第八回「救済」美人な母とそうでもない娘の話

母娘の証明

 お母さん、あなたは美しい人ですね。

 娘である私が知りうる限り、貴女が美しくなかった瞬間は一秒たりともありません。聞けば少女時分から隣町でも噂になるほどだったといいます。

 ですから、貴女からすれば私はとても醜く目障りだったことでしょう。私は貴女の腹から生まれたにも関わらず、貴女の美貌とは比べるべくもない容貌でしたから。

 貴女が子供のころから私に言い続けてきた言葉は、今でも私の中で響いて消えることはありません。

「お前は醜い」と。

 ことあるごとに貴女は私のことを詰りましたね。実際、貴女に比べれば私は醜いといって差し支えなかったのですから、当然でしょう。周りの人だって、貴女について歩く私を見てそう思ったことと思います。実際にそういう陰口が聞こえたことも、一度や二度ではありません。

 私を可愛いと言ってくれたのは、父くらいのものでした。

 貴女にとっては、それもまた気に食わないことだったのでしょうね、お母さん。貴女は父に信じられないほど惚れ込んでいましたから。結婚から10年以上経っているなんて嘘のように、今でも貴女は父を偏愛しているのでしょう。

 貴女が私に辛く当たる理由のいくらかには、父に愛される私への嫉妬もあったのではないですか。

 お母さん。貴女には、お前は私の子などではない、川で拾った子なのだ、お前なんていつでも河原に戻したって構わないと、そうも言われました。大人になった今ではよくある定型句だと知っていますが、その言葉を発する貴女があまりにも鬼気迫っていて、私はかなりの長い間それが本当ではないかという疑いを晴らせませんでした。

 いえ、実をいうと今この瞬間まで晴らせていませんでした。

 こっそり遺伝子検査をして、九分九厘どころか九毛九糸もの確率で間違いなく親子であると書類が届いた時も、私の疑いは消えませんでした。

 だって、貴女のように美しい人から、私のような娘が生まれるなんてことがあるでしょうか?

 そのことが信じられず、私は苦悩していました。

 だから今、私はこの上なく救われています。

 この瞬間、自分が貴女の娘だとはっきり確信できたのですから。

 お母さん、気づいているでしょうか?

 

 眉は吊り上がり、顔は真っ赤に上気し、憤怒に顔面を歪ませて。

 私の彼氏を一目で陶酔させた時のような麗姿は、今や微塵もありません。

 父に抱かれた私への怒りは、天より賜った容姿をかき消して余りあるものでしたか。

 それならば、父を誘惑した甲斐もあったというものです。

 お母さん。大好きなお母さん。

 最期に見るのが美しい貴女の醜い顔なのは、これ以上ない幸福です。


<了>

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貴女に刃を、ありったけの感情を 破壊神1/4《シヴァ・クォーター》 @siva_quarter

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