【11-13】maidin mhaith cutie ③

【第11章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139554817222605

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 板を貼り合わせただけの長椅子で、従卒用軍服の上着にソル=ムンディルはもぞもぞとくるまってしまった。


 少女の微笑ましい様子を、もう少し眺めていたいとも思ったが、眠りの邪魔をせぬようフェドラーは歩み去ろうとする。


「ん……」

 ソルは寝返りを打つ。その形の綺麗なひたいに、1匹の小さなカエルがひっついたは、突然のことであった。


 次の瞬間、彼女はガバと上体を起こす。赤い髪を大いに乱し、よだれを口に少しだけ流しながら。


「……!?」

 隣に止まっていたはずの馬車がないことに気が付いたようだ。少女は慌てて周囲を見回し始める。


 黒髪美しい副長も、鍛え抜かれた筋肉君も、気さくな蜂蜜髪の娘もいない。


 紅髪の背の高い隊長を必死に探しているのだろうか――もちろん彼も見当たらない。


 薄い水色の瞳がうるみ、アンバーが歪んでいく。


「ね……寝過ごしちゃった」

 ヴァナヘイム語で、己の失態を口にしながら、彼女は諦めきれぬ様子で、周囲をキョロキョロしている。


 同僚の姿を求めるソルと、それを観察していたフェドラーの視線が交錯する。


「フェドラー中佐!?」

 どーして起こしてくださらなかったのですか――少女は長椅子から飛び降りると、帝国語で問い詰めてくる。


 中佐が起こしてくださらなかったから、置いてきぼりを食った――とんだ言いがかりである。


 この隊で一番偉い人なんだから、馬車の出発を止めてくれてもいいじゃないですか。馬鹿馬鹿ばかばかばか――起き抜けで混乱しているとはいえ、この罵倒はひどい。


 たまらず、予備隊隊長はレイス君であること、そもそも私もいまここを通りかかったばかりであると、彼は慌てて諭そうとする。長年お仕えしてきたレディ・アトロンの姿を重ねながら、少女の様子を眺めていたことは伏せながら。


 そして、地面に落ちた上着を拾いつつ、少女の舌鋒ぜっぽうをいなすように、彼は逆に尋ねる。


「どうして、こんなところで眠っていたんだい?」

 馬車の荷台にでも座っていれば、置いて行かれることはなかっただろう。


「だって、『ついて来るな』って言われるもん……」

 荷台のなかに隠れようとしていたところを、副長・トラフ中尉に見つかったらしい。


 寝ずにここでレイス少佐を見送ると、副長に対して何とか言い逃れしたまでは良かったが、夜勤明けの身の上である。長椅子に座ったが最後、あっという間に意識を失ってしまったそうだ。


「なるほどね……」

 フェドラーは合点がいった。


 少女はその可憐かれんな外見にもかかわらず、短気で活発な一面がある。よく、蜂蜜色の髪の女少尉と取っ組み合いをしていた。体術の訓練以上の激しさをもって。


 そして、レイス隊の所有する馬車は、走行中に崩れ落ちそうなほど、年季が入っていた。


 そのような馬車の荷台で取っ組み合いなど始まれば、軍議に参加するための足がなくなってしまうことは必定ひつじょうだ。そうした事態を避けるため、眠り込んでいたのを幸い、レイス君は少女を置いていったのだろう。


 初めは、その理不尽さに戸惑っていたフェドラーも、事情を心得ると表情をなごませた。


 少女が赤い髪の上に乗せている小さなカエルがケロケロと鳴いた。





【作者からのお願い】

ようやく、ソルが目を覚ましました。

レイスを待っている間に、眠ってしまった少女については、こちらの下段をご覧ください。

【序章】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816452221247529836


この先も「航跡」は続いていきます。


頭にカエルを乗せたソルを見てみたいと思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「おばあちゃん 上」お楽しみに。


寄り道好きの秋山でごめんなさい…🙇

アトロン老将が、レイスを先任参謀に戻すと宣言した、総司令部(村落の集会所)にカメラを戻します。


【11-10】朝の軍議に戻って 下

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139555344964041


「砲が足りねぇ」

参謀部に返り咲いたセラ=レイス新任中佐は、いきなり部下たちに切り出した。


「……」

脈絡のない発言はいつものことである。レイス隊副長・キイルタ=トラフは、聞き流して開梱作業を継続した。

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