【11-17】無心 上

【第11章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

【組織図】帝国東征軍(略図②)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139559095965554

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 ニアム=レクレナ少尉の失言により、部内の雰囲気が一時的に凍り付いたものの、美少女・ソル=ムンディルは再開していた。


【11-16】おばあちゃん 下

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 そのレクレナによる、何だかよく分からない理屈での答弁は続いている。

 

「……とにかく、このを脂身大将さんのもとに送ってはダメなのですぅッ」

 言い切ると同時に、女少尉は従卒姿の少女をかばうように抱きしめた。


 少女の頭から、ややサイズ違いの軍帽が落ち、くすんだ赤髪があらわになる。その表情には、驚きと戸惑いと嬉しさが同居したような色が浮かぶ。


 レクレナの説得にもかかわらず、セラ=レイス新任中佐はテーブルの上にあぐらをかき、いっそう鋭さを増した視線を赤毛の少女に投げかけている。



 上官のあおい視線をはばむかのように、ゴウラたちが間に立ちふさがり、その先でレクレナが背中を向けてソルを抱える――上司・部下・少女の構図が出来上がっていた。


 これまで、上官のいささか合理的過ぎる方針にも従順だった部下たちが、少女の身を守るため、その上官と真っ向からぶつかろうとしている。



 左ほほに手を当て、仲裁に入るタイミングを見計らっていたトラフは、ふいに上官のあおい瞳に、楽しそうな、満足そうな、それでいて底意地悪そうな光が浮かんだのを見逃さなかった。


 ――これは、安心していいわね。

 彼女は頬に当てていた右手を胸に下ろし、小さく吐息した。


 やはり、上官は部下たちのを見定めたかったようだ。少なくとも彼らが危惧きぐするようなことは起こらないだろう。



***



「なにいッ!新式野砲80門だとぅ!?」


 帝国暦383年8月29日、戦場からはるか後方、東都ダンダアクは帝国東岸領統帥府――。


 その最上階・上級大将執務室では、アルイル=オーラムがつばを飛ばし、窓外の残暑を震わすような大声をあげていた。


「ええ、砲兵1個大隊とともに即座に派遣してほしいとのことです」

 アルイルの幼少期からの傅役もりやく・ターン=ブリクリウ大将は、持ちまえのすまし声で応じた。



 ヴァナヘイム国のイエロヴェリル平原ほどではないが、ダンダアクの夏もそれなりに暑い。


 統帥府執務室の中央には巨大な氷柱が置かれ、壁面に埋め込まれた配管には冷水が流れるなど、室内は快適さが保たれている。


 もっとも、については、主従揃っての関係でもある。


 歩くラード――肥え太った上級大将は、存在そのものが暑苦しく、常に汗ばむお体には、近づくのもご免被りたい。


 黒狐――瘦身の大将は、怜悧れいりな視線やスマートな挙措から黒づくめの服装までが、相手に寒気すら抱かせるのだ。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レクレナとソル、本当は仲良しだったんだな、と思われた方、

東都のアルイル・ブリクリウ主従の登場は久々だな、と思われた方、

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「無心 中」お楽しみに。


「あの老人め、これまで自己主張などしたことがなかったのが、急にどうしたのだ」

「アトロン将軍は、この度、参謀の人員を一新したそうです」


「ほう、老人は余の手紙で、ようやく己の手緩てぬるさに気がつきおったか」 

 帝国宰相の嫡男は、たるんだ頬を心もちすぼめた。

「……して、後任は?」


「参謀長はアトロン大将が兼務、先任参謀に、セラ=レイス新任中佐……」

 狐のような目をさらに細めて、傅役は手にした資料を読み上げた。

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