【11-14】おばあちゃん 上

【第11章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139554817222605

====================



 帝国東征軍総司令部が置かれた集会所は、喧騒に包まれていた。


 東都の黒狐が配置していった参謀部部員は、総司令官から更迭こうてつを言い渡されたわけである。その面目は丸潰まるつぶれであった。


 参謀長のコナン=モアナ准将や参謀のフォウォレ=バロル大尉等は、びるような視線やような視線を総司令官・ズフタフ=アトロンに向けている。


 先任参謀・アラン=ニームド中佐だけが、射殺すかのような鋭い視線を後方に送り付けていた。


 それにつられるようにして、周囲の将校たちも視線を重ねていく。


 末席に座る紅髪の若者は、入室した時以上に非好意的な視線を一身に集めることになった。


【11-2】閉塞の朝 中

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927862159111144



 先任参謀に返り咲くことになったセラ=レイスは、ズボンのポケットに両手を突っ込んでいた。椅子に座ったまま、両足を投げだすようにして組んでいる。


 閉じられた両目の下には、いつもどおり自信と愛嬌をないまぜた表情――うやうやしさに欠く笑み――を浮かべていた。



***



「砲が足りねぇ」

 参謀部に返り咲いたセラ=レイス新任中佐は、いきなり部下たちに切り出した。


「……」

 脈絡のない発言はいつものことである。レイス隊副長・キイルタ=トラフは、聞き流して開梱作業を継続した。


 突発的な口述が始まったのは、紅い頭部の中身が回転し始めたサインだろうか。


 また各隊を渡り歩いての大砲集めが始まるのかと、アシイン=ゴウラ少尉は木箱をかかえたまま、弱々しく頭を振っている。その巨体に抱かれると、木製の荷駄箱も一回り小さく見えた。


【2-3】利息

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700427176857765



 レイス一門は右翼各隊惨敗後、予備隊として後方に置かれていたが、先日のアトロン老将による人事刷新により、再び参謀部に復帰していた。


 総司令部が置かれた村落内の建物に、彼らは越してきたばかりであり、室内には荷物の詰まった木箱が、そこかしこに積み上げられている。


 引っ越し作業の邪魔になるからと、一門の指揮官は、部屋の片隅に追いやられていた。


 そこには、複数のデスクと椅子がまとめられていた。それらの上に横になると、レイスは片肘かたひじをついてくつろぎ始める。


 ところが、いつものように、そのまま居眠りすることなく、戦術の思考を巡らしはじめたようだ。


 大柄な部下のぼやきに対し、東征軍全体が保有する野砲の数がそもそも足りないのだと、この新任中佐は言う。



 トラフはため息をついて、開梱作業の手を止めた。


 上官がいよいよ思索の世界に入ってしまった。誰かがその口述を書き留め、必要とあらば下準備に応じなければならない。


 レイス隊はもちろん、参謀部に戻った以上、全軍に資する企てが、次々と摘み取れるからだ――収穫時の麦畑のように。


 しかし、トラフとしては、上官のについて、時と場合をわきまえて欲しいと常々思う。


 早朝深夜、風呂便所、時・所かまわず、そのスイッチは突然入るのである。


 いまの彼女としては、もう少し荷物の整理を進めておきたいのだった。そのために、上官を部屋の片隅へ追いやっていたのだが、結局は彼によって、引っ越し作業の邪魔をされる羽目になったのである。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


掃除や片付けにおいて、レイスはどこに居ても邪魔になるな、と思われた方、

そんなレイスの性質をトラフはよく心得ているな――夫婦かよ、と突っ込まれた方、

ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「おばあちゃん 中」お楽しみに。

ソルの身の上が危ぶまれます!?


東都ダンダアクの歩く脂身・アルイル=オーラム上級大将のもとへ、見目麗しい少女・ソル=ムンディルを献上する――。


女好きな上級大将閣下である。音に聞くヴァーラス領の娘を差し出せば、望むがままに軍馬でも大砲でも送ってよこすだろう。


いま、多くの新式野砲や砲弾、それに砲兵を、少女1人と交換できるのならば、これ以上ない好取引だと、上官は判断するに違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る