第20話 だから僕は距離を置く

「好きなのに…」

 逢えばイラつく…解っている、彼女にイラつくというより、自分にイラつくのだ。

 結局は金で買っているだけ、それが解っているからこそ僕は自分にイラつく。


 もう逢わない…そう思いたくて、僕は彼女に逢う。

 これで最後にしよう、いつも彼女を送ると、いつもそう思う。

 でも…家に帰ると、彼女に逢いたくなる。

 考えないようにしよう、そう考えている時点で僕は彼女の事を考えている。

 馬鹿な話だ。


 他に好きな人でも…

 いや、別に他の風俗嬢でも同じ、少なくても彼女といるよりイラつきはしないだろう。

 なんで彼女でなければならないのだろう。


 誰でもいい…気持ちが無ければ誰でもいいはずなのに…。


「逢いたい」


 愛しているのだろうか?

 きっと違う。


 仮に僕に遊んで暮らせるほどの金があっても、僕は彼女と結婚はしないだろう。

 いや、誰ともしないと思う。


 じゃあ一緒に暮らせるか?

 それもできない。

 僕は彼女といるとイライラするから…。


 だから、きっと愛しているわけではない。

 ただ好きなだけ…。


 それだけ…

 幼く拙い…ゆえに無垢な好意。


 つまらない気持ちを抱いたまま、ただ今日も逢いたいと思うだけ。

 連絡もしない…こない…それでいいのだと思う。


 逢いたいと思い続けて、逢って…逢わないと誓う。


 僕は、きっとソレを繰り返す。

 思い、逢って、失望して…また思う、永遠に終わらない円舞曲を折れた足を引きずり踊る、人はソレを見て笑うのだろう。


 滑稽で無様、あるいは不気味か…穢れた舞台からは死ぬまで降りれない。

 人に笑われるだけの愚かな日々を僕は選んだ。


 きっと彼女は、いつか誰かと幸せになるだろう、僕はそのとき…笑えるのかな?


 笑いたいな…もう無様に踊るのは嫌なんだ。

 だから…笑いたいな。


 もう…動けなくなるまで、足が壊れるまで…心が壊れるまで…


 壊れなければ…愛せない人がいる。


 僕は、壊れたいだけなんだ。

 だから逢わない…だから逢いに行く…ただ、壊れるために、ただ愛するために…。

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遍歴 桜雪 @sakurayuki

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