【11-12】maidin mhaith cutie ②

【第11章 登場人物】

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 レディ・アトロンを担ぎ上げてでも、連れ帰った方が良かったのではないか――今朝も祭壇を磨きながら、フェドラーの自問自答は尽きない。


 この日の祈り終えた彼は、立ち上がった。


 傷病者用天幕に戻るべく、怪我をかばいつつ来た道を戻る。朝だと言うのに、まとわりつくような湿気は、傷に沁みた。


 早朝軍議のため、セラ=レイス一行が出払った予備隊陣営は、驚くほど静かであった。彼等が普段いかに賑やかであるかが、実感できる。


 道すがら、フェドラーは馬車不在の停車場に、彼等のを発見した。


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 朝陽が少女の赤い髪や白い肌を照らしている。


 従卒用の軍服を体に掛けて長椅子で眠っているだけなのだが、光りに当てられた彼女は、まるで鱗粉りんぷん輝く蝶……いや光そのものを帯びているようにすら見えた。


 ――確か、ヴァナヘイム国の名門・ムンディル家の御令嬢だったか。

 フェドラーは記憶をたどり、祭壇前でソル=ムンディルに挨拶された時のことを思い出した。それ以来、このうるわしい少女は1輪でも花が手に入るたびに、チェス盤の脇に供えてくれるのだった。


 赤髪の少女は、予備隊の前に突如現れた。レイス隊の幕僚たちのなかにすぐに溶け込み、同隊隊長の後をいつも。経緯は知らないが、以前から彼らはお互いに面識があるようだ。


 ――今朝の軍議には、ついていかなかったのだろうか。


 首をかしげる予備隊中佐の前で、彼女の薄い薔薇バラ色の口から、吐息と共に寝言が漏れる。


「……美味しそう」


 夢のなかで、香気ただよう料理の数々に囲まれているのだろうか。各地で輜重しちょう隊を潰されている帝国東征軍では、3食穀物すら満足に提供されていない。育ち盛りの子どもは、ひもじい思いを我慢しているのだろう。


 その時、ソルは薄水色の瞳をわずかに開けた。


「……?」

 口にする前に消えてしまったのだろうか。豪勢な食事を探しているような姿は、あどけない。だが、油断するとすぐに目蓋まぶたが落ちてしまう。


 生家であれば、豪奢ごうしゃな内装の寝室にて、天蓋てんがい付きのふかふかのベッドで、絹の肌掛けにくるまっているような身の上だろう。


 この予備隊では、露天の駐車場にて、板を貼り合わせただけの長椅子で、従卒用軍服の上着に、ソルはもぞもぞとくるまっていく。



 朝が苦手そうな様子は、レディ・アトロンを彷彿ほうふつとさせる。


 自他共に厳しかった女連隊長も人一倍朝に弱く、将校になっても傅役もりやくによる起床のお手伝いが欠かせなかった。おそれ多くも耳元で喇叭ラッパを鳴らし、それでも覚醒がかなわぬ時は、ご尊顔に水をかけたりしたものである……。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ソルの夢に出てきたのは、バー・スヴァンプのママの手料理だと思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「maidin mhaith cutie ③」お楽しみに。


次の瞬間、彼女はガバと上体を起こす。赤い髪を大いに乱し、よだれを口に少しだけ流しながら。


「……!?」

隣に止まっていたはずの馬車がないことに気が付いたようだ。少女は慌てて周囲を見回し始める。


薄い水色の瞳がうるみ、アンバーが歪んでいく。


「ね……寝過ごしちゃった」

ヴァナヘイム語で、己の失態を口にしながら、彼女は諦めきれぬ様子で、周囲をキョロキョロしている。

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