【11-15】おばあちゃん 中

【第11章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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「砲が足りねぇ」

 上官・セラ=レイス新任中佐は、のスイッチが入ってしまった。


 副官・キイルタ=トラフ中尉は、ため息をついて手を止めた。


 彼女としては、もう少し荷物の整理を進めておきたかった。部屋の片隅に追いやっても、結局はこの上官によって、引っ越し作業の邪魔をされたのである。もう何度目のことだろうか。


「やっぱり、ヴィムル河にでも流した方がよかったかしら」

 だめね、この酷暑で干上がっていたんだった……などと、冗談にならない冗談を口にしながら、トラフは軍服のすそを払い立ち上がる。



 副官の不満などかまわず、レイスは思考を維持したまま周囲を見回しはじめる。


「……」

 そのあおい視線は、木箱の前で止まった。


 そこには、1人の少年従卒が、アレン=カムハル少尉の荷解きを手伝っていた。否、それは、従卒の制服に身を包んだ少女であった。


 少女は、イエリン郊外の祖母のもとに避難していたソル=ムンディルだった。


 右翼敗走の折、アトロン総司令が周辺の村落から看護の担い手を急募した折、祖母と共に帝国中軍へ駆けつけたのであった。


【8-23】敗走 中

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 そして、レイス大隊が後方へ退けられたことを幸いにして、以前と同じくこの隊に居ついてしまったのである。


 周囲もこの愛らしく働き者の美少女を、再び温かく迎え入れていた。



「……ッ!?」

 紅毛の将校からの視線に気が付き、驚いたのだろう。小さく形の良い頭には大ぶりな軍帽が、こころなしか浮かび上がる。


 つばをつまんでそれを抑え込んだソルを、レイスは腕組みしながら凝視し続けている。


「まさか、この子を東都に……」

 ゴウラがくちびるを震わせながら立ち上がり、言葉を続ける。

「……自分は、反対であります!」


「……」


 合理的思考が服を着て歩いているような上官である。彼が何ら損得勘定もなしに、この可憐な少女を保護してきたわけがない。



 東都ダンダアクの歩く脂身・アルイル=オーラム上級大将のもとへ、見目麗しい少女・ソル=ムンディルを献上する――。


 女好きな上級大将閣下である。音に聞くヴァーラス領の娘を差し出せば、望むがままに軍馬でも大砲でも送ってよこすだろう。


 いま、多くの新式野砲や砲弾、それに砲兵を、少女1人と交換できるのならば、これ以上ない好取引だと、上官は判断するに違いない。


 まして、帝国軍は惨敗を喫したばかりであり、立て直しを急がねばならないのだ。


 この日は、周囲の参謀たちの頭の回転も遅くはなかった。上官が脳裏に浮かべるであろう思考を先読みしたのである。



 もっとも、それは、ヴァーラス城塞陥落後、少女がこの部隊で過ごすようになってから、彼らがずっと抱いてきた懸念でもあった。


 飼育しているひなは、いつか出荷しなければならない。


 情を移してはいけないのだ。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


東都の歩くラードに、ソルを献上することなど、もってのほかと思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「おばあちゃん 下」お楽しみに。

少女ソルの処遇をめぐり、レイス隊が2つに割れてしまいます!?


「……自分は、反対であります!」

アシイン=ゴウラ少尉が、少女ソルをかばうようにして、セラ=レイスの前に立ち塞がる。


「……とにかく、この娘を脂身大将さんのもとに送ってはダメなのですぅッ」

言い切ると同時に、レクレナは従卒姿の少女をかばうように抱きしめた。


これまで、上官のいささか合理的過ぎる方針にも従順だった部下たちが、少女の身を守るため、その上官と真っ向からぶつかろうとしていた。

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