第89話 のんびりと生きます
「なら、効く技を撃ってやろう……死の風よ」
ゴウッ
純粋な死の概念が、俺を吹き抜ける。
「雷よ」
激しい稲妻が、俺を貫いた。
「神秘の槍よ」
純白の光が、次々と俺を貫く。
……そういう事か。
これは恐らく……復活直後の無敵時間。
スタート直後、ちかちかして、敵をすり抜けるモード。
復活直後に殺されたら、やる気失せるもんな。
ルシファーは、混乱している。
狙うなら、今。
人形をしている以上……眉間は急所の筈!
ルシファーに向かい、剣を構えて走る!
「来るな、化け物め!」
ルシファーの周囲に、無数の剣が出現。
次々と飛来、俺を貫く。
血肉どころか、魂の破片すら抉られ。
しかし──
ザンッ
ルシファーの眉間に、俺の剣が突き刺さる。
「馬鹿な……何故、私の身体を貫ける。何故、身体を貫かれた程度で我が生命が。何故……」
ごぼっ
ルシファーが血玉を吐き出し。
絶命する。
……
勝て……た?
「ホダカ……何故勝てたのですか?」
エメラルドが尋ねる。
「分からない。だが……奇跡だ」
くすり
「そう、奇跡……想いの強さ、祈り、精神……人間にだけ許される、最大の武器……理由なんて良い、この結果を喜ぼうよ」
……そう。
「そうだな。今なら……女神様にだって感謝して良い気分だ」
さて、世界を救った訳で……
エメラルドが、ぽつぽつと語る。
「ホダカ、本当に有難う御座いました。本来であれば、世界をあげて、ホダカの偉業を讃えるべきなのですが……申し訳無い事に、みんなはホダカの偉業を知りません……私にできる範囲であれば、何でもするのですが」
え、今何でもするって言った?
「さて、ホダカ殿。どうするのじゃ?元の世界に帰るのかの?」
「そう言えば……帰れるのか?」
「はい。我が王城の設備が残っていれば、ご友人と一緒に、帰還させられる筈です」
ハナが、言いにくそうに、
「それは、まずいかも知れない。ルシファーの強大な力の一部が、ヒタカに流れ込んだようだ」
うん。
レベルが上がった。
「加えて、今まで身に着けた超常のスキル……ルシファー無き今、ヒタカが強制帰還したり、死んで送還されたりすると……この世界のマナが乱れ、世界が崩壊してしまうかも知れない」
え。
「それは……事実なのか?」
<称号『然り』を獲得しました[レベル2倍]>
「……事実らしいな。あと、更に強くしようとするんじゃねえ」
「そうだね。何か解決策が見つかる迄は、この世界でゆっくりしたらどうかな?クラスメート達には先に帰って貰って」
「それが良いかな」
この世界に残る……
ちらり
エメラルドを見ると、頬を染める。
……いけるよな?
俺の勘違いじゃ無いよな?
<称号『おおっと、あと5分以内に元の世界に戻らなければ、元の世界は消滅します』を獲得しました[99,999]>
ちょ?!
「どうした、ヒタカ?」
「いや……システムが、あと5分以内に元の世界に戻らないと、元の世界は消滅するって……」
「……観測、か……ヒタカ、君の存在が強くなり過ぎたんだ。あっちの世界が、情報の欠失に耐えられないのか……」
ハナ、そしてエメラルドが狼狽する。
「つまり……この世界か、ホダカの世界か、どちらかしか救えない……そういう事でしょうか?」
「……くそ、女神め……ここにきて……」
本当に……性格が悪い。
いや、性格が悪いとか、そういう次元じゃ無い。
冷や汗が流れ、鼓動が早くなり、足の力が抜ける……
うう……
エメラルドの嗚咽。
「5分、なのじゃ?それはホダカ殿の世界の、なのじゃ?」
<称号『然り』を獲得しました[99,999]>
「そうらしい」
「ホダカ殿が元の世界に戻るのは、召喚された時点なのじゃ。この世界でどれだけ過ごしても、元の世界の5分後にはならないのじゃ?」
……え。
<称号『然り』を獲得しました[99,999]>
「……そうらしいな。つまり、何の問題も無い」
今のやり取り、意味があったか?!
くそ……
エメラルドとハナが、げんなりした顔になる。
「ホダカ殿。自然にホダカ殿が死ぬ場合……強制送還や、自殺に類する手段で無ければ、マナの解放も緩やかなのじゃ。それなら大丈夫なのじゃ?」
ん?
<称号『然り』を獲得しました[999,999]>
「……大丈夫らしい」
「なるほど……ただ、念の為、新たなスキルの獲得や、大幅なレベル上げ、修行は控えた方が良いかも知れない」
ハナが、頷き、告げる。
なるほど。
さっきからのポイント大量付与は、その為の罠か。
ポイント使いたくなるから、もう見ない方が良いな。
「つまり……俺はこの世界で自然死すれば良いんだな?老衰や、病死か」
それも悪く無い。
「ホダカ殿」
マリア姫が、俺を真っ直ぐに見る。
「妾は、そなたが好きじゃ。妾と共にすごして欲しい」
どきり
真剣な表情で言われると、心臓が破裂しそうになるが。
「ごめん、マリア姫……俺は……」
俺は、エメラルドを見ると、
「エメラルド、俺はお前が好きだ。俺と付き合って欲しい」
「ホダカ!嬉しい……嬉しいです!」
やわ
エメラルドが、俺に抱きついてくる。
「マリア姫……ごめん、俺は、エメラルドが好きだ。だから、貴方とは付き合えない」
くすり
マリア姫が微笑む。
俺の答えが分かっていて、発破をかける為に……そんな気がする。
ごめん、マリア姫。
「仕方ないのじゃ。有限の生を謳歌する者の人生、たかだか数十年は、妾達悠久の刻を持つ者には、瞬きする程の時間よ。ただの、ホダカ殿……エメラルド姫がそなたのもとを去った刻、その後は妾と共にすごして欲しい。それも駄目かの?」
俺とエメラルドが破断。
交際の順番待ち。
破断なんて考えたくはないし……恐らく、その機会は無いと思う。
果たされる事が無い約束。
だが、断る理由も無い。
……随分最低な気もするが。
「分かった、約束しよう。エメラルドが俺のもとを去ったら、マリア姫……君に交際を申し込むよ」
くすくす
「ここに契約は成立したのじゃ。妾は、そなたの唯一無二の相棒。約束するのじゃ。そなたの余生は、妾が常に傍に侍ると」
酷い話だ。
この世界での一生は、エメラルドと共に。
死後は元の世界に戻って、ハナと共に。
だが、マリア姫は、むしろ嬉しそうに微笑む。
……認めるよ。
やっぱり、俺はマリア姫も好きだ。
だが……俺は決めたんだ。
エメラルドだけの勇者でいると。
ともかくも……
エメラルドと共に暮らす生活。
住む場所を決め、仕事を探し……
エメラルドと目があう。
こくり、とエメラルドが頷く。
「では、妾は行くのじゃ。時々、遊びに行くのじゃ」
「僕も……この世界を見て回るよ。災厄達の後始末でも、してみようかな。気が向いたら」
ハナが微笑む。
「有難う、マリア姫、ハナ」
そして、愛しい恋人を向き、
「行こう、エメラルド」
「はい」
行くあては無いけれど。
とりあえず、グロリアスでも目指そうか。
踏み出す。
愛しい人とすごす、長い人生の一歩を。
--
最終ステータス
#########################
名前:
レベル:2176
STR:C
VIT:C
DEX:C
AGI:C
MAG:C
MEN:C
AS:
[ 水属性魔法 Lv.535 ]
❲ 火属性魔法 Lv.494 ❳
❲ 風属性魔法 Lv.214 ❳
❲ 地属性魔法 Lv.192 ❳
[ 鑑定 Lv.947 ]
[ 空間収納 Lv.2126 ]
[ 道具作成 Lv.324 ]
[ 精錬 Lv.315 ]
❲ 薬品調合 Lv.994 ❳
❲ 薬品投擲 Lv.394 ❳
❲ 罠設置 Lv.2136 ❳
❲ 罠解除 Lv.1269 ❳
[[ MAP Lv.272 ]]
[[ 禁忌・存在壊変 ]]
PS:
[ 剣修練 Lv.4346 ]
❲ 縮地 Lv.256 ❳
❲ 陽炎 Lv.235 ❳
❲ 剛剣 Lv.3872 ❳
❲ 貫通 Lv.4143 ❳
❲ 聖剣 Lv.1222 ❳
❲ 聖鎧 Lv.3253 ❳
❲ 魔法抵抗 Lv.4893 ❳
❲ 状態異常抵抗強化 Lv.118 ❳
[ MP回復強化 Lv.1422 ]
[ 最大MP強化 Lv.1237 ]
[ 感知 Lv.2223 ]
[ 高速詠唱 Lv.978 ]
❲ 罠発見 Lv.2013 ❳
[[ 天才錬金術師 ]]
[[ 業罠師 ]]
[[ 鍛冶神 ]]
[[ 不老 ]] (帰還特典)
[[ 不死 ]] (帰還特典)
[[ 不病 ]] (帰還特典)
[[ 不傷 ]] (帰還特典)
[[ 不滅 ]] (帰還特典)
[[ 天運 ]] (帰還特典)
リザーブ:
装備:
ミスリルの長剣
ミスリルの円盾
ミスリルの鎖帷子
SP:1,299,996 [レベル2倍]
称号:
たくあん
#########################
*******
お付き合いくださり、有り難うございました。
【21万PV】クラスごと異世界転移、無能者として廃棄されたので、のんびりと生きます。 赤里キツネ @akasato_kitsune
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