまるか、総司令官に尋ねる。


「いや、やめておこう」

 ミーミルは表情を和らげると、騎上に戻った。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


階段将校の両部隊の雰囲気にホッとされた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「臆病者 上」お楽しみに。


撤退を急ぐヴァ軍のもとへ、ストレンド城塞のリーグ=ヘイダル少将より、急報がもたらされる。「我、帝国軍に包囲されつつあり」と。


「ストレンドに橋頭保きょうとうほを築かれては、我らはイエロヴェリル平原南端に孤立する」


にわかにヴァナヘイム軍は忙しくなった。ミーミルは、ドリスへの後退を続けながら、ストレンド救出の作戦を練らねばならない。

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