【11-16】おばあちゃん 下

【第11章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

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「……自分は、反対であります!」

 アシイン=ゴウラ少尉が、少女ソルをかばうようにして、セラ=レイスの前に立ちふさがる。


 それにしても、少尉が五分刈りの頭を横に振りながら上官に意見するなど、初めてのことではなかろうか。


 隊の副長であり、隊長の副官でもあるキイルタ=トラフは、その正確無比な記憶をさかのぼるも、両者が衝突したという事象は見つからなかった。



 紅髪の新任中佐は、厳しい視線を赤髪の少女から外そうとはしない。


「ダメですよぅ。ソルちゃんを東都のおデブさんに渡しては」

 たまらず、ニアム=レクレナ少尉までもが、ゴウラに加勢した。


 彼女が担当していた書籍棚は、新たに収納したばかりとは思えぬほど、散らかっている。


「お前、この娘に嫌われてただろう」

 レイスがソルをあごでしゃくる。


 帝国語でも何を言われているのか分かったのだろう。少女は口をへの字にしてうつむいた。


 確かに、少女は事あるごとにレクレナにみついてきたのだ。


【1-2】 歓迎会

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【3-1】査問 ①

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【5-1】説得

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 だが、挑発的な上官に、女少尉は喰らいつく。

「『おばさん』と呼ばれても構いませぇん!」


 少女の水色の瞳が大きく見開いた。


「そうか。構わんのか、オバサン」

 天晴あっぱれな心意気だとばかりに、レイスはうなずく。


「いえ……やっぱり、ちょっとかまうのですがぁ……」


「やはり構うのか、オバサン」


 紅毛の上官のいじわるな合いの手に、蜂蜜色のボブヘアを揺らし女少尉は体勢を崩しかける。


 オバサンじゃないもん……レクレナは必死に反撃の言葉を探しているようだが、装填そうてんは、はかばかしくない。


 口から先に生まれて来たような上官とやり合うには、どうやって士官学校を卒業できたのか分からないような天然娘では、如何いかんせん分が悪い。


「何か言ったか、オバサァン?」

 レイスには、相手をいじる余裕まで生じてしまった。


「……」

 図に乗った上官の耳を引っ張ろうに自制を促そうと、トラフが足を進めた時だった――レクレナと目が合ったのは。


「あたしが……」

 ここで言い負かされてしまっては、少女を失ってしまうことを心得ているのだろう。レクレナは、言葉を継ぐべく細い足で懸命に踏みとどまり、口を開いた。











「あたしが『おばさん』だったら、副長なんか『おばあちゃん』じゃないですかぁ!!」





 ――この蜂蜜むすめ、言うに事欠いて、私を巻き込むなんて。

 トラフは、自らの左頬と右眉に痙攣けいれんを知覚する。


 周囲からの視線を感じ、彼女が顔を上げると、誰しもが恐怖におののいた表情をあらわにしている。 


 ゴウラやカムハルなどは、トラフと目線が合うと、千切れるような勢いで首を明後日の方向にじ曲げた。



 激しい(?)応酬を繰り広げていた、レイスとレクレナとて例外ではない。


 先ほどの挑発的な様子など霧散し、レイスはこの世の終わりのような表情を浮かべている。


「やってしまいましたぁ……」

 レクレナは、かすれた声をひねりだすと、こちらにきちんと向き直る。


 そして、蜂蜜色の首を垂れたあと、それぞれの指を交差させ、握りしめるようにして合掌する。まるで太陽神に向け、懺悔ざんげするかのように。



 ――いったい何におびえているのかしら。

 トラフは背後を振り返るも、そこには薄汚れた壁しかなかった。







【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイス隊の皆が恐れおののいたのは、副長殿、あなたですよ――と気づかれた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「無心 上」お楽しみに。


「なにいッ!新式野砲80門だと!?」

東都ダンダアクは帝国東岸領統帥府――その最上階、上級大将執務室では、アルイル=オーラムが唾を飛ばし、窓外の残暑を震わすような大声をあげていた。


「ええ、砲兵1個大隊とともに即座に派遣してほしいとのことです」

ターン=ブリクリウは、持ちまえのすまし声で応じた。

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