第七十三話 あの日の出来事
天文十九年(1550年)
大御所が
慈照寺は俺や義藤さまにとっても思い出の場所になり、大御所とも会話を重ねた場所であるので、ここで大御所の葬儀が出来ることは嬉しくもあった。
我らが高島郡で戦を行っているころ、この京周辺では
三好長慶自身は
細川晴元は
山科方面では
細川晴元と
細川国慶は土佐守護代細川家の流れである細川
小泉秀清や今村慶満は山城の国人であり細川国慶や細川氏綱の重代の被官というわけではないのだ。
細川高国派の京兆家内衆がほぼ壊滅してしまったので新たに重用されるようになっただけであろう。
この時期の洛中方面の指揮官は松永長頼であり、細川氏綱はやっぱりお飾りの域を出ておらず、敵はやはり三好長慶なのだ。
(松永長頼の方が兄の松永久秀よりも出世が早く、当時は兄より優れた弟だったらしいです)
そんなわけで、
三好長慶は大御所の薨去という事態にあって、そこにつけこむようなことはせずに幕府への敵対行動を一時ストップするのである。
人として尊敬できるし、三好長慶の魅力でもあるのだが、敵の隙につけこむことをしなかったことが、三好家の拡大スピードを抑えることになり、天下を維持することができなかった理由であるのかもしれない。
三好長慶の好意? もあって、無事に慈照寺で
義藤さまは
葬儀の席で
ん? 俺? 俺は葬儀では出番はなかったよ。
葬儀にはむろん出席したけど、葬儀までの間はほとんど高島郡にいたので、葬儀の準備はやってないし、ただ出席しただけです。
別に政権運営からハブられたというわけではなく、制圧して間もない高島郡の統治に専念せよと、義藤さまに命じられて
◆
「い、いけません義藤さま。そんな
「我慢することはないのだ。さあ、わしを……
義藤さまがはだけた小袖に紐パン姿という、とても美味しそうな格好でせまってくる。
お布団に押し倒された俺は、その姿に釘付けとなり動くことができない。
というか動きたくない。パ、パラダイスだぁぁ。
「だ、だめです……」
だめじゃないです。カモーンカモーン!
「まったくいくじのない男じゃな。そんなそなたにはこうしてくれるわ」
まるで小悪魔のような笑顔である。
「そ、そんなことまで、ダメです……あたっております」
あるのか無いのかよく分からない「おぱーい」を押し付けられる。
「
そしてさらに義藤さまが手を伸ばし……
「もう、これ以上は――」
アーッ!
◇
◇
◇
ふう、困ったものだ……
夢にまで義藤さまを見てしまうとは。この数日は逢えていないから、心から義藤さまを求めてしまっているのだろうか。
(義藤さまがエロくて美味しい展開に喜んでいたのに、ちくしょう夢オチかよ……)
俺は朝から今津の町の高島屋の本店として借り上げた屋敷の裏庭で洗濯をしていた。
何を洗っているのかって?
それは聞いてはいけないことだ。武士の情けだ。見なかったことにするのが男の友情というものであろう。
高島屋の船出は順調だ。固形石鹸や朽木谷の木材の端材で作った洗濯板、清水の神酒、吉田の神酒、もみじ饅頭に笹団子、
え? 紐パンをマジで売るのかって? あたり前田慶次のクラッカーだ。紐パンの普及活動は俺の人生の哲学だ。(適当に聞き流して下さい)
高島屋で扱う商品は幕府発行の
三好長慶を打倒し、洛中を幕府が回復した
高島屋は裏切ることなく、幕府と三好長慶との戦いを側面から支えてくれることだろう。
高島屋の経営は面倒なのでMMRのメンバーに任せて俺は黒幕の総裁として君臨しているのだが、目端の効く商人にはバレてしまうのであろう、このところ俺への接待攻勢がすんごいんだわ。
一昨日は江南の
俺はむろん巨乳には目もくれない。俺の心は義藤さま一筋だからな。
いっぱい居た巨乳のねーちゃんは、同席していた
商人どもは俺が巨乳に興味がないと思ったのか、昨晩はうって変わって貧乳のスレンダー美人の娘どもを今度は連れて来た。
違う、違う、そうじゃない。ただ、義藤さまが、こう少し残念な胸をしているだけで、俺は貧乳好きではないのだ。巨乳だって本当は大好きなのだよ!
スレンダー美女どもは守備範囲がイチロー並に広い金森五郎八長近と、なんでもバッチ来いな米田源三郎兄貴に、身持ちが堅かったはずのエセストイック明智十兵衛光秀までもがまさかのお持ち帰りをしていた……少し光秀を見損なったりもした……
斎藤内蔵助利三はやっぱりスレンダー美女たちにもお持ち帰りされていた。なぜにアイツはあんなにモテるのだろう……少し羨ましい。
巨乳にもスレンダー美女にも誘惑されないストイックな俺は、家臣たちが「
「わかとのー、そんなところで
金森五郎八には
◆
「
「
「光秀はまだよろしくやっているのか帰っておりませぬ。
「五郎八もお楽しみで帰りは遅いと思っていたが」
「あちきは仕事として接待を受けたまでのこと。篭絡されて帰って来ない十兵衛や、干からびてしまって動けない内蔵助と一緒にしないでくだされ。しかとわきまえておりますれば、美女の色香に惑わされるようなことはないっすよ」
「仕事?」
「あちきや源三郎が
「それは……すまない。気が付かなかった」
「仕方がありませんな。若は今、恋の病の真っ最中でありますからなぁ。商家がせっかく並べた綺麗どころに目もくれないぐらいに惚れておるのですなぁ」
「だ、誰が恋の病だ!」
「若殿が」
「だ、誰とだよ!」
「
「く、公方様と俺が恋に落ちるわけがなかろう」
「は? 源三郎、若殿はまだこんなことを言っているがどうする?」
「与一郎様、いい加減に押し倒すべきです。公方様もきっと心待ちのことでありましょう」
「げ、源三郎の兄貴まで何を言うか!」
「わかとのー、そんなに億手じゃ公方様に嫌われてしまいますよー。それに公方様は父親が亡くなって傷心の身。ここで優しく付け込まないでどうするのですか?」
五郎八はあいかわらずゲスである。
「喪服の女性は美しく見えるものです。欲望のままにここはガッと行くべきでしょう」
源三郎も結構ゲスだった。
「お前らなぁ。人の恋路をからかって楽しいのか」
「我々は若殿と公方様を応援しているのでありますよ」
「俺が誰と恋仲になろうが勝手だろうが」
「与一郎さま、我が淡路細川家には後継者が必要なのです。さっさと公方様を押し倒して、赤ちゃんを作ってくれなければ困るのです」
「そうだそうだー、さっさと
「しょ、将軍が
「すでにほとんど崩壊しております。問題ないでしょう」
「問題あるし、幕府を崩壊させないために頑張っているんだろうが!」
「室町幕府なんぞよりも我が細川家の跡継ぎの方が優先ですな」
「そうだそうだー。幕府よりも二人の恋の方が大事に決まっとるー」
源三郎と五郎八の二人は義藤さまが可愛い女の子だと知っているから扱いに困ってしまう。
「そういえば思いだしたぞ。お前ら、よくも俺を裏切って義藤さまにいろいろと白状してくれたなー。というか、何をされて白状したんだ貴様らー」
「若殿じゃあるまいし、公方様に誘惑されて白状したわけではありませんよ。我らに嫉妬しないでくだされ」
「そうです勘違いしてはいけませぬ。公方様は与一郎様に一途なのですぞ。公方様をお疑いになるとは、困った与一郎様だ……」
「ぐっ……だったら何ゆえ義藤さまに口を割ったか」
「若殿が
◆
――ここから回想シーンです――
「藤孝が倒れたというはまことか!」
障子戸を勢いよく開けて、与一郎さまの部屋へ公方様が血相を変えて入って来られた。
「こ、これは公方様。申し訳ありませぬ」
「源三郎、かしこまってなぞいないで、すぐに藤孝をわしの部屋に運ぶのじゃ。五郎八は医師の
「ははっ」
公方様は岩神館で最も良い部屋である公方様の部屋を与一郎様の病室にあてられ、最高級の羽根布団や七輪で部屋を暖めるなどし、牧庵医師に与一郎様の容態を診させるなど、与一郎様のために手を尽くされた。
「過労からくる一時的なものでありましょう。
与一郎様から以前「葛根湯医者」などと言って、どんな症状でも葛根湯を出してしまう「ヤブ医者」の話を聞いたが……大丈夫だよな?
「すまなかったな牧庵殿。ここはもうよい。
「いえいえ、与一郎は我が甥でもありますれば、公方様の心使いに感謝いたしまする。それでは……」
「源三郎に五郎八も下がってよいぞ。藤孝の看病はわしがするのでな」
「お、恐れながら申し上げます。公方様
「かまうな。藤孝の看病は以前にもやって慣れておる」
「で、ですが……」
「ふむ、源三郎。その方は藤孝が病に倒れた原因に心当たりはあるか?」
「い、いえ、それは……」
「藤孝はこの数日、無理をしておったのじゃ。その方はそれに気が付かなかったか?」
「そ、それは申し訳なく……」
「藤孝は口では悪ぶったことを言うが、その実は小心者で臆病な男なのだ。この高島攻めで無理をし、朽木の件もあってな……少し、その方らと話す必要があるようじゃな。その方らは隣の部屋で待つがよい」
「は?」
「新二郎あるか?」
「はっ、新二郎ここに」
「わしは着替えをして、隣の部屋でこの者らと内密の話がある。しばらく人払いをして部屋に誰も近づけさせるな」
「かしこまりして御座いますだろ」
装束を着替えて内密の話? 公方様はいったい何を?
五郎八と二人で隣室に移り公方様を待つが正直意味が分からない。
そして唖然とすることになるのだ。
「二人とも待たせたな」
「え???」
「なんだ。わしの格好がおかしいか? 与一郎は
隣の部屋から入って来たのは公方様ではなく、可愛らしい巫女さんであった。
「たしかに麗しいですが……?」
「そんなに驚くでない。その方ら二人にはこのような格好で会ったことがあるではないか」
「あ、若殿と一緒に居ためんこい巫女のお嬢さん……」
五郎八は何か心当たりがあるのか?
「うむ。五郎八には洛中で近江の田舎侍に絡まれているところを助けられたな。感謝するぞ」
そういえば……
「も、もしかして、与一郎様の良い人では……」
「そうじゃ。わしと与一郎が
「しかし、なぜここに
「源三郎に五郎八……
カーン!(何故か江戸城奥の間のカットインが入る)
「こ、これは
こ、このような所に上様が参られるわけがない……上様の名を
そしてBGMが流れ、公方様が峰打ちによる殺陣の大立ち回りをして、源三郎が「
(上様は室町時代では
可愛い巫女さんの格好をしているが、その声は、その顔は、まさに公方様であったのだ。
「源三郎に五郎八。わしはむろん公方であるが、その実は
顔を赤らめて与一郎様の良い人と述べられた公方様は、控えめに言って可愛らしかった。
「く、公方様が
「なんと……公方様をたらし込むとは、若殿もやるもんですなぁ」
五郎八……その軽口をなんとかせんと、いずれ手打ちになるぞ。
「わしは、その……藤孝が大事であるのだ。その藤孝が無理をしているならば止めたいと思っておる。その方らには協力して貰いたいのだ」
「我らは、その……公方様に何を協力いたせばよろしいのでしょうか?」
「うむ。この朽木谷を攻めるために藤孝がなしたことや、これまでの高島平定で藤孝がやってきたことを洗いざらい白状するがよい」
「そ、それは……」
「心配いたすな。わしが藤孝を処罰することはない」
たとえ公方様であっても、主君のことを告げ口するなどは……
「公方様であらせられましても、我が主君は与一郎さまであり……」
「わしは藤孝を、あ、愛しておるのじゃ……わしが藤孝を粗略にすることは決してない。信じてくりゃれ」――ボンっ!
さらに顔を真っ赤にする公方様は一途な乙女であり、我ら二人はその恋する乙女な義藤さまの姿に心を奪われ、若殿の悪行を洗いざらい白状することになったのだ。
――回想終り――
「我らは恋する乙女の義藤さまに協力することを心に決めたのです」
「左様、我らは甲斐性の無い与一郎様のケツを蹴り上げてでも、一途な義藤さまの想いを実らせる所存」
「よ、余計なお世話だ! それに誰が甲斐性なしか!」
「あそこまで想われておきながら情けない……」
「このヘタレが」
「て、てめーらわ……」
「明日は大御所の葬儀で久しぶりに義藤さまに逢えるのです。ここはしっかりと義藤さまを慰めなければなりませぬぞ」
「問答無用で押し倒せ」
「そ、そんなことができるか! ボケェェェ!」
二人に変なことを言われまくったためか、
輝きの不如帰 〜細川藤孝に転生したので金の力とハッタリ外交で室町幕府を再興して将軍を我がものにする〜 夏樹とも @natuki-tomo
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