第24話 そして二人はやっぱり不戦


 新年を迎えた町は、はしゃぎまわる子供たちの楽しそうな笑い声を響かせながら、しかし落ち着いた正月を送っている。

 全国展開をしているスーパーなどは三が日ずっと休みで、コンビニは正月休みなしで、地元の個人商店などは二日から営業を開始していた。

 アオと四五六はと言えば、元旦に電話で挨拶をしたり年賀状の話をして、二日にはいつもの駄菓子屋さんへと出かけ、賑わう子供たちに混ざってオジサンに挨拶をしたり。

 そして一月三日。

 アオと四五六と亨と衣枝夫の四人は、昼前には地元駅に集合して、電車で繁華街へと繰り出していた。

「いやー、やっぱり正月はアレだよなー。男同士がいいよなー」

 彼女であるニ子に激しく愛されているリア充の衣枝夫は、まるで家庭持ちのような感想を、ノンビリと述べている。

「彼女はいーのかー?」

 四五六が問うと、衣枝夫はやはり、新婚から落ち着いた夫のような口調で答えた。

「なんかあれ、イ子とロ子とハ子と貴雪さんと、五人で遊ぶってさー」

 二学期が終わって冬休みに入った当日から、大晦日や年明け二日まで、毎日待ち合わせの約束をさせられて、衣枝夫はニ子と、ずっと一緒にいたらしい。

 つまり今日の衣枝夫は、妻から外出の許しを貰った旦那にも似て。

「そりゃ大変だったな。亨は? 貴雪さんと……デ…デートとか、してないの?」

 自分から質問をしておいて、デートという単語に抵抗があるという、勝手に複雑なアオである。

「冬休みの間、昨日まで毎日 勝負してたかな」

「え…毎日 勝負…?」

「年明けとしては今のところ、一勝一敗二引き分けだな」

 その内訳は。

・おみくじ勝負 → 引き分け

・自販機のドリンク当たり勝負 → 亨が当たり

・お年玉金額勝負 → 貴雪が勝利

・別々のお店で購入した三千円のお菓子の福袋勝負 → 引き分け

 という事らしい。

「おみくじ、なに出たんだー?」

 ちなみに、訊いてきた衣枝夫は中吉で、ニ子は小吉だったらしい。

「うん。二人とも、大凶が出た」

「「「大凶っ!?」」」

 素直に驚く四五六と衣枝夫に比して、心の中でちょっと優越感なアオである。

「そりゃあまた、散々だなー」

 ほぼ労っていないアオの言葉に、亨は全く気づく様子もなく、むしろ楽しそうに自論を展開。

「一般的には、まあな。でも大凶って、大吉よりも当たる確率が低いらしいし、解釈によっては大吉よりもラッキーだとか、大凶が出れば正月一日の時点でもう今年の厄は払われたとか、そういう考え方もあるんだってさ」

 知性によって全く凹んでいない亨だ。

「へ、へー…」

「それに貴雪さんいわく、ここで勝敗が付かなかったのは、神様が『今年も勝負 頑張りなさい』って言うお告げなんじゃないか とかさ。二人揃って大凶が出るなんて天文学的な幸運じゃないかとか、そうも受け止めてるみたいだったな」

「へ、へー…」

 このリア充BAカップルどもめ。

 訊くんじゃなかった。

 と、心の血涙が止まらないアオだった。

「でさー、お菓子の福袋さー。中 なに? 三千円で、いくら分くらい入ってたー?」

 四五六はやはり、恋愛よりもお菓子が気になるらしい。

「そのへんの値段はわからないな。細かく計算とか しなかったから」

 と答える亨に、衣枝夫が突っ込む。

「え? だって、袋の中身の総額が高い方の勝ちって勝負してたんだろー? 同じ金額だから 引き分けたんじゃー?」

「そうなんだけどな」

「「「?」」」

 違うお店で同じ値段の福袋を買って、中身はどっちがお得だったかで勝負をして引き分けたのに、値段が分からないとは、どういう事か。

「二人の福袋、中のお菓子が全く同じだったんだ」

 袋の中には十数種類のお菓子が入っていたけれど、その内容は、二人とも全く一緒だったのである。

「「「ええーっ!?」」」

「別々のお店で買ったんだろー?」

「うん」

「それで丸カブり? そんな事あんだなー」

 リア充を羨むアオも、さすがに素直な驚きだ。

「でさー、どんなお菓子が入ってたー? 美味しかったかー?」

 どうしても中身が気になる四五六だ。

「ゴメン。種類は覚えてないし、お菓子は全部 貴雪さんにあげちゃったから、食べてないんだ」

「「…は?」」

 アオと四五六は疑問符しか出ないけれど、衣枝夫にとっては疑問符ではないらしい。

「全部 あげちゃったって…なんで?」

 アオには、亨の考えが分からない。

「福袋勝負ってなった時、そもそも福袋の中身が分からない以上、貴雪さんと価値が共有できる物じゃないと、って考えたんだ。それに、同じジャンルで勝負した方が盛り上がるだろ? ついでに、お菓子なら俺がそんなに食べなくても女子が引き受けやすい と思ってさ」

(こいつ–っ!)

 ナチュラルに彼女を大切に出来る男。

 亨とは何の勝負もしていないけれど、勝手に負けた気になるアオである。

「あー そういうの あるよなー」

 衣枝夫は結婚五年のように理解できる様子。

(このリア充どもめっ!)

 嫉妬のオーラがムクムクと湧いて出るアオ。

「なーなーアオー。オレたちも福袋勝負 しねー?」

 何を期待しているのか丸わかりな幼馴染みの無垢な笑顔にムカつきながら、それ以上に呆れるアオだ。

「買わないし、万が一に買ったとしても、お菓子はやらないぞ」

「えー何だよケチー」

 電車は、若者たちで賑わう繁華街の駅へと到着をした。

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