第25話 そしてアオは神袋

 繁華街の駅へと到着した、アオと四五六と亨と衣枝夫。

「やっぱ 込んでるなー」

 年明けの繁華街は、衣枝夫たちと同じように、近隣の若者たちが出向いてニギヤカ。

 大通りの看板には大きな正月飾りが下げられていて、各店舗の入り口も、お正月の宣伝で客を呼び込んでいる。

 人々が行き交っているのに、どこかノンビリとした空気がお正月の特有で、みんな気持ちをダラダラとさせたりしていた。

「これこそ正月だよな~」

「だな」

 晴れ着で着飾った女性たちも意外と多く、アオはキョロキョロと忙しい。

「み、みんな綺麗だな~」

 ニヤニヤしながら目が♡の少年を、四五六たちは全く気にしない。

 しばらく繁華街をブラブラして、ショップが入ったビルの前で、アオが提案。

「や、やっぱさー、福袋 買うかー?」

「まあ、折角だしな。僕は プラモデル系の福袋が欲しいかな」

(よし、亨が食いついた!)

「おーいーなー」

(衣枝夫も来た!)

 アオの望む通りの展開になって、一行は目の前のビルに突撃。

 まずは衣枝夫と亨の要望で、模型ショップへと向かった。

 エスカレーターで4階まで上がると、模型店の前のワゴンには、福袋が並べられている。

「あった」

「おー、値段違いが、それなりに残ってるなー。ラッキー」

 3,000円から30,000円まで、5種類ほどが並んでいた。

 3,000円の袋はそこそこの大きさで、30,000円の袋は一抱えもある、もはや福箱状態だ。

「30,000円のプラモ袋…何が入ってるんだ…?」

 アオにとっても興味深く、袋の上から覗き込んだけれど、テープでガッチリと密封されていた。

「中身は、50,000円相当だってよー」

「50,000円分のプラモか。値段的にも、大人向けだろうな」

 もちろん、中学生に買える値段ではないが、衣枝夫はお金があったら買いそうな雰囲気だ。

「3,000円のは、僕たちがよく買うスケールのロボプラが4つ…っぽい感じかな」

 亨は袋のサイズから、いつものスケールモデルが4つ入っていると推察。

「なるほどなー。亨 当たってそうだなー」

 四五六は袋を手に取って軽く揺すって、重さと中身を確かめようとしたり。

「いやそれで中身が解るとか ねーだろ」

「そりゃそーだ」

 アオの突っ込みに満足した感じの四五六。

「うーん…僕は この5,000円の福袋を買ってみるよ」

 亨は、売れ行きトップな価格帯の福袋を購入。

「そっかー。なら俺は、ちょっと奮発して 6,000円のを買ってみるかなー」

 衣枝夫も購入すると、中身によっては交換し合おう。と、亨と納得し合っていた。

「俺さー、お菓子の福袋 買うわー」

 プラモショップと同じフロアにお菓子の量販店があり、四五六はワゴンに並べられている袋たちを凝視。

「うむむ…」

「ってか、中身みんな 同じじゃね?」

 値段はみんな3,000円で、袋の大きさも同じに見える。

「わかんねーけどさー。お楽しみ袋とか ホ「ップに書いてあるしさー。意外と中身、種類があるかもだしなー」

「へー」

 実にどうでも良いと生返事をするアオの生返事など実にどうでも良い四五六は、3,000円の袋を2つ購入した。

「お菓子の福袋、誰も買わないしさー。交換とか 出来ないだろー?」

「「「そうだな」」ー」

 両手に袋を持った四五六と、片手ずつに袋を持った亨と衣枝夫。

「で、アオはどーすんのー?」

「オレは…」

 実は、繁華街に来ると話が決まってから、目当てのショップは決まっている。

(だから、このビルの前で福袋の話をしたのさ!)

 4人で6階まで上がってきて、大型のゲームショップに入店。

 調べた情報によると、福袋はレジの前にあるらしい。

「ゲームの福袋かー」

 衣枝夫の言葉に、アオはちょっと自慢げに、しかも慣れた風に。小声で話す。

「中身の殆どは中古だけどなー。新発売の限定版ゲームが、当たり的に入ってるらしいんだー」

 さて、どれを選ぼうか。

 ワクワクしながらレジ前に来ると、なんと福袋は残り一つ。

「ぅわっ、ヤベっ!」

 アオは慌ててレジに向かい、最後の福袋に手を伸ばす。

「や、やったっ!」

 ネットによると、このお店の去年の福袋は、ゲーマー曰く「中身は明かせぬが神袋」だったという。

 それの、最後の一つ。

 これこそきっと「残り物には福がある」だろう。

(新年早々、縁起が良いゼっ!)

 値段は12,000円と、お正月とはいえ、中学生にはかなり高価だ。

(しかし…!)

 ネットでの評判と、残り一つというラッキーなタイミングで、アオには購入以外の選択肢など、存在しなかった。

「高いが、買う…っ!」

 神袋を抱き抱えて、レジへと向かう。

「これください!」

 レジにいた若い女性店員さんが、何やら怪訝な顔をしている。

「え、えっと…コレ、買うんですか…?」

「? はい」

 なんだろう。

 アオの疑問を余所に、女性店員さんが、男性の店長さんに声をかける。

 何か問題でもあるのだろうか。

 不安になってキョロキョロすると、後ろには大学生らしき男性が、レジの上の福袋を物欲しそうに凝視していた。

(うわっ! あの人も、この袋を狙っていたのかっ!)

 しかも、女性の店員さんと何やら知り合いよろしく、目配せ。

 もしかすると、女性店員さんに、こっそり取り置きして貰っていたのでは?

 とか、妙な考えが頭を過る。

(くっ…そんなズルっこいマネ、させてたまるかっ!)

 欲という名の勝手な正義感が、メラメラと燃え上がる。

 男性の店長さんがやってきて、女性の店員さんから事情を聞いたようだ。

「えっと…その袋は–」

「はい! 知ってます! 売ってるんですよねっ!」

「え、ええ それは…」

「でしたらっ、僕が買いますっ!」

 不正などに負けるもんかっ!

 強欲と負けん気の炎で両目が燃えて、店長へと向けられる。

「うーむ…いいでしよう。このお客様に、お買い上げいただいて」

 店長さんが、女性の店員さんに指示をした。

「い、いいんですか…?」

 まだゴネてやがる。

 あんたの知り合いの男は、諦めて帰っちまったゼ!

「ま、お正月だしね…」

 店長さんが良いって言ってるんだから、オレが買うんだっ!

「私のような大人も、社会には必要なんだよ」 

「はぁ…」

 女性店員さんが、ちょっと呆れたような顔をしながら、アオは福袋を手に入れた。


「っぃよっしっ!」

 ビルの外で、ガッツポーズのアオである。

「じゃ、あっちの公園で、袋 開けてみようか」

 亨の提案で、4人は広い公園へと向かった。


「おおー、袋の中身 2つとも全部、違うお菓子だー」

 四五六の袋は、当たりだったらしい。

「亨ー、コレと交換できるプラモ、あるー?」

「あ、ソレいいな。コレとか、どうかな?」

 亨と衣枝夫も、プラモ交換で盛り上がっている。

 そしてアオは、勝利者気分で開けた神袋を、一瞬だけ硬直した後に慌てて閉じて、冷や汗を流していた。

「アオー、どんなゲームー?」

「へっ!? ぁあいや、ちゅ中古の、みんなが持ってるヤツばっかりだったよ…ハハハ…今回は、ハズレかなー?」

「「「へー」」」

 アオが笑って誤魔化す時。

 それは決して、他人に触れて欲しくない時だと、幼馴染たちは心得ている。

 話題を変える親友たちにホっとしながら、アオは複雑な気分だった。

 神袋の中身は。

(な、なんで全部っ、パソコン用の18禁ゲームじゃねーかああああああああっ!)

 凄い気合で、購入をした。

(もうあのお店っ、恥ずかしくて行けねぇよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!)

 お姉さんの怪訝な顔が、頭から離れないアオだった。

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アオと四五六 八乃前 陣 @lacoon

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